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原力の殉教者  作者: とりまな
第2章 師のもとで
35/46

連携

――――――――――――


 共同訓練は、二人の戦い方を根本から変えた。


 毎朝、講義前の一時間。訓練場で互いの弱点を突き、互いの動きを覚える。カエルの精霊魔法はアウレリウスの光の盾に阻まれ、アウレリウスの聖光の剣はカエルの風壁に弾かれる。


 最初は消耗戦だった。だが一週間もすると、互いの呼吸が読めるようになった。攻撃のタイミング、防御の隙、詠唱の癖。相手を知り尽くすということは、相手と共に戦えるということでもある。


 ある朝、マグヌスが訓練場に現れた。


「二人に課題がある」


 師匠の手に、羊皮紙の地図が広げられていた。大学近辺の地下水脈の図だ。


「この地下水脈のマナの澱みを浄化してほしい。近隣の井戸水に微精霊の過剰干渉が出ている」


「マナの澱み?」


「微精霊が水脈のある地点に滞留し、循環が解放されていない。精霊魔法の浄化と、教会魔法の聖別を同時に行う必要がある──つまり、二人でなければできない仕事だ」


 カエルとアウレリウスは顔を見合わせた。


――――――――――――


 大学の東側、石段を降りた先に地下水脈への入り口があった。


 苔むした石壁の間を、冷たい水が流れている。松明の代わりに、カエルが精霊魔法で光球を浮かべ、アウレリウスが聖光の灯火を掲げた。二つの光──青白い精霊の光と、暖かい聖光が、地下通路を二色に照らす。


「ここか」


 水脈の合流点に、澱みがあった。水面に薄い膜のような光が浮かび、微精霊が密集して渦を巻いている。通常なら流れていくはずの微精霊が、ここに滞留して循環を阻害していた。


「俺が精霊語で微精霊に語りかける。お前は聖別の祈祷で水脈の流れを清める。──同時にやるぞ」


「了解した」


 カエルが精霊語を紡ぎ始めた。古代語の基底を持つ、優しい旋律。滞留した微精霊に「流れて良い」と伝える。


 同時に、アウレリウスが典礼語の祈祷を唱えた。聖別──微念の清浄な波が水脈に流れ込み、澱みの核を洗い流す。


 二つの力が重なった瞬間、水面が光った。


 精霊魔法と教会魔法が、反発するのではなく──補い合った。微精霊への語りかけが流れを作り、聖別が流れを清める。二つの力が一つの動きとなって、澱みを解消していく。


 カエルの体の中で、二つの回路が──初めて、他者の力と同期した。


 これまでは一人で二つの系統を操っていた。だが今は、精霊魔法を自分が担い、教会魔法を信頼できる者に委ねている。それぞれが全力を出せる。一人で二つを半分ずつ使うより、はるかに強い。


 水脈が清まった。微精霊が澱みから解放され、光の粒となって流れに乗っていく。水面の膜が消え、透明な水が勢いよく流れ始めた。


「……二人で一人の両系魔法使い、か」


 アウレリウスが呟いた。手についた水滴を法衣で拭いながら。


「教会魔法と精霊魔法は、一緒に使った方が強いのかもしれない」


 その言葉に、カエルは何も言わなかった。だが──同意していた。今の体験が理論を裏付けている。二つの系統は対立するものではなく、本来は協調するものだ。


 地上に戻ると、マグヌスが待っていた。


 二人を見る師匠の表情が──カエルにとって、記憶に残るものだった。


 感動している。


 学者としての純粋な感嘆が、マグヌスの顔に浮かんでいた。二つの系統が完璧に連携する光景を目撃した者の、抑えきれない光。


「素晴らしい。……学術的にも非常に興味深い」


 マグヌスの声は静かだったが、震えを含んでいた。


「協力の結果がこれほどの効果を生むとは。理論上の予測を遥かに超えている」


 カエルはアウレリウスと目を合わせた。アウレリウスが肩をすくめ、カエルが小さく笑った。


 友情が──日常の一部になっていく。それは、カエルがこの街に来てから初めて経験する感覚だった。

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