決闘祭
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アウレリウスが留学してきてから、あっという間に二年という月日が流れた。
カエルが二十歳になった年の秋、ヘスペリア大学の年次学術決闘大会が始まった。
ルクスの聖騎士団からの監視の目は厳しかったが、アウレリウスは「異端の決定的証拠を掴むため」という大義名分を盾に本国からの追及を巧みに凌ぎ、カエルと共に平穏な学園生活の時間を守り抜いていた。
四年前、嵐の鎮圧で初めて学長に名を覚えられてから、カエルの日常は加速度的に変わった。講義助手、対外訓練、学院間交流戦、後輩指導。勝ち負けの記録だけでなく、誰を守るために力を使うのかを問われ続ける年月だった。
大闘技場は円形で、石段の観客席が擂り鉢状にそびえている。テセラ海から吹く風が砂塵を舞い上げ、結界術師たちが闘技場の周囲に防護陣を展開していた。
カエルは控え室で腕を組み、壁にもたれていた。
大会は六十四人のトーナメント制。カエルとアウレリウスは別ブロックに振り分けられている。決勝で当たる配置だ。
「狙ったな、組み合わせ」
控え室でアウレリウスが苦笑した。白い法衣の上に大会用の防護布を重ねている。
「観客が望むんだろう。混血の両系魔法使いと、ルクスの聖騎士候補。絵になる」
「お前、嫌じゃないのか」
「見世物は慣れた」
カエルは肩をすくめた。
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初戦。
相手は精霊魔法専攻の四年生だった。
カエルは精霊魔法のみで戦った。
理由は単純だ──どちらか一つでも勝てることを、証明したかった。
開始の号令とともに、相手が火球を三連射してきた。カエルは風の壁を張り──火球を逸らすのではなく、回転する気流に巻き込んで勢いを殺した。火が空中でほどけ、橙色の粒子になって散る。観客席からどよめきが上がった。
カエルは地面に手のひらを向けた。微精霊が応じ、石畳の隙間から水が噴き出す。水が蛇のようにうねり、相手の足元を絡め取った。
「降参か?」
相手はうなずいた。
二戦目。
教会魔法専攻の五年生。今度はカエルが教会魔法のみで戦った。
聖光の盾を前面に展開し、相手の術式を正面から受け止める。微念の密度を上げ、盾の表面を硬化させた。相手の攻撃が弾かれるたびに、観客席の感嘆が大きくなった。
カエルは盾を解き、聖光を三本の槍に再構成した。
同時発射。三方向から相手を挟み込み、回避を封じた。降参。
三戦目、四戦目も、系統を使い分けて勝った。
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別ブロックでは、アウレリウスが圧倒的だった。
観客席のざわめきが、その勝ち上がりのたびに大きくなる。聖光の白い輝きが闘技場を満たすたびに、ルクスの聖騎士の実力が衆目に晒される。
カエルは控え室から、アウレリウスの準決勝を眺めた。
相手は教会魔法と精霊魔法の両系を使う──カエル以外で唯一の両系統使い、六年生のフェリクスだった。だがアウレリウスは純粋な教会魔法だけで──力押しではなく、精密な結界操作と聖光の運用で──フェリクスを五分で降した。
圧倒的だった。
カエルの口元に笑みが浮かんだ。
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決勝。
闘技場の中央で、二人は向かい合った。
観客席は満員だった。学生も教授も、街の住民さえ集まっている。学長グレゴリウスが貴賓席から見下ろし、マグヌスがその隣で腕を組んでいた。
アウレリウスが聖光の剣を構えた。白い光が闘技場の空気を震わせる。
カエルは両手を下ろしたまま、相手の目を見た。
「全力で来い」
「言われなくても」
開始の号令が鳴った。




