第83話:笑顔を取り戻すために
村に戻って3日。
俺は、いつも通り店で料理を作っていた。
でも――
「ケント、大丈夫?」
リナが、心配そうに聞いてくる。
「ああ、大丈夫だよ」
「でも、元気ないよ」
「そう……かな」
実際、俺はクラウディアのことを引きずっていた。
「お前のせいで、料理を愛せなくなった」
あの言葉が、頭から離れない。
俺の料理哲学が――
誰かを傷つけたのかもしれない。
そう思うと、心が重い。
「ケント……」
---
**その夜。**
リナが、ユウ、ソラ、エマ、リオを集めていた。
「みんな、聞いて」
リナが、真剣な顔で言った。
「ケントのこと、心配じゃない?」
「はい……」
ユウが頷いた。
「元気ないですよね」
「クラウディアのこと、気にしてるんだと思います」
ソラが言った。
「あの人、ケント師匠のせいだって言ってましたから」
「でも、それは違う」
エマが強く言った。
「ケントさんは、何も悪くない」
「クラウディアが、勝手に道を誤っただけ」
「そうだよ」
リオも頷いた。
「でも、ケント校長は優しいから」
「自分を責めちゃうんだ」
「じゃあ、どうすれば……」
ユウが聞くと、リナは微笑んだ。
「ケントを、元気にしたいの」
「そのために――」
「特別なイベントを、企画しようと思う」
「イベント……?」
「うん」
リナは、みんなを見回した。
「『感謝祭』を開くの」
「ケントへの感謝を伝える、特別な日」
「いいですね!」
ソラが目を輝かせた。
「ケント師匠、きっと喜びます」
「でも、どうやって……」
エマが聞くと、リナは計画を話し始めた。
「みんなで、料理を作るの」
「ケントが教えてくれた料理を」
「そして、ケントに食べてもらう」
「なるほど……」
「それと――」
リナは続けた。
「村のみんなにも、協力してもらおう」
「ケントが、どれだけ村の人たちを幸せにしたか」
「それを、ケントに伝えるの」
「素晴らしい計画です」
リオが言った。
「じゃあ、準備を始めましょう」
---
**翌日から、みんなは秘密裏に準備を始めた。**
リナは、村人たちに協力を依頼。
「ケントへの感謝祭を開きたいんです」
「おお、いいな!」
村長さんが、賛成してくれた。
「ケントには、本当に世話になってる」
「俺も協力するぞ」
トムさんも。
「じゃあ、みんなでケントへのメッセージを書きましょう」
リナが提案した。
「ケントの料理で、どう変わったか」
「ケントに、何を感謝しているか」
村人たちは、次々とメッセージを書いた。
一方――
ソラ、エマ、リオは、料理の練習。
「ケント師匠が最初に教えてくれた、オムライス」
ソラが言った。
「これを、完璧に作ろう」
「はい」
三人は、何度も練習した。
卵の焼き方。
チキンライスの味付け。
盛り付け。
全てを、ケントから教わった通りに。
「よし、完璧だ」
---
**3日後。**
準備が整った。
「ケント、今日は特別な日なの」
リナが、朝から嬉しそうに言った。
「特別な日?」
「うん。だから、今日は店を休みにして」
「え、でも……」
「いいから」
リナは、俺の手を引いた。
「ついてきて」
---
連れて行かれたのは――
村の広場だった。
「ここに……」
広場には、たくさんの村人が集まっていた。
そして、中央には――
大きなテーブルが、用意されている。
「これは……」
「ケント!」
村長さんが、前に出てきた。
「今日は、お前への感謝祭だ」
「感謝祭……?」
「ああ。お前が、この村に来てから」
「みんな、幸せになった」
「お前の料理で」
「お前の優しさで」
村長さんは、一枚の紙を読み上げた。
「トムは、こう書いている」
「『ケントの料理を食べて、生きる喜びを知った』」
「『毎日が、楽しくなった』」
次に、別の村人のメッセージ。
「『ケントのおかげで、家族の会話が増えた』」
「『一緒に食事をする時間が、一番幸せだと気づいた』」
次々と、村人たちのメッセージが読み上げられた。
「『ケントの笑顔に、いつも元気をもらってる』」
「『ケントの料理は、心の薬だ』」
「『ケントがいてくれて、本当に良かった』」
俺の目から、涙が溢れた。
「みんな……」
「ケント」
村長さんが、俺の肩を叩いた。
「お前は、誰も傷つけてない」
「お前は、みんなを幸せにしてる」
「それを、忘れるな」
「……はい」
---
「そして――」
リナが、前に出てきた。
「みんなで、ケントに料理を作ったの」
テーブルに、次々と料理が並べられた。
オムライス、ハンバーグ、カレー――
全て、俺が村人たちに教えた料理。
「これ、全部……」
「うん。みんなで作ったの」
リナが微笑んだ。
「ケントから教わった、心を込めた料理」
「食べて」
俺は、一つ一つ食べてみた。
技術は、まだまだ。
でも――
心がこもっている。
温かい。
「美味しい……」
「本当に、美味しい……」
「よかった」
ソラが、嬉しそうに笑った。
「ケント師匠、元気になってくれるかな」
「ああ」
俺は、みんなを見回した。
「ありがとう、みんな」
「俺、元気になった」
「本当に?」
リナが、心配そうに聞く。
「ああ」
俺は、笑顔で答えた。
「俺は、誰かを傷つけたかもしれない」
「でも、もっとたくさんの人を」
「幸せにできた」
「それが、分かった」
「ケント……」
「クラウディアのことは、残念だ」
「でも、俺は前を向く」
「これからも、料理で人を幸せにする」
「それが、俺の道だから」
村人たちが、拍手した。
「おお!」
「それでこそ、ケントだ!」
「これからも、よろしく頼むぞ!」
温かい声援。
「ありがとう、みんな」
---
**その夜。**
店に戻って、リナと二人で話していた。
「リナ、ありがとう」
「え?」
「感謝祭、企画してくれたんだろ?」
「……バレてた?」
リナは、照れくさそうに笑った。
「ああ。でも、嬉しかった」
「よかった」
「リナのおかげで、俺は救われた」
「そんな……」
リナは、顔を赤くした。
「私、ケントが悲しそうな顔してるの」
「見てられなくて」
「だから――」
「ケントに、笑顔でいてほしかった」
「……」
俺は、リナの頭を撫でた。
「ありがとう」
「これからも、よろしく頼む」
「うん」
リナは、嬉しそうに微笑んだ。
「これからも、ずっと一緒だよ」
「ああ」
窓の外を見ると、満月が輝いていた。
「明日から、また頑張ろう」
「料理で、人を幸せにするために」
「うん!」
俺の心は、完全に回復した。
クラウディアのことは、忘れない。
でも、前を向いて歩いていく。
料理で、人を幸せにする――
それが、俺の使命だから。
ーー第84話に続く




