海辺の告白
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夕暮れのテセラ海は、赤と紫の境界線で空を二つに割っていた。
カエルはルーナを海岸に連れてきた。大学の裏門を抜けて、石段を降りた先の浜辺。学生が来る場所ではない。波が砂を舐め、引いていく。その繰り返しだけが、二人の間を埋めていた。
カエルは靴を脱いで砂の上に座った。ルーナも隣に腰を下ろす。海風が妹の髪を揺らした。
「ルーナ。落ち着いて聞いてくれ」
ルーナがカエルを見た。「何?」
その目の中に——不安がある。昨日の食卓でカエルが「話がある」と言った時から、妹の中で何かが準備を始めている。だがルーナが想像しているものと、カエルがこれから言うことは——全く違う。
「母さんの暗号メモのことは、知ってるな」
「……うん」
「あのメモの原本を手に入れた。村の遺跡から。母さんが封印を施して隠していた」
ルーナの目が少し開いた。「原本……」
「解読した。全部じゃないが——大部分を。その中に——『フクロウへ。あなたには渡せない』と書かれていた。相手は、かつての大学の同僚の誰かだ」
沈黙。
波が砂を一枚剥がし、泡を残して引いた。
「……それだけ?」
「いや」
カエルは膝の上で手を組んだ。視線を海に向けたまま——順番に話した。
海人族の商人が目撃した「フクロウの紋の馬」。長老たちが語った「フクロウと呼ばれる大学の男」。廃都の文書館の消された名前と、大学に残された古い申請書の筆跡が一致したこと。母の死の前後で、大学の共同研究者たちが不自然に消えていること。
そして——『フクロウ』は師匠の過去の同僚たちの中に隠れている可能性が高いこと。
「全ての証拠が、『フクロウ』という一人の人物を指している」
カエルは一度、息を吸った。
「そのフクロウの手がかりが——師匠の『鍵の部屋』にあるかもしれない。母さんの遺したノートも、そこに保管されているはずだ。だから——」
ルーナを見た。
「——師匠に内緒で、あの部屋に忍び込む」
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ルーナの顔から——色が消えた。
夕日の赤い光の中で、妹の肌が蝋のように白くなるのが見えた。唇が微かに動いたが、音にならない。
長い沈黙。
波が三回打ち寄せて、引いた。
「……嘘」
声が掠れていた。
「嘘だよ、兄さん」
「ルーナ」
「お師匠様を騙して……部屋に忍び込むなんて? そんなこと——」
ルーナの声が途切れた。唇が震えている。目に溜まった涙がこぼれ、夕日の光に赤く染まった。
波が打ち寄せて、引いた。
カエルは何も言えなかった。用意してきた言葉が、全て砕けた。妹の涙の前で、証拠も論理も——何の意味もなかった。
ルーナが、カエルを見た。
揺れる瞳の奥に——怒りではなかった。もっと深い何か。世界の底が抜けたような、足場を失った者の目。
「兄さんは——お師匠様を裏切るの?」
その声が、波の音と共にカエルの胸を貫いた。




