第82話:美食破壊者
リオのインターンが始まって3日目。
朝、店の準備をしていると――
扉が激しく叩かれた。
「ケント!緊急だ!」
レイナさんの声だ。
扉を開けると――
レイナさんが、息を切らしていた。
「どうしたんですか?」
「これを見ろ」
レイナさんは、一枚の紙を差し出した。
それは――伝書鳩で届いた、緊急の手紙。
差出人は、アルフォンスさん。
『緊急事態』
『世界料理学院が襲撃された』
『至急、王都へ来られたし』
「襲撃……!?」
「ああ。詳細は分からないが」
「相当、深刻らしい」
「……」
「ケント、どうする?」
リナが心配そうに聞いてくる。
「行くしかない」
俺は即答した。
「学院は、俺が名誉校長だ」
「責任がある」
「分かった。じゃあ、私も行く」
リナが言った。
「僕も行きます」
ユウも。
「俺も!」
ソラも。
「私も行きたいです」
エマも手を挙げた。
「僕も、ケント校長について行きます」
リオも続いた。
「みんな……」
「店は、私たちに任せて」
セシリアさんが言った。
「レオンさんと私で、何とかするわ」
「すまない」
「気をつけてね」
レオンさんが、優しく言った。
「必ず、無事に帰ってこい」
「はい」
---
**その日のうちに、王都へ出発。**
馬車を飛ばして、2日で到着した。
「急げ、学院へ」
世界料理学院に着くと――
「これは……」
学院の正門が、破壊されていた。
壁には、大きな穴。
窓ガラスも、割れている。
「ひどい……」
中に入ると――
アルフォンスさんと七賢人が待っていた。
「ケント、よく来てくれた」
「アルフォンスさん、一体何が……」
「こちらに来てくれ」
アルフォンスさんは、俺たちを大講堂に案内した。
そこには――
怪我をした生徒たちが、たくさんいた。
「みんな……」
「幸い、命に別状はない」
マザー・エレナが言った。
「でも、精神的なショックは大きい」
「誰が、こんなことを……」
「それが――」
アルフォンスさんは、深刻な顔をした。
「『美食破壊者』と名乗る組織だ」
「美食破壊者……?」
「ああ。料理界を憎む、テロリスト集団だ」
「なぜ、料理界を……」
「分からない」
ウィリアムさんが続けた。
「だが、彼らは『料理は贅沢だ』『料理人は不要だ』と主張している」
「そして、世界中の料理学校や有名レストランを襲撃している」
「そんな……」
「昨夜、この学院も襲われた」
イザベラさんが説明した。
「黒装束の男たちが、20人ほど」
「厨房を破壊し、食材を奪い」
「生徒たちを、脅した」
「許せない……」
「我々も、そう思う」
老師・劉が言った。
「だが、敵は用意周到だ」
「魔法も使い、戦闘能力も高い」
「厄介だな……」
その時――
一人の生徒が、俺に近づいてきた。
「ケント校長……」
見ると――リオの同級生だった。
「君は……」
「僕、サムと言います」
「リオの友達です」
「サム……」
リオが、驚いた顔をした。
「怪我は、大丈夫か?」
「うん……でも……」
サムは、震えていた。
「怖かった……」
「黒装束の男たちが」
「『料理人なんて、いらない』って……」
「『料理は、時間の無駄だ』って……」
「僕たちの夢を、否定したんだ……」
サムの目から、涙が溢れた。
「許せない……」
「サム……」
俺は、サムの肩を抱いた。
「大丈夫。君たちの夢は、間違ってない」
「料理は、人を幸せにするものだ」
「絶対に、必要なものだ」
「校長……」
「だから、諦めるな」
「はい……」
---
**その夜。**
七賢人と、作戦会議。
「美食破壊者の目的は、何なんだ?」
俺が聞くと、アルフォンスさんが答えた。
「まだ、はっきりしない」
「だが、おそらく――」
「料理界全体を、破壊したいのだろう」
「なぜ……」
「それが分かれば、対処できるんだが」
ダンテが、苦々しく言った。
「敵は、まだ他の場所も狙っているかもしれない」
「次は、どこを襲うんだ?」
「分からない」
カトリーヌさんが言った。
「でも、おそらく――」
「世界料理会議のような、大きなイベント」
「あるいは、有名な料理人が集まる場所」
「……」
「つまり――」
アルフォンスさんは、俺を見た。
「お前のカフェも、狙われる可能性がある」
「俺の……?」
「ああ。お前は、世界料理大師だ」
「料理界の象徴だ」
「美食破壊者にとって、格好の標的だろう」
「……」
「村に、すぐ戻った方がいい」
レイナさんが言った。
「レオンさんとセシリアさんだけでは、守りきれない」
「そうだな……」
「待て」
アルフォンスさんが止めた。
「今、お前が村に戻っても、敵を引き寄せるだけだ」
「では、どうすれば……」
「囮を使う」
アルフォンスさんは、提案した。
「囮……?」
「ああ。お前は、ここに留まれ」
「我々が、美食破壊者をおびき出す」
「そして――」
「捕まえる」
「危険すぎます」
「大丈夫だ」
アルフォンスさんは、自信満々に言った。
「我々は、七賢人だ」
「料理の腕だけじゃない」
「戦闘能力も、ある」
「……」
「ケント、信じてくれ」
「……分かりました」
「よし」
アルフォンスさんは、立ち上がった。
「では、作戦を開始する」
---
**翌日。**
アルフォンスさんたちは、街中に噂を流した。
「世界料理大師ケントが、王都にいる」
「明日、特別講演をする」
この噂は、すぐに広まった。
そして――
その夜。
学院に、再び黒装束の男たちが現れた。
「来たか……」
屋上から、俺たちは見ていた。
黒装束の男たち――約30人。
「ケントを出せ!」
一人が叫んだ。
「世界料理大師など、不要だ!」
「料理人など、いらない!」
「今だ」
アルフォンスさんが合図した。
七賢人が、一斉に動いた。
「《炎の鎖》!」
カトリーヌさんが、炎の魔法で敵を拘束。
「《氷の壁》!」
ウィリアムさんが、氷の壁で退路を塞ぐ。
「《風の刃》!」
イザベラさんが、風の魔法で攻撃。
あっという間に、敵は追い詰められた。
「くそ……!」
「観念しろ」
アルフォンスさんが、前に出た。
「お前たちは、包囲されている」
「ぐっ……」
その時――
黒装束のリーダーらしき男が、仮面を外した。
「……!」
その顔を見て、俺は驚愕した。
「まさか……お前は……」
それは――
かつて、料理祭で戦った――
クラウディアだった。
「クラウディア……なぜ……」
「ケント……」
クラウディアは、憎しみに満ちた目で俺を見た。
「お前のせいだ……」
「全部、お前のせいだ……」
「何を言ってる……」
「俺は、料理十傑の第七位だった」
クラウディアは、叫んだ。
「それなりに、評価されていた」
「だが――」
「お前が現れてから、全てが変わった」
「お前の『心を込めた料理』が評価されて」
「俺のような、技術だけの料理人は」
「見向きもされなくなった……」
「……」
「仕事も、減った」
「収入も、減った」
「全て――」
「全て、お前のせいだ!!」
クラウディアは、涙を流していた。
「だから、俺は決めた」
「料理界そのものを、破壊すると」
「お前のような理想主義者が支配する世界を」
「壊すと!」
「クラウディア……」
俺は、彼に近づいた。
「お前の気持ちは、分かる」
「分かるものか!」
「いや、分かる」
俺は、真剣に言った。
「俺も、最初は技術がなかった」
「でも、心を込めることで」
「料理人として、認められた」
「だから――」
「お前にも、できるはずだ」
「技術と心、両方を持つことが」
「……」
「今からでも、遅くない」
「心を込めた料理を、作ってみろ」
「そうすれば、お前も――」
「黙れ!!」
クラウディアは、叫んだ。
「もう、遅いんだ!」
「俺は、もう戻れない!」
「そんなことは……」
「いや、戻れない」
クラウディアは、項垂れた。
「俺は、もう……」
「料理を、愛せなくなったんだ……」
「……!」
「お前のせいで……」
「料理が、憎くなった……」
クラウディアは、崩れ落ちた。
「もう、終わりだ……」
「全て、終わりだ……」
---
**その後。**
クラウディアと美食破壊者のメンバーは、全員逮捕された。
学院は、平和を取り戻した。
でも――
俺の心には、わだかまりが残った。
「ケント」
アルフォンスさんが、声をかけてくれた。
「気にするな」
「でも……」
「お前のせいじゃない」
アルフォンスさんは、優しく言った。
「クラウディアは、自分で道を誤った」
「お前が、悪いわけじゃない」
「……」
「料理は、競争じゃない」
アルフォンスさんは続けた。
「人を幸せにするものだ」
「それを、クラウディアは忘れてしまった」
「それだけだ」
「……そうですね」
「さあ、村に帰れ」
アルフォンスさんは、微笑んだ。
「お前の居場所は、ここじゃない」
「あの小さなカフェだろ?」
「はい」
---
**翌日。**
俺たちは、村への帰路についた。
馬車の中で、リナが聞いてきた。
「ケント、大丈夫?」
「ああ」
「でも、悲しそうな顔してる」
「……」
「クラウディアのこと、気にしてるんでしょ」
「ああ」
俺は、正直に答えた。
「俺のせいで、彼が道を誤った」
「そう思うと、辛い」
「でも――」
リナは、俺の手を握った。
「ケントは、間違ってない」
「心を込めた料理は、正しい」
「それを、忘れないで」
「リナ……」
「クラウディアは、自分で選んだの」
「ケントのせいじゃない」
「……ありがとう」
窓の外を見ると、村が見えてきた。
「帰ってきたな」
「うん」
「さあ、また日常が始まる」
「料理で、人を幸せにする日々が」
「うん!」
馬車は、村に到着した。
俺たちの、日常が戻ってくる。
---
(続く)
**※次回予告※**
村に戻ったケントたち。
平和な日常が、再び始まる――
しかし、クラウディアの言葉が
ケントの心に、わだかまりを残した。
「俺のせいで、彼が……」
そんなケントを見て、リナが決意する。
「ケントを、元気にしたい」
リナが企画する、特別なイベントとは――
ーー第83話に続く




