171 マード防衛戦1
「マリさん、本当に我々に力を貸してもらえるのか?」
街道前の大門広場の天幕を訪れた私に、ヤマの元王族のカディスさんはそう言った。
「ええ、皆に約束しましたから」
「しかし、君はラグナ王国の人間だ。しかも、有名人なのだろう?後で君の立場が悪くなってしまうのではないかい?」
「いいのです。あの国で私は所詮替えのきく消耗品に過ぎないのです。黙っていましたが、私は犯罪奴隷です。この身の罪があと一つ増えたところで、どうという事は有りません」
「………。しかし、君の主人……、『白銀の光巫女』だったかな?その人に迷惑がかかるのでは?」
「もし、私の主人がこの場に居たとしても、同じ決断をするはずです。むしろ、この場で私が皆を見捨てた事が後で主人に知られたら、私は主人からの信頼を全て失ってしまうでしょう。私はあのガルゼイを助けて、王都に連れ帰る役目を果たさないとならないのです」
「ガルゼイ……、ガイ君の本名だね。彼の正体を実は私も知っていた。色々と悪い噂が有ったので最初は警戒して、彼の動向を注視していたのだが、どうも、噂の彼と実際の彼の人物像が全く一致しない。それで、どういうことかと、不思議に思っていたのだよ」
「私も、最初は奴を見つけたら密かに処分するつもりでした。でも、あのアホ面で泣き虫の間抜けを殺すのは、私にはできません。腹立たしい事ですが」
「そうか。君がそう思ってくれて良かったよ。今の所、私達の向かう方向は一緒の様だね」
「ええ、今の所は。今後の情勢次第では、違う流れもあるかも知れません。私の主人は近衛騎士です。王を守る近衛騎士が王都を離れる事はありません。なので、この先、私の主人が直接あなた達と剣を交える事は無いでしょうが、それでも、本格的に国と国の戦になれば敵国としてあなた達と対立することになります」
「そうならない事を願っているよ。もう、戦はしたくないんだ。もしも、次にまた戦になるなら、こちらも十年前と同じ戦い方は出来ない。守るだけの戦いでは、意味が無いと分かったからね。次の戦ではヤマから打って出て、君たちの国を深く蹂躙することになるだろう。そうなれば罪も無い人たちが大勢死ぬ。できればそんな事はしたくはない。だが、その時が来たら、私はためらわずラグナに兵を進めるだろう」
「なぜ、そんな話を私に?」
「君は話の通じる人間のようだからね。私の覚悟を知っておいてもらいたかった。できればラグナ王都に帰ってから、ヤマの内情を君の国の上層部に話して欲しい」
「おやおや、私に密偵役をしろと?」
「そうだ。悪いが君の事は調べさせてもらった。王家の情報を漏らして犯罪奴隷になったという確認が取れている。恐らく君は、かつては王家の密偵だったのだろう?」
「知っていたのですか……」
「なに、こちらに都合のいい嘘をついてくれと言う訳では無い。君が見たままを話してくれればいいんだ」
「いいのですか?あなたに不利な情報も流すかもしれませんよ」
「かまわない。そう言う情報も無ければ、君のもたらす情報の信ぴょう性が無くなるからね」
「そう言う事なら分かりました。しかし、それも、あの神殿騎士団を退けた後の話です。あいつらにこの街が占領されたら、それどころではありませんから」
「そうだな。勝った後の事を考えるのは少し気が早かったようだ」
「いえ、私が味方をするのです。もう、勝ったようなものですよ」
「それは心強い言葉だね。王都の有力魔法闘士様の力に頼らせてもらうとしよう」
「ふふふふふ。私、実は男を殺すのが好きなんです。最近は大人しく上品に暮らしていたので、ずいぶん長いこと男を殺していません。今日は、死んでもいい獲物があんなにたくさん居るのです。久しぶりに胸がときめいています」
「男が嫌いなのかね?」
「ええ、この世から男を根絶やしにしたいと思っています」
「……何かつらい過去があるようだ」
「さあ、どうでしょう?とにかく、今回の戦いは、私にとって趣味と実益をかねたものです。せいぜい楽しませてもらう事にします」
「……ああ、そう言う事にしておこうか。感謝する。今回の件については、君にもそれなりの報酬を考えている」
「要りません。私はあなたの傭兵じゃありませんよ」
そう言って私はカディスさんのいる天幕から外に出た。
外では慌ただしく人々が行き交っている。
敵が大門の前に布陣したので、このまま大門前広場が戦場になるようだ。
私の後ろから続いてカディスさんが天幕を出て来る。
「まずは、私達の戦いを見ていて欲しい。君には後詰を頼みたい」
と言って私の肩にそっと手を乗せる。
普段なら男にこうして肩を触れられたら、寒気がして手を振り払うのだけど、このカディスさんには、触れられてもなぜか嫌な感じがしなかった。
この人にはなんだかよく分からない安心感がある。
それがどこから来るものなのかは、よく分からない。
一瞬、この人の部下になら、なってもいいかもしれないという思いが、頭をよぎる。
その思いに、戸惑う自分を感じた。
(私の主人はミーファ姉様一人です。いくら嫌な国でも、姉さまが居る限り、私はあの国を守らないと……)
「分かりました。まずは相手がどの程度の敵か、上から見させてもらいます」
と言って私は広場の端に歩いてゆく。
氷の足場を空中に作って駆け登る。
広場正面にある、役場の尖塔に向かう。
街に告知が有る時に鳴らされる大鐘が、尖塔の内側に吊るされている。
その大鐘の前に開けた平たい足場に座り、街壁の外に布陣する敵の軍勢を眺める。
荷運び人や従者を除いた四百ほどの兵が大門前に布陣していた。
残りの百の兵は本陣の守りに残したようだ。
(この程度の兵力で、この要塞の様な町が落とせると本当に思っているのでしょうか?)
敵は森の中を隠れて進み、不意打ちで攻める想定でこの兵力を見積もったのかもしれない。
だとしたら、敵側の思惑はすでに外れている。
(これもあの赤葉と言う名の密偵が、生きて戻ってくれたおかげですね)
どうやら、今回の戦いでは私達の方に天風が吹いているようだ。
だが、天の意思は気まぐれだ。いつどちらに向かって風向きが変わるか誰も分からない。
流れがこちらにあるうちに敵の戦力を叩き潰さないといけない。
「私は本業が密偵なのですけど……、闘技場で戦ううちに、派手な戦い方も覚えました。周りにばれる事を気にしなくてもいい戦い方は楽でいいですね。誰か暗殺する時みたいにこそこそする必要も無いですから」
と自分に言い聞かせるように独り言を言ってみる。
私は今まで本気で戦った事が一度も無い。
いつも何かの縛りの中で実力の一部だけを使って戦ってきた。
その結果、戦いに負けて逃げる事もあったけど、内心では自分が敵に負けたとは思っていなかった。
本気を出せれば、誰にも負けないという自信が私にはあった。
全力を出してなんでもやっていい戦いと言うのは今回が初めてだ。
私の自信がただの過信かどうかが、この戦いで証明される。
その事にすこし怖い気もした。
(実際は、私の実力はそれほど大した事は無いのかもしれない……)
弱気な自分が顔を覗かせる。
いつも大口をたたいている私は、本当の私では無い。
本当の私は気の小さいただの小娘だ。
(お姉様……)
ミーファお姉様の優しい笑顔を思い出すと、少し心が落ち着いた。
(お姉様、私、やります。お姉様の為に、あのガルゼイを必ず王都に連れ帰ります)
そう心に決めて、足元を行きかう人々を上から眺めていた。
敵兵の前列に杖を持った一団が整列して、高く杖を掲げる。
杖の前の空間から大きな岩が現れて、大門に激突する。
こちらの兵も街壁越しに矢を放つけど、向こうの大盾兵にほとんど防がれている。
カディスさんが街門上のやぐらに登る。
彼が両腕を高く掲げて集中すると大門の前の地面から太い植物の幹が生えて来て、敵の岩石攻撃を防いで、なおかつ相手が攻撃に使った大岩を植物の手で投げ返していた。
(これほどの規模で緑魔法を使えるとは、なんて規格外な力……)
私のお師匠様も緑魔法の使い手だ。
でも、これほど大量の植物を出現させて広く壁を作るほどの魔法は、私のお師匠様には出来ない。
私のお師匠様の専門は、植物の棘の毒での暗殺だ。
細い蔦を影の中から伸ばして自在に操り、敵に気付かれないように、密かに接近させる技術に特化している。相手の私室の花瓶に自分の植物を潜ませて盃に毒を滴らせるような、植物を遠隔で操作する使い方が得意だ。
同じ緑魔法でも、カディスさんと私のお師匠様では、使い方がまるで違う。
(暗部の人間と王族との違いですね……)
カディスさんの植物は毒を持たないように見える。
あるいは毒を使おうと思えば使えるのかもしれないけど、あの人はそう言う戦い方は決してしないだろうという確信のようなものが私にはあった。
私も毒の生成は出来ないけど、用意した毒を氷弾の中に入れて、遠くから敵の使う井戸の中に投じるような使い方をしたことは有る。
今も私は懐に猛毒の瓶を持っている。
でも、今回の戦いでは、この瓶の中身は使わない方がいいだろう。
私個人の戦いなら躊躇なく使うが、あのカディスさんの王族としての名誉ある戦いを、私の薄汚い毒薬で汚すわけにはいかない。
(今回、卑怯な手は封印ですか。つまり、本当の私の実力が試されるのですね。良いですね。こんな機会は今後もう無いかもしれません。とりあえず、やれるだけの事をやってみましょう)
敵の魔法杖による岩石の攻撃が病むと、次に全身を鎧で固めた騎士が前列に出て来て、長剣を振り始めた。
門の前を覆うカディスさんの植物が斬り飛ばされるが、斬られる側から新しい植物が生えて来て、また大門を覆う。
そして、高く伸びた植物の上の枝先が蔦となって細く長く伸び、空中でくねくねと動き始める。
何度かそうして動いていた蔦が突然大きくしなり、先端が目で追えないくらいの高速で空気を切り裂き、敵の騎士目掛けて振り下ろされる。
蔦の鞭を受けた鎧の騎士達は人形のように軽々と後方に弾き飛ばされていた。
蔦の鞭を受けた鎧がべっこりとへこんでいる。
鎧のおかげで死んでは居ないだろうけど、あの様子ではあばらの何本かは折れているはず。
(これでは、私の出る幕は有りませんね)
敵の攻撃があとどれくらい続くかは分からない。
カディスさんも魔法を使い続ければ、魔力回廊が消耗するので、その時は私が大門の防御を交代すればいい。
(しかし、このままで済むとは思えませんが……)
森の方から六騎のワマが早い速度で敵の後方に真っ直ぐ接近して来た。
あれは森人の分隊のようだ。
(でも、たった六騎でどうする気でしょうか……)
その動向に注視していると、敵の後方の騎馬隊から一騎がその分隊の騎兵に向かって駆け出してゆく。
(あれは……?まさか、ネルガル?)
その後、敵の騎兵五十騎が全て、六騎の分隊を追いかけて、森に走ってゆく。
(上手く敵の隊を分離させましたね。ああ、聖女を囮に使ったんですね)
その後、敵の騎兵隊は森に入れなくて戻って来たけど、それと入れ替わりに軽装歩兵役百人と、荷物持ちらしき屈強な男たち五十人程が森に向かって進軍して行った。
(あの、荷物持ち達、本隊の騎士達より体が大きいですね。少人数で大荷物を持つから、より大柄な人員を選抜したのでしょうか?)
敵の隊の編成にいくらかの違和感があったが、ここからでは何の助言も手助けもしてやれない。
なんにしても、これで門を攻める敵の戦力を減らすことが出来た。
敵にしてみたら、後方の森にこちらの戦力が潜んでいる状況を放置できなかったのだろう。
先にそちらを討って後方の憂いを無くす決断をしたようだ。
(ネルガルも森に入って行きましたね……)
あの下衆は、かなりの重症を負っていたから、昨日ほどの脅威にはならないはずだ。
大門を攻めていた敵の騎士達が一度後方に撤退してゆく。
そして、少し下がったところに、また魔法杖を持った二十人程の魔法士服の男たちが並ぶ。
彼らは杖を街壁の上の方に向けている。
杖先から、先ほどの大岩の半分くらいの大きさの中岩を上空目掛けて打ち出した。
高い軌道でその中岩が街壁を越えて大門前広場に落下してくる。
中岩と言っても一抱えもある大きなものだ。
あれが人に当たったら、ただの怪我では済まない。
大門前広場には、こちらの戦力の全て百三十人の騎士団と二十人の巡視隊が、整列して弓を構えている。
彼らの頭上に大きな岩石が次々振って来る。
皆、その岩を見上げて恐怖に目を見開く。
(出番のようですね)
「この場合は『尖氷追尾弾』ですか?」
これは、魔力で作られた魔法物質に向けて、先の尖った氷弾が自動的に追尾して迎撃する魔法だ。
人間の体も魔力を含むけど、肉体に含まれた魔力にはこの魔法は反応しない。
味方の魔法を私の中であらかじめ登録しておいて、それを除外するように設定しておけば、敵の魔法だけを撃ち落とすことも出来る。
王国の暗部組織に居た時は、人前でこの魔法を使う事を禁じられていた。
だから、炎帝の養女と光魔法の赤服女との模擬戦では、使っていない。
でも今の私の主人はミーファ姉様だ。
姉さまの利益の為には、全ての選択肢の行使が許される。
そう私が決めた。
敵の投じた岩の十分の一くらいの大きさの私の氷弾が、一度に二十個ほど発射された。
私の中でカディスさんの魔力は登録済なので、彼の緑魔法の方に私の氷弾は向かって行かない。
飛んでくる岩を、私の小さな氷弾が最短距離で的確にとらえる。
空中で全ての岩が砕けて、小さな破片が辺りに落下する。
下にいた騎士達は小石の雨を頭からかぶるが、それで怪我をした人は一人も居なかった。
やぐらの上のカディスさんが、笑顔でこちらに右手を高く掲げてくれた。
それを見て、つい嬉しい気持ちになってしまう。
自分の頬が緩むのを感じて、表情を引き締める。
敵の魔法杖から次の岩が発射されると、カディスさんの蔦の先端が街壁の上まで伸び上がって来て、岩を敵の方にはじき返す。
敵は自分の岩が跳ね返って来たのを見て、あわてて後退するが、何人かが岩の下敷きになって倒れていた。
それで、魔法杖を持った隊がまた後方に下がる。
魔法杖隊は杖を違うものに持ち替えていた。
(魔法を変えるみたいですね。それにしても、ずいぶん気前よく魔石を浪費しますね)
この敵の部隊は、かなりの資金に余裕があるようだ。
二十人の魔法士の杖から一斉に火球が発射される。
カディスさんの緑魔法に当たって、赤い火球が辺りに飛び散る。
魔法植物が火に焼かれて崩れ落ちると、新たな植物が地中から伸び出て来る。
その植物が完全に太くなる前に、敵の騎士が前に出て、斬り飛ばす。
敵兵が火魔法と剣の攻撃を交互に繰り返して来る。
(まずいですね……)
あれでは、カディスさんの魔力回廊を休ませる暇が無い。
やぐらの上のカディスさんがこちらを振り返って、私を見る。
バツの悪いような弱気な顔をしていた。
(ふっ、そんな顔して見なくても、分かっていますよ。私の出番ですね)
空中に小さな氷の足場をいくつも作って、真っすぐ大門の上のやぐらに向かって走る。
カディスさんの横に立つと、彼はほっとした顔をした。
「代わります」
とだけ私は言った。
「助かる」
と短く答えて、彼は両手をだらりと下げた。
交代で私が両手を高く掲げる。
一瞬で大門全てを覆い尽くすほどの氷の壁が目の前に現れる。
その、壁に敵の魔法士が火球を発射する。
たくさんの火球が私の氷の壁に当たって爆発する。
辺りに煙が立ち込め、風に流されてすぐに消えた。
火球の爆発は私の氷の壁に何の傷も与えていなかった。
「炎帝の養女の魔法はもっとずっと熱かったですねえ。あなた達の杖の性能はその程度ですか?」
と、相手が聞く事に期待しないで、独り言のように言ってみる。
後列の騎士達が魔法士の前に出て、氷の壁を長剣で斬りつける。
固い氷に剣が跳ね返されて、彼らの腕を痺れさせていた。
「ああ、それと、私の氷壁は敵の攻撃に自動的に反撃しますから」
氷の壁から刺状の氷の槍が一斉に突き出て来て、敵の騎士を鎧ごと貫く。
氷の槍をかろうじて避けた騎士達が慌てて後ろに下がる。
「逃げても無駄ですよ」
氷の槍が、今度は矢のように発射される。
その魔法で後ろに下がった騎士達も体を貫かれて地に伏す。
敵の後方から素早く大盾隊が走り出て、負傷した騎士達の前に立つ。
横一列に並んで魔鋼の盾で氷の矢を防ぎ、守りを固めた。
騎士達の従者が負傷した騎士の体から氷の矢を抜こうとしている。
「ああ、素手でそれに触ったら、大変な事になりますよ」
と言う私の頬に意地の悪い笑いが浮かんでいるのが自分で分かった。
「ギャー!」
「何だ⁉」
「うわ!手が、手がー!」
氷の矢に触った人間の手がそのまま凍り付く。
氷の矢が体に刺さって倒れた騎士達も、徐々に全身が凍結して次々に息絶える。
「あのセシルのジンにはこの氷が通じなかったけど、やはり普通の人間にはしっかり効くようですね」
「これが氷魔法か……。恐ろしい力だね」
カディスさんが腕組をして、私を見る。
「氷魔法が恐ろしいのではありません。『私の』氷魔法が特別なのです」
と得意になって胸を張る。
「私の植物も、こうして凍らされてしまったら、手も足も出ないな。君とだけは敵対したくないものだね」
「御冗談を。先ほどの攻撃がカディス様の実力の全てでは無いですよね。まだ何か奥の手は持っていらっしゃると私は考えていますが?」
「ああ、他にも使っていない手はあるが、この戦いがどれくらい長くなるかは分からない。まだ敵に手の内の全ては見せられないかな。しかし、それは君も同じだろう?」
「私の魔法には、卑怯過ぎて人前で使えない手が多いのです」
「戦は所詮殺し合いだ。負けない為にはどんな手も使うべきだろう」
「それでもです。私の魔法で、カディス様の戦いに汚点を残すわけにはいきません」
「……私の名誉にまで気を遣ってくれるのかい?うーん、参ったな……。私は君が欲しくなってしまった」
と言って悪戯っぽく私に微笑みかける。
その、飾らない笑顔に胸がドキリとした。
「何を⁉私には既に生涯の忠誠を誓う主人が居ます。引き抜きはやめて下さい」
「分かっている。だが、もし、ラグナ王国で何か政変が起きて、君の主人の立場が揺らぐことがあったなら、君の主人と一緒にいつでもヤマに来たまえ。歓迎するよ」
「……ええ、そうですね。私の忠誠は国にはありません。もしその時が来たら、お世話になる事にします」
「ははは、やったぞ!約束だ!」
とカディスさんが子供の様に無邪気に喜ぶ。
彼の言葉で自分の顔が赤くなるのが分かった。
「それより、カディス様。ガイに貰った魔力回復薬は飲まなくていいのですか?あれだけの魔法を使ったのです。魔力がもう少ないのでは?」
「うん?ああ、その必要ない。もう魔力はほぼ完全に回復している」
「は?そんな馬鹿な……」
「これは、私の秘密なのだが、君には特別に教えてもいいかな。今私は地中に広く根を広げて、その根から大地の魔素を集めている。これをやると土地が痩せてしまうのであまり乱用は出来ないが、今は非常時なので仕方ない」
「地中の魔素を?そんな事が可能なのですか?それが出来たら、魔力切れ無しでずっと戦い続けられるじゃないですか?」
「そうなるな。だが、続けて戦うと魔力回廊が疲れる。時々は休憩の必要はあるな」
「長期戦なら無敵では無いですか」
「うん。だから、私は森で戦いたかったのだよ。あそこなら、地中の魔素は取り放題だし、一から植物を作らなくても、周囲の植物を操って戦う事も出来る。正直、森での戦闘なら、万全のネルガル相手でも、負ける気はしないな。まあ、昨日、彼に後れを取った後でこう言うと、負け惜しみに聞こえるかもしれないが……」
と肩を落とすカディスさん。
「いえ、そんな事は……」
彼を慰める言葉を言おうとして、それを我慢した。
私のような暗部の人間が彼の実力を評価するのは、かえって失礼な事だと思ったからだ。
「さあ、次に敵はどう出ますかね……」
と話題を変えるように言って眼前の敵の軍勢を、私は見下ろした。




