第47話:1年後の成長
あれから1年。
カフェ・ミルフォードは、さらなる発展を遂げていた。
朝6時。
俺は厨房で、仕込みをしていた。
「ケント師匠、おはようございます!」
ソラが元気よく入ってきた。
「おはよう、ソラ。早いな」
「はい! 今日も頑張ります!」
ソラの成長は、目覚ましかった。
1年前は何もできなかった少年が――
今では、基本的な料理を一人で完璧に作れる。
「ソラ、野菜のカット、お願いできるか?」
「はい! 任せてください!」
包丁を握る手つきが、もう職人のそれだ。
均等な厚さ。
美しい切り口。
「上手くなったな」
「ケント師匠のおかげです」
ソラは、本当に真面目だった。
毎朝誰よりも早く来て、夜遅くまで練習する。
「でも、無理はするなよ」
「大丈夫です。料理が楽しいから」
その笑顔を見ると、教えていてよかったと思う。
「おはよう、ケント」
リナが階段を降りてきた。
「おはよう。よく寝れた?」
「うん。最近、魔力のコントロールが上手くなってきたの」
リナも、この1年で大きく成長した。
氷魔法と料理の融合――
彼女にしかできない、独自のスタイルを確立しつつある。
「今日の新作デザート、見てもらっていい?」
「ああ、楽しみだ」
リナが作ったのは――
『氷結フルーツタルト』
果物を一瞬で凍らせて、シャーベット状に。
それをタルトに載せた、斬新なデザート。
「すごい……食感が面白い」
「えへへ、ありがとう」
一口食べると――
冷たさと甘さが、絶妙に調和している。
「これ、メニューに加えよう」
「本当!? やった!」
リナの料理も、もう一人前だ。
朝8時。
開店準備が整った頃――
「おはようございます」
セシリアさんが、優雅に入ってきた。
「おはようございます、セシリアさん」
「今日も予約、いっぱいですわね」
セシリアさんは、この1年で立派な給仕係になった。
貴族の令嬢だが、全く偉ぶらない。
むしろ、誰よりも丁寧にお客様に接する。
「ケント様、今日は王都から視察団が来るそうです」
「視察団?」
「ええ。料理ギルドの幹部たちが、あなたの店を見学に」
「そんな大層な……」
「当然ですわ。世界を救った英雄のお店ですもの」
セシリアさんは微笑んだ。
「私も、ここで働けて誇りに思っていますわ」
「ありがとうございます」
朝9時。
「おはよう、ケント君」
レオンさんが、食材を抱えて入ってきた。
「レオンさん、おはようございます」
「今朝、市場で良い魚が手に入った。新しい料理を試したいんだが」
レオンさんも、この村に住んで1年。
元宮廷料理人としての経験と――
俺から学んだ「心を込めた料理」を融合させて、
新しいスタイルを確立していた。
「どんな料理ですか?」
「フレンチと和食の融合。魚の西京焼き風、フランス式ソース添え」
「面白そうですね。一緒に作りましょう」
「ありがとう」
二人で厨房に立つ。
レオンさんの技術と、俺のアイデアが混ざり合う。
完成した料理は――
繊細で、でも力強い。
「美味しい……」
「ああ、これは成功だ」
互いに認め合いながら、切磋琢磨する。
これが、今の俺たちの関係だ。
朝10時。
開店。
「いらっしゃいませ!」
一斉に声を揃える。
開店と同時に、お客さんが殺到した。
「ケント様のオムレツセット、お願いします!」
「私は、リナさんの氷結デザート!」
「レオン様の新作料理、食べたいです!」
店は、あっという間に満席。
「忙しいな……」
「でも、嬉しい悲しいですね」
ユウが笑っている。
ユウも、この1年で大きく成長した。
もう、一人前の料理人と言っていい。
「ユウ、メインディッシュ、頼むぞ」
「はい、任せてください!」
厨房は、フル稼働。
でも、みんなが笑顔で働いている。
これが、今のカフェ・ミルフォード。
世界を救った英雄の店――
でも、本質は変わらない。
お客さんを笑顔にする。
それだけを考えて、料理を作り続ける。
昼12時。
ランチのピークが終わった頃――
店に、見慣れない男性が入ってきた。
30代くらいだろうか。
立派なスーツ。
品のある物腰。
でも、どこか緊張している様子。
「いらっしゃいませ」
「……」
男性は、しばらく店内を見回してから――
ゆっくりと、俺の前に来た。
「あなたが、ケント殿ですね」
「はい、そうですが」
男性は、深々と一礼した。
「初めまして。私は、帝国の宰相、オズワルド・フォン・シュタインと申します」
「帝国の……宰相!?」
周囲が、ざわめいた。
帝国――
この王国の東に位置する、大陸最大の国家。
人口は王国の3倍以上。
軍事力も、経済力も、圧倒的。
その国の、ナンバー2が――
この小さな村の店に。
「オズワルド様、どうぞこちらへ」
セシリアさんが、奥の個室に案内した。
個室。
オズワルドさんは、重々しい表情で座った。
「ケント殿、単刀直入に申し上げます」
「はい」
「我が帝国の皇帝陛下が――重い病に冒されております」
「……!」
「どんな名医も治せない、不治の病です」
「魔力の暴走により、体が蝕まれている」
オズワルドさんは、苦しそうに続けた。
「このままでは、1ヶ月も持たないでしょう」
「そんな……」
「私は、あらゆる手段を尽くしました」
「王国の治癒魔法使い、隣国の賢者、東方の仙人――」
「誰も、治せなかった」
オズワルドさんは、俺をまっすぐ見た。
「しかし――あなたなら、治せるかもしれない」
「俺が……?」
「ええ。あなたの『調理の祝福』は、世界を救いました」
「その力があれば、一人の命も救えるはずです」
「……」
「どうか、帝国にお越しいただけないでしょうか」
「皇帝陛下の命を、救ってください」
重い、重すぎる依頼だった。
「少し、考えさせてください」
「もちろんです」
オズワルドさんは立ち上がった。
「3日、お待ちします」
「その間、私はこの村の宿に滞在しております」
「何か質問があれば、いつでもお越しください」
「分かりました」
オズワルドさんが去った後――
俺は、一人考え込んだ。




