頂の戦い
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聖光の剣が、空気を裂いた。
カエルは横に跳び、風の壁を展開した。アウレリウスの斬撃が壁に当たり、白い光と風が衝突して火花が散った。
闘技場の砂塵が渦を巻く。観客席の歓声が、遠い波のように聞こえた。
アウレリウスは容赦しなかった。聖光の剣を振り抜いた直後、左手で盾を展開し、盾ごと突進してきた。カエルは後退しながら水の鞭を左右から打ち込んだが、アウレリウスの盾が回転し、両方を弾く。
速い。
純粋な教会魔法の練度なら──やはりアウレリウスが上だ。
カエルは距離を取り、戦術を切り替えた。精霊魔法で地面に手を触れ、石畳の下の水脈に意識を潜らせた。微精霊が応じ、闘技場の床全体が薄い水膜に覆われる。
「足場を変えたか」
アウレリウスが水膜の上に踏み込んだ瞬間、カエルは水を凍らせた。アウレリウスの足が滑る──が、即座に聖光を足裏に集中させ、氷を砕いて体勢を立て直した。
互いの手を知り尽くしている。訓練で百回は繰り返した攻防だ。だからこそ、既知の技では決着がつかない。
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闘技場の観客席で、マグヌスが身を乗り出していた。学者の目──知的興奮の光が、老人の瞳に灯っている。
カエルはそれに気づかなかった。意識のすべてが、目の前の友に注がれている。
アウレリウスが仕掛けた。
聖光の剣を手放し──剣が空中で分裂した。三本の光の槍となり、別々の軌道でカエルに襲いかかる。同時に、アウレリウス自身が右手に新たな聖光を凝縮し、至近距離に踏み込んだ。
四方向からの同時攻撃。
カエルは風の壁で上からの槍を弾き、水の盾で左右を受け止めた。だがアウレリウスの右手の光が──盾の隙間を突いて迫る。
その瞬間、カエルの中で何かが繋がった。
精霊魔法の風と水が、教会魔法の微念と共鳴する。右手の精霊魔法と左手の教会魔法が──二つの流れではなく、一つの渦になった。
即興だった。訓練でも、研究でも、一度もやったことがない。
カエルは両手を前に突き出し、精霊魔法と教会魔法の同時詠唱で、ひとつの複合術式を編み上げた。
風と聖光が螺旋状に絡み合い、透明な光の嵐となって闘技場の中央に渦巻いた。空気そのものが輝き、水膜が光の粒子となって舞い上がる。
アウレリウスの右手の聖光が──その渦と正面からぶつかった。
一瞬の拮抗。
そして──爆発。
白い光と透明な風が同時に弾け、闘技場の防護結界が軋んだ。砂塵と光の粒子が渦を巻き、観客席の前列が腕で顔を覆った。
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煙が晴れたとき、二人は闘技場の両端に立っていた。
カエルは膝に手をつき、荒い息をしていた。全身の魔力が絞り尽くされている。指先の感覚がない。
反対側で、アウレリウスも片膝をついていた。白い法衣が焦げ、右手から薄く血が滲んでいる。
審判が闘技場の中央に歩み出た。
「──両者、戦闘続行不能。引き分けとする」
一瞬の沈黙。
そして──爆発的な歓声が闘技場を包んだ。
カエルは立ち上がり、アウレリウスの方へ歩いた。アウレリウスも同じだった。
闘技場の中央で、二人の手が握り合った。
「次は負けない」
「こっちの台詞だ」
二人は笑った。
観客席の興奮が嵐のように渦巻いている。学長グレゴリウスが立ち上がって拍手し、マグヌスは──万感の表情で、二人を見つめていた。
カエルの心の中には充足があった。全力を出し切った清々しさと、対等な相手がいることの幸福。
原力は──使わなかった。使う必要がなかった。今の自分にできるすべてを出し尽くして、それで十分だった。




