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原力の殉教者  作者: とりまな
第2章 師のもとで
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体験入学

――――――――――――

 魔法実践場は、円形の闘技場を思わせる造りだった。

 すり鉢状の観覧席が石段で囲み、中央の白い砂地に標的が並んでいる。木製の人形、石の壁、水を張った大甕。どれも術式の精度を測るための試験器具だ。

 カエルは砂地の端に立ち、周囲を見渡した。二十人ほどの学生が観覧席に座っている。人間族が大半だが、地底族の低い体躯や、森人族の白い髪も見える。多種族──辺境村では考えられない光景だった。

「体験入学試験を始めます」

 精霊学部の教授が声を張った。白髭の老人で、左目に魔法式の単眼鏡をはめている。

「試験内容は三つ。標的攻撃、防御展開、精密操作。いずれも基本術式で構わない」

 カエルの前に出た学生が二人、順番に試験をこなした。精霊魔法で風の弾を放ち、水の壁を展開し、砂を球形に固める。どちらも手慣れた動きだ。観覧席から散発的な拍手が上がった。

「次──カエル」

 砂地の中央に進む。足元の砂がさらりと崩れる感触。背中に視線が突き刺さる。

 最初の試験──標的攻撃。

 カエルは右手を軽く開いた。古代語の断片が唇から零れる。微精霊が応じ、空気が鋭く凝縮する。

 風の刃。

 音もなく放たれた気流が、三体の木製人形を一直線に切断した。斜めではない。水平に、寸分の狂いなく。人形の上半分が滑るように落ち、砂地に転がった。

 観覧席が静まった。

「……精密だな」

 教授が単眼鏡を調整しながら呟いた。

「次、防御。任意の防御術式を展開せよ」

 ここが分水嶺だった。カエルは一瞬だけ迷い、そして覚悟を決めた。

 両手を前に出し、典礼語の祈祷句を紡いだ。

 空気が変質した。カエルの前方に、半透明の光の壁が広がる。白く、清浄で、微かに暖かい。

 教会魔法の防御結界。

 観覧席の空気が凍った。

「──今、教会魔法を使ったか?」

 教授の声が裏返った。単眼鏡が外れかけ、慌てて押さえ直す。

「さっきは精霊魔法で……いや、まさか。両方の系統を?」

 ざわめきが波のように広がった。学生たちが立ち上がり、身を乗り出す者もいる。精霊魔法と教会魔法は異なる系統だ。微精霊に語りかけるアルカナと、微念を介して神格に応答を求めるテウルギア。原理が違い、修練法が違い、使う言語すら違う。

 両方を行使する術者など、少なくともこの場の誰も見たことがなかった。

「最後の試験──精密操作」

 教授が声を整えた。だが瞳の奥に、学者特有の光が灯っていた。

 大甕の水を、指定された形に操る試験だった。カエルは精霊語で微精霊に語りかけ、水を甕から引き上げた。蛇のようにうねる水流が空中で静止し、教授が示した図形──三重の環──を精密に描き出す。滴一つ落とさない。

「……合格だ。いや、合格どころではない」

 教授が唸った。

 そのとき、観覧席の後方からマグヌスが歩み出た。いつからいたのか。穏やかな笑みを浮かべ、教授の隣に立つ。

「この子は特殊な才能を持っています」

 マグヌスの声は静かだが、実践場の隅々まで届いた。

「両方の系統を使えるのです。私の弟子でして──入学を認めていただけると幸いです」

 教授陣が顔を見合わせた。短い協議の後、入学が認められた。観覧席から拍手が起きる。だがその中に、敵意を含んだ視線があることを、カエルは見逃さなかった。

「混血の化け物が……」

 誰かが呟いた声が、拍手の隙間を縫って耳に届いた。

 カエルは表情を変えなかった。

 実践場を出ると、マグヌスが肩に手を置いた。

「よくやった。お前の力は、この大学の誰にも引けを取らない。堂々としていればいい」

 温かい手だった。五年間、この手に導かれてきた。母を失った夜から、ずっと。

「ありがとうございます、師匠」

「明日から忙しくなるぞ」

 マグヌスが笑った。穏やかな笑顔─。

 だが初日の困難は、翌日からすぐに始まることになる。

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