第84話:新たな旅立ち
感謝祭から1ヶ月。
カフェ・ミルフォードは、相変わらず繁盛していた。
「いらっしゃいませ!」
ソラとエマは、すっかり立派な料理人になった。
リオも、インターンを終えて学院に戻った。
「師匠、この新メニュー、どうですか?」
ソラが、試作品を持ってきた。
一口食べてみる。
「美味しい。よくできてる」
「やった!」
「心も、ちゃんとこもってるな」
「はい。師匠に教わった通り、食べる人のことを想って作りました」
「よし。メニューに加えよう」
ソラは、嬉しそうに厨房に戻っていった。
「ケント、嬉しそうだね」
リナが、微笑んでいる。
「ああ。弟子たちの成長を見るのは、嬉しいな」
「そうだね」
---
**その日の午後。**
一人の使者が、店に訪れた。
「ケント殿、アルフォンス様からの手紙です」
封を開けると――
『世界料理学院、第一期生卒業試験』
『特別審査員として、ご出席願いたい』
「卒業試験か……」
もう、1年が経ったのか。
リオたちが入学してから。
「ケント、行くの?」
リナが聞いてきた。
「ああ。名誉校長だからな」
「じゃあ、私も一緒に行く」
「いいのか?」
「うん。リオの卒業試験、見たいもん」
「そうだな」
---
**1週間後。**
王都に到着した。
世界料理学院は、1年前よりも活気に満ちていた。
「ケント校長!」
リオが、駆け寄ってきた。
「リオ、久しぶりだな」
「はい!」
「元気そうだな」
「はい。学院での勉強、とても充実しています」
「そうか。よかった」
「でも――」
リオは、少し緊張した顔をした。
「卒業試験、緊張します」
「大丈夫。お前なら、できる」
「ありがとうございます」
---
**卒業試験当日。**
大講堂に、300人の一期生が集まった。
壇上には、アルフォンスさんと七賢人。
そして、特別審査員として俺。
「これより、世界料理学院第一期生の卒業試験を始める」
アルフォンスさんが宣言した。
「試験内容は――」
「自由課題の料理を、一品作ること」
「テーマ、食材、調理法、全て自由」
「ただし――」
アルフォンスさんは、力強く言った。
「心を込めること」
「技術だけではない」
「食べる人のことを想った、心のこもった料理を作れ」
生徒たちが、頷いている。
「審査基準は、味、技術、そして心だ」
「制限時間は、3時間」
「では――開始!」
---
300人の生徒が、一斉に調理を始めた。
それぞれが、思い思いの料理を作っている。
フレンチ、イタリアン、和食、中華――
様々なジャンル。
俺は、一人一人の調理を見て回った。
「君、火加減がいいな」
「ありがとうございます!」
「君は、盛り付けが美しい」
「頑張ります!」
そして――
リオの調理台に来た。
「リオ、何を作ってるんだ?」
「はい」
リオは、真剣な顔で答えた。
「『家族の食卓』です」
「家族の……?」
「はい。ケント校長から学んだこと」
「料理は、特別なものじゃない」
「日常を、大切にするもの」
「それを、表現したいんです」
「……」
リオは、シンプルな家庭料理を作っていた。
ご飯、味噌汁、焼き魚、煮物。
でも――
一つ一つに、心がこもっている。
丁寧に、優しく。
「よし、頑張れ」
「はい!」
---
**3時間後。**
全ての料理が完成した。
審査が始まる。
俺たち審査員は、一品ずつ試食していく。
技術的に素晴らしい料理。
見た目が美しい料理。
珍しい食材を使った料理。
どれも、レベルが高い。
「さすが、世界料理学院の一期生だな」
アルフォンスさんが、満足そうに言った。
「ああ。みんな、よく学んでる」
そして――
リオの料理を試食する。
『家族の食卓』
ご飯を一口。
「――」
味噌汁を一口。
「これは……」
焼き魚、煮物。
全て食べ終えた後――
俺は、目を閉じた。
「温かい……」
「心が、温かくなる……」
「これは……」
「家族で食卓を囲む、幸せな時間だ……」
他の審査員たちも、同じ感想を述べていた。
「素晴らしい」
「技術も完璧」
「でも、それ以上に――」
「心がこもっている」
---
**審査結果の発表。**
「優秀賞は――」
アルフォンスさんが、名前を読み上げた。
「サム、エリカ、マルコ」
3人が、壇上に上がった。
「おめでとう」
拍手が起こる。
「そして――」
「最優秀賞は――」
会場が、静まり返った。
「リオだ」
「――!」
リオが、驚いた顔をしている。
「リオ、壇上へ」
リオは、ゆっくりと壇上に上がった。
「おめでとう、リオ」
アルフォンスさんが、証書を渡した。
「ありがとうございます……」
「お前の料理は、素晴らしかった」
「技術も、心も、完璧だった」
「これからも、その心を忘れるな」
「はい!」
会場が、大きな拍手に包まれた。
リオの目から、涙が溢れた。
「ケント校長……」
俺も、壇上に上がった。
「よく頑張ったな、リオ」
「はい……」
「お前は、本当に成長した」
「心を込めた料理の意味を、理解した」
「これからも、その心を大切にしろ」
「はい!」
---
**卒業式。**
300人の一期生全員が、卒業証書を受け取った。
「これより、第一期生の卒業を宣言する」
アルフォンスさんが言った。
「お前たちは、世界料理学院の最初の卒業生だ」
「誇りを持て」
「そして――」
「世界中で、人を幸せにする料理を作れ」
「はい!」
大きな返事が、響いた。
---
**卒業式の後。**
リオが、俺のもとに来た。
「ケント校長、ありがとうございました」
「いや、俺は何も」
「いえ」
リオは、首を横に振った。
「ケント校長のおかげで、僕は料理人になれました」
「心を込めることの大切さを、学べました」
「……」
「これから、僕――」
リオは、決意した目で言った。
「世界中を旅して、修行します」
「様々な国の料理を学んで」
「いつか、ケント校長のような料理人になります」
「そうか」
俺は、リオの肩を叩いた。
「頑張れ。応援してる」
「はい!」
リオは、深く頭を下げた。
「いつか、必ず――」
「ケント校長を超える料理人になります!」
「その意気だ」
「待ってるぞ」
---
**その夜。**
宿で、リナと話していた。
「リオ、立派になったね」
リナが言った。
「ああ。本当に成長した」
「ケントの教えが、しっかり伝わってるんだね」
「そうだといいな」
「うん」
リナは、微笑んだ。
「ケントの『心を込めた料理』」
「それが、どんどん広がっていく」
「世界中に」
「……」
「いいことだよ」
リナは続けた。
「ケント一人じゃできないことも」
「弟子たちが、広げてくれる」
「そうだな」
窓の外を見ると、星が輝いていた。
「俺の料理が、世界を変えていく」
「そんな未来が、見えてきた気がする」
「うん」
「でも、俺は変わらない」
「辺境の村で、小さなカフェを営む」
「それが、俺の幸せだから」
「うん。私も、ずっとケントと一緒にいたい」
「ありがとう、リナ」
二人で、静かに星を見上げた。
新たな旅立ち――
リオたちの未来。
そして、俺たちの日常。
全てが、続いていく。
ーー第85話に続く




