第70話「世界料理会議」
七賢人の試練から1週間後。
店に、またアルフォンスさんたちが訪れた。
「ケント、話がある」
「はい」
七賢人全員が、真剣な顔をしている。
「我々は、決めた」
アルフォンスさんが言った。
「世界料理会議を、開催する」
「世界料理会議……?」
「ああ」
「世界中の料理人が集まる、史上最大の祭典だ」
「そこで――」
アルフォンスさんは、微笑んだ。
「料理の本質を、みんなで学び合う」
「技術だけじゃなく、心を大切にする料理を」
「……」
「そして、ケント」
アルフォンスさんは、俺を見た。
「お前に、特別ゲストとして来てほしい」
「特別ゲスト……?」
「ああ。お前の料理を、世界中の料理人に見せてほしい」
「お前の料理哲学を、伝えてほしい」
「でも、俺なんかが……」
「お前以外にいない」
カトリーヌさんが言った。
「あなたは、料理の真理を知っている」
「それを、世界に広めるべきよ」
「……」
「会議は、1ヶ月後だ」
ウィリアムさんが言った。
「王都で開催する」
「世界中から、1000人以上の料理人が集まる予定だ」
「1000人……!」
「そうだ」
イザベラさんが頷いた。
「史上最大の規模よ」
「ケント、どうだ?」
アルフォンスさんが聞いてきた。
「来てくれるか?」
「……」
俺は、みんなを見た。
リナ、ユウ、ソラ、セシリアさん、レオンさん――
みんな、頷いている。
「分かりました」
俺は答えた。
「行きます」
「よし!」
アルフォンスさんは、嬉しそうに笑った。
「では、準備を始めよう」
---
**1ヶ月後。**
王都に到着した。
街は、いつも以上に賑わっていた。
「すごい人……」
リナが、驚いている。
「世界料理会議のために、世界中から人が集まってるんだ」
街には、様々な国の料理人たちがいた。
東洋風の服を着た料理人。
西洋風の料理人。
南国風の料理人。
みんな、それぞれの国の料理を背負っている。
「緊張するね……」
ユウが、小声で言った。
「ああ……」
「でも、大丈夫」
レオンさんが励ましてくれた。
「お前なら、できる」
会場は、王都の大広場。
巨大なテントが設置されている。
「あれが……」
「すごい規模だな……」
テントの中に入ると――
信じられない光景が広がっていた。
何百もの調理台。
何千人もの観客席。
そして――中央に、巨大なステージ。
「ようこそ、ケント」
アルフォンスさんが、迎えてくれた。
「すごいですね……」
「ああ。世界中の料理人が集まった」
「みんな、お前の料理を見たがっている」
「……」
「緊張しているか?」
「はい、正直……」
「大丈夫だ」
アルフォンスさんは、肩を叩いた。
「いつも通りでいい」
「お前らしく、料理を作れ」
「はい」
---
**開会式。**
大広場に、1000人以上の料理人が集まった。
壇上に、アルフォンスさんが立つ。
「世界料理会議の開催を、宣言する!」
歓声が上がる。
「我々は、長年」
「料理の技術を追求してきた」
「特別な食材、特別な調理法」
「それが、最高だと思っていた」
「しかし――」
アルフォンスさんは、力強く言った。
「我々は、気づいた」
「本当に大切なのは、技術ではない」
「心だ!」
会場が、静まり返った。
「料理は、人を幸せにするものだ」
「食べる人のことを想って作る」
「その心が、何よりも大切だ」
「そして――」
アルフォンスさんは、俺を指さした。
「その真理を、我々に教えてくれた料理人がいる」
「ケント!」
「彼こそが、真の料理人だ!」
会場が、拍手に包まれた。
「ケント!」
「ケント!」
「ケント!」
俺の名前を、呼ぶ声。
「さあ、ケント」
アルフォンスさんが手招きした。
「壇上へ」
「……」
俺は、ゆっくりと壇上に上がった。
1000人以上の料理人が、俺を見ている。
「ケント」
アルフォンスさんが言った。
「君の料理哲学を、みんなに伝えてくれ」
「……」
俺は、深呼吸した。
そして――
話し始めた。
「俺は、特別な料理人じゃありません」
「特別な才能もないし」
「特別な修行もしていません」
「ただ――」
「一つだけ、大切にしていることがあります」
「それは――」
俺は、はっきりと言った。
「料理は、人を幸せにするためのものだということです」
会場が、静かになった。
「技術も大事です」
「見た目も大事です」
「でも、一番大事なのは」
「食べる人のことを、想うことです」
「その人が、笑顔になるように」
「幸せな気持ちになるように」
「心を込めて、作る」
「それが、俺の料理です」
「……」
しばらく、沈黙が続いた。
そして――
一人の料理人が、立ち上がった。
拍手をしながら。
「素晴らしい!」
すると――
次々と、他の料理人たちも立ち上がった。
拍手が、会場を包んだ。
「ケント!」
「ケント!」
「ありがとう!」
「勉強になった!」
温かい声援。
「ケント」
アルフォンスさんが言った。
「今から、デモンストレーションをしてくれ」
「お前の料理を、みんなに見せてくれ」
「分かりました」
---
## 第71話:料理のデモンストレーション
中央のステージに、調理台が用意された。
「さあ、ケント」
アルフォンスさんが言った。
「何か一つ、料理を作ってくれ」
「お前の『心』が伝わる料理を」
「はい」
俺は、調理台に立った。
1000人以上の料理人が、見守っている。
「緊張するな……」
でも――
いつも通りでいい。
アルフォンスさんの言葉を思い出す。
「よし」
俺が作ることにしたのは――
オムライス。
シンプルだけど、俺が一番得意な料理。
リナに初めて作った、思い出の料理。
「まず、チキンライスから作ります」
鶏肉を切る。
玉ねぎを切る。
一つ一つ、丁寧に。
「料理は、準備が大切です」
「食材を、丁寧に扱う」
「それが、心を込めることの第一歩です」
観客たちが、真剣に見ている。
フライパンに油を引いて、鶏肉を炒める。
「火加減も大切です」
「強すぎると、焦げる」
「弱すぎると、旨みが出ない」
「適切な火加減で、丁寧に炒めます」
玉ねぎを加えて、さらに炒める。
ご飯を入れて、ケチャップで味付け。
「ケチャップは、少しずつ加えます」
「味を見ながら、調整する」
「これが、料理の基本です」
チキンライスが完成。
次に、卵を溶く。
「卵は、丁寧に混ぜます」
「空気を含ませるように」
フライパンにバターを溶かして、卵を流し込む。
「卵は、火加減が命です」
「強火だと、硬くなる」
「弱火だと、形が作れない」
「中火で、優しく混ぜながら」
半熟の状態で、チキンライスを包む。
「よし……」
綺麗な形のオムライスが、完成した。
ケチャップをかけて――
「完成です」
『調理の祝福』を込める。
```
【調理の祝福】が発動しました!
料理に『心の温もり・極大』『幸福感・大』『笑顔の力・中』『希望の光・微』が付与されました。
```
---
「では、試食していただきます」
アルフォンスさんが、前に出た。
「私が、いただこう」
オムライスを一口。
「――」
アルフォンスさんの目が、見開かれた。
「これは……」
「美味しい……」
「シンプルなのに……」
「こんなに心が温かくなる……」
アルフォンスさんは、涙を流していた。
「これが……ケントの料理か……」
「技術も完璧だ」
「でも、それ以上に」
「心が、込められている」
アルフォンスさんは、観客に向かって叫んだ。
「みんな、見たか!」
「これが、本当の料理だ!」
「技術と心、両方が大切なんだ!」
会場が、拍手に包まれた。
その時――
観客席から、一人の男性が立ち上がった。
30代くらいだろうか。
鋭い目つき、自信に満ちた表情。
「待て」
その声に、会場が静まった。
「お前が、ケントか」
「はい……」
「俺は、カイザー」
男性は名乗った。
「新大陸の料理長だ」
「新大陸……」
新大陸――
この世界の、遥か西にある大陸。
未開の地で、独自の文化が発達しているという。
「お前の料理、確かに美味そうだ」
カイザーは、不敵に笑った。
「だが――」
「俺の料理の方が、上だ」
「……」
「料理対決をしよう、ケント」
「勝者が、真の料理人だ」
会場が、ざわめいた。
「カイザー様が……」
「新大陸最強の料理人が……」
「ケント、どうする?」
アルフォンスさんが聞いてきた。
「……」
俺は、カイザーを見た。
その目には、強い自信と――
料理への情熱があった。
「分かりました」
俺は答えた。
「受けます」
「よし」
カイザーは、満足そうに頷いた。
「明日、この会場で」
「テーマは『自由』」
「制限時間は3時間」
「お前の全力を、見せてもらうぜ」
そう言って、カイザーは去っていった。
「ケント……」
リナが、心配そうに見ている。
「大丈夫だよ」
俺は、笑顔で答えた。
「いつも通り、心を込めて作るだけだ」
でも――
内心、緊張していた。
カイザー――
新大陸最強の料理人。
どんな料理を作るのか。
明日、分かる。
---
**その夜。**
宿で、みんなと作戦会議。
「カイザーって、どんな人なんですか?」
ユウが聞いてきた。
「新大陸最強の料理人だ」
レオンさんが説明した。
「新大陸は、独自の食文化が発達している」
「この大陸にはない、珍しい食材や調理法がある」
「カイザーは、それを極めた料理人だ」
「強敵ですね……」
「ああ。だが――」
レオンさんは、微笑んだ。
「お前には、カイザーにないものがある」
「それは?」
「謙虚さと、優しさだ」
「カイザーは、自信家だ」
「自分の料理が最高だと信じている」
「でも、お前は違う」
「常に、食べる人のことを考えている」
「その違いが、勝敗を分けるかもしれない」
「……」
「ケント、頑張って」
リナが、励ましてくれた。
「私たちも、応援してるから」
「ありがとう」
「さあ、明日に備えて寝よう」
レイナさんが言った。
「はい」
でも――
なかなか眠れなかった。
明日の対決――
どうなるだろう。
「いや、考えすぎだ」
「いつも通りでいい」
「心を込めて、料理を作る」
「それだけだ」
そう自分に言い聞かせて、目を閉じた。
ーー第71話に続く




