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原力の殉教者  作者: とりまな
第2章 師のもとで
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白い聖光

――――――――――――


 カエルが十八歳になった年、大学での生活は五年目を迎えていた。


 教授陣からも一目置かれる存在になり、講義室では最前列でなく教壇の隣に立つことも増えた。精霊学と神格構造学の両方で筆頭研究助手の地位を与えられ、学内の術式実験には欠かせない人材になっている。「両系魔法使い」の名はヘスペリア国外にも知れ渡り、遠い国から手紙が届くこともあった。


 ルーナは十六歳。精霊学部の俊才として独自の地位を築き、微精霊との親和性に関する独自の観察記録が教授陣の間で回覧されている。


 だが──カエルに同年代の友人は、依然として一人もいなかった。


――――――――――――


 訓練場で一人で練習していたのは、午後の講義が終わった後だった。


 大学の訓練場は円形の砂地で、石壁に囲まれている。カエルは精霊魔法と教会魔法の切り替え速度を鍛えていた。風の刃を放ち、即座に光の結界に切り替え、さらに水の槍──。


「君が噂の両系魔法使いか」


 声がした。


 訓練場の入口に、白い法衣の青年が立っていた。


 カエルと同年代──十八か十九。金の髪を短く刈り上げ、青い目が強い意志を湛えている。背が高く、姿勢が正しい。白い法衣は西方ルクスの聖騎士候補生の正装だった。


「私はアウレリウス。西方ルクスから来た」


 硬い声だった。友好的とは言えない。だが敵意でもない。品定めするような、冷静な目。


「カエルだ」


「知っている。噂は聞いた。精霊暴走事件、港の嵐──教会魔法と精霊魔法を同時に使う術者がいると」


 アウレリウスが一歩、訓練場に入った。


「教会魔法の使い手が精霊魔法を使うのは、ルクスの教義では禁じられている。知っているか?」


「ここはルクスの管轄じゃない」


 カエルの返答に、アウレリウスの眉が僅かに動いた。


「……そうだな。ここは東方教会だ」


 沈黙が落ちた。二人の間の空気が、静かに張り詰める。


 アウレリウスが法衣の袖を捲った。手首に聖紋のような刺青がある。


「一つ、見せてもらっていいか」


「何を」


「お前の教会魔法を。本物かどうか、この目で確かめたい」


 カエルは一瞬だけ考え──そして、動いた。


 典礼語の祈祷句を唱え、光の結界を展開する。アウレリウスの目が見開かれた。


「──これは」


 確かめるまでもなかった。テウルギアの正統な光。微念の清浄な波動。紛れもない教会魔法だ。


 アウレリウスの手が動いた。


 聖光の剣──白い光が凝縮し、細い剣の形を成した。光そのものが刃であり、微念が結晶化した教会魔法の武装術式。


 カエルの結界に向かって、一閃。


 光がぶつかった。結界が震えたが──弾き返した。


 訓練場の空気が変わった。模擬戦の空気。二人ともそれを理解した。


 アウレリウスが聖光の剣を構え、左手に光の盾を展開した。純粋な教会魔法──その洗練度は、カエルがこれまで見たどの術者よりも高い。


 カエルは精霊魔法を加えた。


 右手で風の刃を放ちながら、左手で光の結界を維持する。アウレリウスが剣で風を断ち、盾で結界の波動を弾く。


 攻防が加速した。


 アウレリウスの教会魔法は圧巻だった。聖光の剣が連続で振るわれ、光の鎧が全身を覆い、微念の波が衝撃波となって砂地を抉る。純粋な教会魔法の実力では──カエルを上回っている。


 カエルは両系魔法で応じた。精霊魔法の猛攻で距離を取り、教会魔法の結界で防御する。二つの系統の同時運用が、単一系統の完成度の差を埋める。


 砂塵が舞い、光の残滓が散り、訓練場の壁に亀裂が入った。


 二人の術式が正面からぶつかった──アウレリウスの聖光の大剣と、カエルの風の刃と光の壁の複合防御。衝撃波が走り、砂が吹き飛んだ。


 互いに息を切らしていた。


 決着は──つかなかった。


 沈黙の中で、二人は互いを見た。汗が流れ、呼吸が荒い。訓練場は半壊していた。


 アウレリウスの口元が──笑った。


「……お前、強いな」


 カエルも──笑っていた。


「そっちもな」


 不意に、二人とも吹き出した。砂まみれで、汗だくで、訓練場を壊して──馬鹿みたいに笑った。


 孤独だった天才に、初めて同等の力を持つ者が現れた。それだけで──笑うには十分だった。

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