第62話:第一の試練「感情の料理」
翌朝。
カフェ・ミルフォードの厨房に、七賢人が集まっていた。
「さあ、始めようか」
アルフォンスさんが言った。
マダム・カトリーヌが、前に出る。
「ケント」
鋭い目で、俺を見つめる。
「私の試練は、シンプルだ」
「はい」
「感情を、料理で表現しなさい」
「感情……ですか」
「そう」
カトリーヌさんは、腕を組んだ。
「喜び、怒り、悲しみ、楽しさ――」
「人間の感情を、料理で表現できるか」
「それが、私の課題よ」
「……」
「制限時間は3時間」
「テーマは『喜び』」
「喜びを表現する料理を作りなさい」
「分かりました」
---
俺は、厨房に立った。
「喜び……か」
喜びを表現する料理――
どんな料理が、喜びを感じさせるだろうか。
「……」
俺は、目を閉じた。
喜びを感じた瞬間を、思い出す。
前世で――
母親が作ってくれた料理を食べた時。
この世界で――
リナが初めて笑顔を見せてくれた時。
ユウが初めて料理を完成させた時。
ソラが成長していく姿を見た時。
「……そうだ」
喜びは、誰かと分かち合うもの。
一人じゃない。
大切な人と一緒にいる時、喜びは何倍にもなる。
「よし、決めた」
---
俺が作るのは――
『祝福のケーキ』
スポンジケーキを焼いて、クリームでデコレーション。
フルーツをたっぷり乗せて、彩り豊かに。
一つ一つの工程に、心を込める。
卵を泡立てる時――
「みんなの笑顔を思い浮かべて」
生地を焼く時――
「温かい気持ちを込めて」
クリームを塗る時――
「優しさを込めて」
フルーツを飾る時――
「彩りと希望を込めて」
そして――
『調理の祝福』を発動。
```
【調理の祝福】が真・神級発動しました!
料理に『至福の喜び・極大』『幸福の連鎖・大』『祝福の光・中』『絆の温もり・中』が付与されました。
```
「完成した」
ケーキが、淡く光っている。
美しい。
---
「お待たせしました」
俺は、ケーキを七賢人の前に置いた。
「これが、私の答えです」
カトリーヌさんが、ケーキを見つめる。
「……綺麗ね」
「ありがとうございます」
七賢人が、それぞれケーキを一口食べた。
すると――
「――!」
全員の顔が、一斉にほころんだ。
「美味しい……」
「幸せ……」
「心が、温かくなる……」
カトリーヌさんも、目を閉じて味わっている。
「これは……」
「喜びが、伝わってくる……」
「一人じゃない、みんなで分かち合う喜び……」
カトリーヌさんは、目を開けた。
「ケント」
「はい」
「あなた、合格よ」
「――!」
「あなたの料理には、確かに喜びがある」
「それも、誰かと分かち合う喜び」
「素晴らしいわ」
他の賢人たちも、頷いている。
「見事だ」
アルフォンスさんが言った。
「第一の試練、クリアだ」
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**その夜。**
店を閉めて、みんなで屋上にいた。
「ケント、すごかったね」
リナが、嬉しそうに言った。
「いや、まだ一つ目だよ」
「でも、七賢人に認められたんだよ」
「それは……嬉しいけど」
「明日からも頑張って」
ユウが励ましてくれた。
「ああ」
「しかし、七賢人か……」
レオンさんが、感慨深げに言った。
「伝説の料理人たちだ」
「レオンさんは、会ったことあるんですか?」
「ああ。何人かは」
「カトリーヌさんは、フランス料理の天才」
「ウィリアムさんは、イタリア料理の巨匠」
「イザベラさんは、スペイン料理の女王」
「劉老師は、中華料理の達人」
「ダンテさんは、革新的な料理の開拓者」
「エレナさんは、家庭料理の母」
「そして、アルフォンスさんは――」
「全ての料理を極めた、グランマスター」
「すごい人たちなんですね……」
「ああ。その全員を相手にするんだ」
「プレッシャーだな……」
でも――
俺には、仲間がいる。
「大丈夫だよ、ケント」
リナが笑った。
「私たちがいるから」
「ありがとう」
ーー第63話に続く




