第60話:謎の訪問者
帰郷から3日後。
店は、通常営業に戻っていた。
「いらっしゃいませ!」
朝から、お客さんで賑わっている。
「ケント、オムレツセット!」
「ハンバーグ2つ!」
「新作のデザートある?」
「はい、ただいま作ります!」
厨房は大忙し。
でも、この忙しさが心地いい。
リナは前菜とデザート。
ユウはスープとサラダ。
ソラは副菜。
セシリアさんは接客。
レオンさんはメインを俺と一緒に。
完璧なチームワーク。
「よし、全部出たな」
「お疲れ様です!」
午後2時。
ランチタイムが終わり、少し休憩。
その時――
店の扉が開いた。
「失礼します」
入ってきたのは、見慣れない老人だった。
白い髭。
深い皺。
でも、その目は鋭く輝いている。
杖をついて、ゆっくりと店の中に入ってくる。
「いらっしゃいませ」
「……」
老人は、俺をじっと見つめた。
「お前が、ケントか」
「はい、そうですが」
「ふむ……」
老人は、満足そうに頷いた。
「噂通りだな」
「噂……?」
「お前の料理が、世界を救ったと」
「皇帝の命も救ったと」
「はい……」
老人は、席に座った。
「私に、料理を作ってくれ」
「かしこまりました。何がよろしいですか?」
「お前が、一番自信のある料理を」
「分かりました」
俺は、厨房に戻った。
「ケント、あの人誰?」
リナが小声で聞いてきた。
「分からない。でも……」
「でも?」
「ただ者じゃない気がする」
老人から、ただならぬ雰囲気を感じた。
「よし、全力で作ろう」
俺が一番自信のある料理。
それは――
オムライスだ。
前世で、母親から教わった料理。
この世界に来て、最初にリナに作った料理。
シンプルだけど、心を込められる料理。
卵。
米。
鶏肉。
ケチャップ。
一つ一つ、丁寧に調理する。
チキンライスを炒めて。
卵で包む。
ケチャップをかけて――
『調理の祝福』を込める。
【調理の祝福】が真・神級発動しました!
料理に
『心の癒し・極大』
『幸福感・大』
『母の愛・中』
『希望の光・微』
が付与されました。
「完成した」
老人の前に、オムライスを置く。
「お待たせしました」
「……」
老人は、しばらくオムライスを見つめていた。
そして――
フォークを手に取った。
一口。
「――」
老人の目が、見開かれた。
「これは……」
そして――
涙が、老人の頬を伝った。
「美味しい……」
「温かい……」
「こんな料理……何十年ぶりだろうか……」
老人は、ゆっくりとオムライスを食べ続けた。
一口一口。
噛みしめるように。
「……ごちそうさまでした」
老人は、満足そうに微笑んだ。
「素晴らしい料理だった」
「ありがとうございます」
「ケント」
老人は、真剣な目で俺を見た。
「お前は、本物の料理人だ」
「……」
「技術ではない。心だ」
「お前の料理には、心がある」
「それは……レオンさんにも言われました」
「レオン・ヴァレンティーノか」
老人は頷いた。
「あの若者も、良い料理人だ」
「ご存知なんですか?」
「ああ。私は、世界中の料理人を見てきた」
老人は立ち上がった。
「ケント。一つ聞きたい」
「はい」
「お前は、これからどうするつもりだ?」
「え?」
「世界を救った英雄だ」
「帝国の皇帝を救った恩人だ」
「どこへ行っても歓迎されるだろう」
「王都で店を開くこともできる」
「帝国で料理長になることもできる」
「なのに――」
老人は、店を見回した。
「なぜ、この辺境の村にいる?」
「……」
俺は、少し考えてから答えた。
「ここが、俺の居場所だからです」
「居場所……か」
「はい」
「俺は、一人一人のお客さんと向き合いたい」
「大きな店を持つことより」
「たくさんの客を相手にすることより」
「目の前の人を、幸せにしたい」
「それが、俺の料理です」
老人は、しばらく黙っていた。
そして――
満面の笑みを浮かべた。
「素晴らしい」
「お前は、料理の本質を理解している」
老人は、懐から一枚の名刺を取り出した。
「私の名は――」
「グランマスター・アルフォンス」
「『味覚の七賢人』の第一位だ」
「七賢人……!?」
ーー第61話に続く




