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ダンジョン最底辺の芋虫に転生した俺は、寄生能力で美少女を支配する  作者: 葉月


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第22話 円卓会議

 冒険者ギルドの最上階。重々しい両扉の向こう側にある大会議室は、冷え切った緊張感に支配されていた。


 円卓を囲むのは、今回の『ダンジョン再攻略』に名を連ねた手練れたちだ。


 上座には、この街のギルドを取り仕切る巨漢、ギルドマスターが岩のように座っている。その隣には、無表情のまま書類を整理する受付嬢、セリーヌ。


「……集まったようだな」


 ギルドマスターの地響きのような声が、室内の私語を断ち切った。


「今回の任務は、もはや一都市の依頼ではない。領主ボッテガヴェネタ卿、ひいては国からの特命だ。先の【朝焼けの翼】の壊滅……あれは事故ではない。ダンジョンそのものの変異、あるいは未知の脅威の出現と判断された。よって、本攻略をもって当該エリアの完全封鎖、もしくは心臓部の破壊を命ずる」


 室内がざわめく。ベテランの冒険者たちが顔を見合わせた。


 かつての稼ぎ場だったダンジョンを「潰せ」という命令。それは、この街の経済構造すら変えかねない一大事だ。


「……冗談だろ。あそこはまだ資源が眠ってる。封鎖なんて納得いかねぇ」

「朝焼けが全滅したような場所に、なんで俺たちまで駆り出されるんだ?」


 不満を漏らすのは、ガラの悪い冒険者たちだ。その矛先は、当然のように「異質な参加者」へと向けられる。


「ギルドマスター! 納得いかないのはメンツもだ。……なんでその追放令嬢と、全滅させられた張本人のシャネルがここにいるんだ? 足手まといどころか、死神だぜ、こいつらは」


 男の指が、エルメスとシャネルを指差す。

 俺はエルメスの意識の端っこで、静かに相手を観察した。


 ……典型的な、リスクを他人のせいにして逃げ道を作っておきたい中間管理職だな。

 さて、エルメスちゃん、出番だぜ。格の違いってやつを見せつけてやろうぜ。


 俺はおっさんとしての思考を仮面の裏に隠し、完璧な悪役令嬢を降臨させた。


「……ふふ、(わたくし)の顔を見てそんなに吠えるなんて。皆様、よほど余裕がございませんのね? 王立魔法学校で学んだ魔導知識の片鱗すら、皆様の筋肉だるまの脳髄には届きませんかしら」


 エルメスが扇子で口元を隠し、冷たく言い放つ。

 その高慢な立ち振る舞いに、男たちが激昂し、椅子を蹴立てる。


「あぁ?」

「てめぇ、この尼……っ!」

「もういっぺん言ってみやがれッ!」


「そこまでです!」


 鋭い声が、暴発寸前の空気を切り裂いた。セリーヌだ。

 彼女は座ったまま、氷のような視線で一同を射抜いた。


「エルメス=バーキンの参加は、彼女の持つ魔導学の知見をギルドが正式に要請したものです。そしてシャネル=ココハンドルは、現地の地形と構造を最も熟知しています。……何か、論理的な反対意見はありますか? なければ、その口を閉じなさい」


 セリーヌの背後にある「何か」に当てられたのか、男たちが毒気を抜かれたように着席する。


「……実務的な指揮は、今回の主力である【紅蓮】に一任する。アルエル、頼めるな?」


 ギルドマスターに促され、胡散臭ぇ優男が立ち上がった。

 こいつが勇者候補、アルエル……か。セリーヌから聞いていた通りの野郎だな。


 女ウケしそうなさらさらの赤髪に、左目にはこれまた女ウケが良さそうな泣きぼくろときた。典型的な優男DV&モラハラ男の特徴をこれでもかってくらいに詰め込んだ野郎だ。


 俺の直感が告げている。こいつは絶対に性格が悪い。というか、悪くあれ! 顔良し、性格良し、実力良し。そんなのは神が許しても俺が許さねぇ。


 ご自慢の赤髪をかき上げ、アルエルはキザったらしく、柔らかく微笑んだ。


「皆さんも、どうか落ち着いて。エルメス嬢も、少し言い過ぎだよ」


 その爽やかな声に、冒険者たちは「チッ、いい子ちゃんが……」と、不愉快そうに鼻を鳴らす。


 若くて実績のあるアルエルは、泥臭い冒険者たちにとって最も鼻につく存在だ。


「僕たちは、これから共に仕事をする仲間だ。……ここに居るみんなは、選ばれた特別な英雄なんだと思う。……少なくとも、僕はそう信じている」


 アルエルがそう告げた瞬間――。


 エルメス()の肌が、不自然な粟立ちを感じた。


 ……なんだ、この感じ。


 魔法ではない。魔力の奔流も感じない。だが、空気が……変わった。


 アルエルの言葉が響いた直後、さっきまで反感を隠さなかった冒険者たちの目が、急激に虚ろになっていく。


「……あ、ああ、そうだ。俺たちは選ばれたんだ」

「アルエルの言う通りだ。みんな協力しなきゃな、ハハハ……!」


 ……おかしい。


 さっきまであれだけ反発していた連中が、一瞬で変わった。まるで別人みたいに。


 俺はアルエルを凝視した。表情は穏やか。魔力の流れもない。それなのに、この部屋の空気は完全に奴の手の中にある。


 ……こいつ、何かしやがったな。


 思い当たることがある。前の会社で、無理難題を『夢』って言葉ですべて正当化してた、あのカリスマ気取りの若手社長(サイコパス野郎)と同じ手口だ。異論を許さない同調圧力を、言葉だけで強制的に生成する。


 ……ま、俺には関係ないけどな。


 俺は冷ややかな笑みを張り付かせたまま、アルエルを凝視した。

 彼は満足そうに頷き、まだ名乗ってもいない仲間に視線を送る。


「紹介する、彼らは僕の信頼する仲間だ。……ガストン、ヴァイオレット、ネネ」


 名を呼ばれると、紅蓮のメンバーがそれぞれ動きを見せた。


 ガストンという男は、黒鉄の『銃』を愛おしげに布で拭い続けている。視線は一度もこちらを向かない。だが、俺は見逃さなかった。彼が伏し目がちに拭う銃の照準の先が、不自然に、執拗に、エルメスの脚のラインをなぞっているのを。


 ……あ! こいつ、職人面してるけど、視線の使い方が完全に『痴漢魔』のエロガッパじゃねぇか。鼻の穴が微かに膨らんだのを、俺は見逃さない。こいつは間違いなくむっつりだ。


 続いて、クールな美女ヴァイオレットが優雅に一歩踏み出し――。


 ――ガクッ、と盛大に膝を折った。


「あっ……!」


 何もない、磨き抜かれた床の上で、彼女は漫画のように派手に転んだ。その拍子に、彼女のスカートがふわりと舞い、純白の下着が露わになる。


 ……いや、おかしいだろ! 一体どこに転ぶ要素があったんだよ。 ……って、ガストン!? お前、なんで鼻血出してんだよ! エロ免疫無さすぎるだろ。こりゃ童貞確定だな。


「……ネネ、そういうのいらない。人は(ケダモノ)。結界の中は安全。ネネは結界(ここから)出ない」


 その光景を、巨大な杖を持った少女――ネネが、半透明の結界の中から冷めた目で眺めていた。


 何なんだ、このパーティ。


 ……腹黒サイコパスに、むっつり童貞、ようわからんドジっ子、そして引きこもり。

 ……まともな奴が一人もいねぇじゃねぇか。こんなのが本当に勇者候補のパーティなのか?


 俺は、エルメスの背筋を伸ばし、扇子を強く握りしめた。


 本当に、こんな奴らで大丈夫なのか?


 旧ダンジョンを使ったダンジョン攻略とはいえ、紅蓮が弱過ぎるなんてことになったら、コアを破壊したとしても、エルメスの評価が微妙になってしまうのでは……。


 やばい。不安しかない。



 ◆



 ……うーん。想像以上に、この"紅蓮"って連中の実力が不安になってきたな。


 俺はエルメスの仮面の裏で、冷や汗を拭いたい衝動に駆られていた。


 アルエルの"謎の力"――事前にセリーヌから渡された報告書を確認する。アルエルの職業(クラス)欄には"話術士"と記載されていた。


 ……話術士、か。


 となると、先程のあれは話術士のスキルによる効果だったのだろう。

 話術による同調圧力は確かに強力だ。だが、それ以外のメンバーがこれだ。視線はむっつり童貞、謎のドジっ子、引きこもりへと向けられる。


 実力は未知数だが、ギルドマスターがこれほど信頼を寄せるAランク冒険者だ。弱いということはないだろう。


 ま、仮に弱くても俺の計画には支障はない。紅蓮の役目は、あくまでエルメスちゃんを英雄にするための舞台装置。それ以上でも、それ以下でもない。


「……さて。パーティの紹介も済んだところで、具体的な進軍ルートを確認しようか。セリーヌさん、例の地図を」


 アルエルの促しに、セリーヌが無機質な手つきで円卓の中央に大きな羊皮紙を広げた。

 それは、シャネルが命からがら持ち帰った情報(本当は俺が渡したダンジョン情報)と、ギルドが保有する旧データを統合した最新のダンジョンマップだ。


「……あ」


 ガストンが、鼻血を拭った袖で、机の上の地図を指差した。


「……この、第3層の分岐。……直線距離がかなりある。……俺の"獲物"にうってつけのポイントだ」


 ガストンが愛おしげに撫でたのは、この世界では見慣れない"銃"だった。

 俺は、エルメスとして一歩身を乗り出し、その鉄塊を凝視する。


「あなた、ガストンだったわね。その"魔道具"、少し拝見してもよろしいかしら? 王立魔法学校の文献にもない、非常に興味深い造形ですわ」


 エルメスの艶やかな声に、ガストンは一瞬だけたじろいだ。

 彼は視線をエルメスの首筋あたりに固定し、無言で銃を差し出してきた。


 やはりこいつ、コミュ障ヲタクだな。友人の坂本と同じニオイがしたんだよな。


「……さ、触るな。……ぼっ、ぼぼ、暴発する」


 手に取ってみると、ずっしりと重い。

 火薬の匂い。そして、明らかに『ネジ』や『スプリング』といった、この世界の鍛冶技術では到達し得ない精密な部品の数々。


 ……間違いない。

 これはマグナムリサーチBFRを元に設計された銃だ。

 これを作った"先客"は、相当な知識を持っていたに違いない。


 ……ん?


 シリンダーの回転を支える軸が僅かに歪んでいる。劣化か? 何より火薬の調合が甘い。今のままでは、不発か、最悪破裂する。


「素晴らしい一品ですわ。これ程の魔導具をどちらで?」

「……モ、モンスターが持っていた」

「モンスターですか?」

「い、以前……その、え、遠征で訪れたダンジョンの、モ、モンスターが持っていたんだ」


 ここではない、別地域のモンスター。そいつは恐らく、ヴァールが言っていた転生者――魔王候補で間違いないだろう。


「……素敵ですわ。ですが、少し手入れが不十分ですわね」

「そ、そんなことはない! い、いつも磨いている!」


 磨くだけが手入れじゃないだろ。こういう無知な輩を見ているとイライラするところは、前世(人間)だった頃と変わらんな。


「この……シリンダーの"遊び"をあと0.5ミリほど詰めれば、魔力のロスが減り、命中精度が劇的に上がる気がいたしますわ。……あと、装薬の比率。硝石をあと一割増やせば、もっと鋭い一撃になるのではなくて?」

「………………ッ!?」


 ガストンが、今日一番の勢いで顔を上げた。

 その瞳に、初めて“女への欲情”ではない、銃士(ガンマー)としての“驚愕”が宿る。


「……な、なぜ……それを……。……貴女が?」


 おっと、つい口が滑った!

 おっさん、こう見えても華の独身貴族だったもんで、金と時間だけは有り余っていた。

 二十代の頃は週末になると、ミリヲタたちと日夜戦争(サバゲー)に明け暮れていました、なんて言えねぇよな。言ったところで通じるわけないけどさ。


「――オーホッホッホッ。(わたくし)を誰だと思っているのかしら? 理由あって実家を離れている身ではありますけど、伯爵(バーキン)家の人間ですのよ? (わたくし)が魔銃を見たことないとでも?」


 俺は扇子で顔を隠し、高らかに笑って誤魔化した。

 アルエルがそのやり取りを、糸のように細めた目で見つめている。


 おいおい、なんだよその目は。

 なんか……苦手なんだよな、この青年実業家みてぇなホクロ野郎。


「何か?」

「……先程、王立魔法学校の文献にもないと言っていたので、てっきり銃を見るのははじめてかと……」


 鋭いっ!


「王立魔法学校の文献に記載されていないのは事実ですわよ。……ですが、だからと言って、(わたくし)が見たことないことにはなりませんわ」

「……なるほど。確かにそうだね」


 そう言って、アルエルは柔らかく微笑んだ。だが、その一瞬だけ――笑みの奥にある目が、まったく笑っていなかった。値踏みするような、冷たい光。それはほんの一瞬で消えたが、俺は見逃さなかった。


 ……やっぱり、こいつは苦手だ。


「やはり、貴族というのは、我々の知らない情報を持っているものだね。勉強になったよ。君さえ良ければ、もう少しその銃を見てやってはもらえないかい?」

「それは、構いませんけど……」


 俺としても銃をいじるのは嫌じゃない。……いや、むしろ久々にいじりたい衝動に駆られていたりする。


「ガストンさんはよろしいので? (わたくし)に大切な武器をいじられるのは、あまり気持ちの良いことではありませんでしょ?」

「……お、俺は構わない。む、む、むしろ、貴女にい、イジられたいッ!」


 どこ押さえながら言ってんだよッ!


「ガストンの武器はこのパーティの要なんだ。でも、メンテナンスが難しくてね。……君の知識があれば、鬼に金棒だ」


 アルエルはそう言って、地図の深部――"偽コア"が設置されているポイントを指差した。

 情報提供者は俺だ。


「ここが、今回の目標地点になる。……そこでシャネル、前回ダンジョンに訪れた者の意見を聞きたい。ここまでの道中で最も警戒すべきポイントは?」

「……第4層の【蜘蛛の巣】エリア。あそこは物理的な罠と、精神に作用する毒が充満している。……あと、アラクネがいる」

「アラクネか。……ギルドの報告書を読ませてもらったんだが、君たち朝焼けの翼を壊滅に追いやったのは、謎のモンスターとの遭遇と書かれていたはずだ」

「そう。あれは未知のモンスターだった」

「うん。だとしたら、警戒すべきポイントは別にあるんじゃないのかな。そもそもアラクネのモンスター評価はB+。Cランクの君たちが勝てなかったのも納得だ。だけど僕たち紅蓮はAランク冒険者だ。アラクネ程度には遅れを取らないよ」

「……アラクネ。だけど、少し違う」

「少し違う?」


 眉根を寄せたヴァイオレットが、アルエルへと視線を向けた。


「どういうこと?」

「わからないから、ギルドには謎のモンスターと報告した」

「つまり、一見アラクネに似ているけど、アラクネではないモンスターだったってこと?」

「そう」


 当然、すべて嘘である。

 これは俺が書いた台本。

 朝焼けの翼が芋虫軍団に奇襲されて壊滅しました。なんて馬鹿正直に報告はしない。朝焼けの翼はダンジョン内で謎のモンスターに殺され、シャネルは命からがら逃げ延びたということにした。


 そこで今回は、この謎のモンスター役をアラクネクイーン(ゾンビ)さんに演じてもらうことにしたというわけだ。


「あれは多分、B+以上の化物だと思う。……貴方たち紅蓮に先陣を切ってもらうのが、一番確実だと思う」


 シャネルの言葉に、アルエルは深く頷く。


 俺の脳内では、すでにエルメス英雄計画が進行している。


 紅蓮の実力については未知数だが、あのアラクネクイーンが相手となれば、さすがのAランクパーティでも、必ず苦戦を強いられるはずだ。

 そこで真の力を解き放ったエルメスが魔法でアラクネクイーンを倒し、ダンジョンコアを破壊する。


 勇者候補と言われる紅蓮のリーダー、アルエルでも手こずった怪物を倒したとなれば、まさにエルメスは英雄である。仮に紅蓮の実力が本物で、アラクネクイーンを圧倒してしまったとしても、最終的にエルメスがダンジョンコアを発見して壊せればいい。この場合、セリーヌを使ってダンジョンコアの破壊を行ったエルメスを、討伐作戦、第一功労者として持ち上げる。


 ぐふふ。

 完璧だ。

 俺の計画に抜かりはない。


「……では、もうよろしいですわね? 作戦の細部は、(わたくし)が魔導的な観点から再構築させていただきますわ。……シャネル、行きますわよ」


 俺はエルメスの背筋を伸ばし、大会議室を後にした。

 背後で、アルエルが「頼もしいね」と爽やかに笑う声と、ガストンが鼻血を拭う音が聞こえた。


 仮に紅蓮や冒険者(こいつら)が弱くて全滅したとしても、作戦に支障はない。大事なのは、Aランクパーティ――勇者候補と呼ばれる紅蓮が成せなかったことをエルメスが成すということにある。


 精々、こいつらには最高の踏み台になってもらおうじゃねぇか。


 ――ただし。


 あの値踏みするような目が、脳裏にちらついて離れない。アルエルが本当に『笑顔のサイコパス』なら、こっちが踏み台にしようとしている間、向こうも俺たちを何かに使おうとしているはずだ。


 ……まあ、いい。利用し合うなら、先に利用し切った方が勝ちだ。

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