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【5万PV感謝】異世界転霊した陰キャモブ顔おやじはとっとと逃げたい、お前ら凄いんだから俺のことはほっとけ  作者: 寝院 駝朗
第8章 VS神殿騎士団編

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165 森の迎撃戦

森を進みながら、ミルさんが時々、横の木の枝をへし折っている。


「何してるんですか?」


「ああ、敵は森の素人だからね。追跡しやすいように痕跡を残してるんだ」


「でも、あの黒風と言う人が居れば、迷わないのでは?」


「あいつは裏切り者で、所詮連中に利用されてるだけだ。敵もあいつの言う事なんか信頼しやしないよ。二重に裏切って、自分達に不利なように案内すると考える人間も、敵の中に居るかも知れないからね。簡単に仲間を裏切る様な奴は、敵からも軽く見られるものなんだよ。あいつは、ソエリ族の為に動いているんじゃない。自分の欲に従ってるだけなんだ。それを本人も分かって無い。腕は立つが、人間が腐ってやがるんだよ。あのネルガルと同類さね。だから、あっちの空気の方が奴には気楽なのかもしれないね」


「でも、ソエリ族とヤマ国が、かつて対立していたなんて知りませんでした」


「昔の話だよ。金やそれ以上に希少な鉱物がこの森の奥にあるのが分かって、そこで暮らしていたソエリ族はヤマの連中に騙されて土地を追われたんだ。その事に反発して武力蜂起しようとしたソエリ族のほとんどが、ヤマ族に追い詰められて皆殺しにされたって話だよ。その時に、いくつもの大きな部族に分かれていたソエリ族のほとんどが、滅ぼされて居なくなったみたいだね。今居るソエリ族は、当時の殺戮から逃げて生き残った色んな部族の寄せ集めさ。

大勢殺されて人数が減って、ソエリ族だけじゃ集落を維持できなくなったから、それで、今では他の人種からの嫁取りも婿取りも認められている。伝統から離れて他の人種とも付き合って、自由に所帯を持つことが黙認されるようになった。そうじゃ無かったらあたしもここに嫁に来てないよ。

先代のヤマ王の時代にソエリ族とヤマ族は和解した。当時、まだ若者だったカディスの旦那が、ソエリ族の立場を良くするために何度もこの街に来て、色々と尽力してくれたらしいね。まあ、あたしがここに来たのは十年前で、ヤマとラグナの戦争の終わった後だから、その辺の事はよく知らないけどね」


「今では、この街では色んな人種が分け隔て無く、仲良く暮らしていますよね」


「もう、辛い歴史を繰り返したくないからね。だから、みんな他の人種に気を遣って、なるべく喧嘩しないようにしているのさ。でも、黒風……ああ、これは森人名でね、本名は別にあるんだが、それはどうでもいいか。あいつみたいにヤマを憎んでる奴も居る。あいつが小さい子供の頃はソエリ族はまだ貧しかったみたいだね。でも、金の採掘を任されるようになってからは、ソエリ族もいい暮らしができる様になった。鉱物の運搬でヤマ王都や、ラグナ王都に行く機会も増えて、街で暮らすソエリ族も大分増えたんだ。一度街の暮らしに慣れたら、もう森には戻れやしないよ。時々森で働く分にはいいけど、ずっと暮らせと言われたら、今の若い連中はみんな逃げちまうだろうね。街の暮らしは刺激があって楽しいからね。

ソエリの伝統をかたくなに守ろうとしている連中は、そのへんの仲間の気持ちがわかって無いんだ。歴史の恨みだけで動いて『こう生きるのが正しい』って説教されても、今の人間は誰も付いて行きやしないよ。まあ、あたしみたいな後から来た余所者が何を言っても、『お前にソエリ族の気持ちは分からない』って言われちまうのが落ちだけどね」


「ミルさんは南の大陸に居た時は何をしてたんですか?」


「悪い事をしていたよ。それで殺されそうになって、逃げてここに流れてきたんだよ。あたしは悪人なんだ。いつかきっとあたしを憎む誰かに見つかって、殺されちまう運命なのかもしれないね」


と自嘲気味に微笑むミルさん。


彼女にも何かつらい過去があるようだ。


そう言えば、この街に着いた初日にエルフのおっさんの屋台で果物を買った。あのエルフのおっさんにも言われた。


『この街には来るのは、大抵、何かの事情持ちで、『事情持ち』はこの街に入る最低限の資格みたいなものだ』と。


「イゼル人の国って大きいんですか?」


「イゼル人は南の大陸で多くの部族に分かれて生活している。こっちの人間は、すぐに、国の名前を訊くけど、イゼル人は国を持たない民族なんだ。部族ごとの集団で家財道具ごと移動して暮らしている。その一つの部族の人数が何万人から何十万人にもなるから、それを国と言えば言えるかもしれないね。

ただ、最近は街を作って定住している部族もたくさん居るよ。街に定住している集団は農耕や牧畜で生計を立てているね。そうして作られた作物や家畜は、ラグナ王国やファルサス帝国みたいな北の豊かな国に売れるんだ。それで北の大陸の布や、宝飾品、美術品、食器、武器、なんかを南に持って帰る。そうやって、貿易で身を立てる人間も居れば、定住者を襲って略奪することを生業にしている部族も居る。そうした略奪者から定住者を守る傭兵の様な部族も居れば、定住しながら他の部族を滅ぼして居住地区を広げていく部族も居る。まあ、分かりやすく言えば何でもありな連中だよ」


「へえ、ずいぶん多様な暮らし方ですね」


「多様というより、原始的なんだよ。生活の質で言えば、北の大陸の国々の方がはるかに上だけど、南は食料と資源が豊かで、人も体が大きくて強い。南の大陸ではワマの代わりに『竜騎』っていう、大きな四足のトカゲに騎乗する。『竜騎』はワマより丈夫で速いんだ。それで、北の富を狙って定期的に北に遠征して攻撃をかける部族も居るけど、大体は返り討ちにあってやられてるね。

北の大陸を攻めるには人を送る大きな船が必要になる。でも、南には、戦艦を作る造船技術が無いんだよ。それで粗末な輸送船で兵を送っている間に、海上で北の戦艦に撃沈されて、海の藻屑になって終わりさ」


「オスリア近郊の港町が、時々海賊に襲われるという話は聞いたことが有ります」


「小型船の集団で攻撃してくる小規模な海賊は、オスリアみたいな大きな街は軍船がいるから手が出せないんだよ。海賊って奴は弱い者苛めしかできないコソ泥みたいな連中だからね。敵が手強そうな場所は絶対に攻めないよ」


やはり元イゼル人だけあって、ミルさんは南の大陸の事情に詳しい。


ミルさんは『悪い事をしていた』と言ったが、一体何をしていたのだろうか。そのへんを突っ込んで訊ねる勇気は俺には無かった。


ミルさんの使う金属糸の武器を、南の暗殺教団の使う『暗殺道具』とネルガルは言っていた。という事は、ミルさんはその『暗殺教団』の出身なのだろうか。


一人の森人がミルさんの横に駆け寄る。


「敵が来ています。予想より早い」


「そうかい。じゃあ、この先で迎え撃つよ」


その森人は、他の森人達の所へ走って行き、それぞれにミルさんの言葉を伝えている。


「どうするんですか」


「ああ、この少し先に、開けた場所が有る。そこには小高い丘があるから、その丘の上で待ち構えて、森から開けた場所に出てきた敵を狙い打つ」


「よくそんな手ごろな場所が近くに有りましたね」


「ソエリ族が手を入れて人工的に整備した場所だよ。群れを成して襲って来る魔獣をおびき出して広い場所で迎え撃つのに使うんだ。森の中の乱戦になると、素早い魔獣には勝てないからね。こんな場所が、森の中には何か所もあるんだよ。ここが落ちそうになったら、すぐに他の場所に移動できる様にしてある。そうやって魔獣の数を減らして、逃げながら戦うのがあたし達の戦い方だ。ソエリ族は数が少ないからね。真っ向勝負はしないんだ。というより出来ないと言った方がいいね」


「でも、敵の軽装歩兵は、皆、円盾を持っています。高所から矢を打ち下ろしても、盾で防がれるのでは?」


「あたし達は魔獣と戦っているんだよ。魔獣相手に弓矢なんか使う訳は無いだろ?」


「魔獣は矢で死なないんですよね?」


「そうだよ。だから、もっと別の攻撃をする。まあ、まずはあたしたちの戦い方を見てな」


少し進むと森が切れた。


その先がなだらかな登り勾配になっている。


皆でその開けた土地を進む。


丘の頂上に簡易な石垣が積んであり、身を低くすれば体を隠せるようになっている。


その石垣の後ろで敵を待つ。


「よし、隊列を組め!」


石垣から丘の奥の方に拳大の大きさの石が大量に積んである。


五人の森人がその石を手に持ち、石垣の後ろで横に広がって立つ。


次の五人の森人も石を一つ手にして、同じように広がり、最初の五人から離れた後方に立つ。その後ろ、またその後ろ、と言うように三十人の森人が六列になって、後ろに続く。


ハランさんが森人の列に混ざって、中ほどに立っている。


俺やアスル達は、横に避けて、森人達の動きを見ていた。


何をするのだろうか。まさかあの石を投げる気か。あんなもので魔獣が死ぬとは思えないが。


森人達は、石を一つずつ持ったまま静かに立っている。


森の切れ目から、敵の集団が姿を現した。


敵の軽装歩兵百人は、森の切れ目から出たところで集合して、こちらを見上げている。


軽装歩兵の後方に荷運び人が五十人程ついてきていた。その荷運び人たちは戦いに巻き込まれないように森の中から出て来ない。


敵はすぐには攻めて来ない。こちらを指さして何人かの男たちが話し合っている。


罠の可能性を考えているのだろう。


敵はで横に二十人くらいで五列の隊列を組む。


その隊列の後方にネルガルが立っていた。


ネルガルの左右に一人ずつ同じ軽装歩兵の男が立っていた。


顔に見覚えがある。


二人は昨日、屋根の上に現れて、ネルガル救出に動いた人間だ。


他にも救出に来た人間は居たが、昨夜の人間でここに来ているのは、あの二人だけみたいだ。


残りの強者は、大門前に残ったのだろう。


憎々し気にこちらを睨みつけるネルガルと対照的に、左右の二人は楽しそうににやけている。


「居るか!」


不意にハランさんが声を上げた。


「あの中に居るのか!」


目が血走って、両肩に炎の様な怒気が立ち昇る。


「ああ、居るよ!」


とそれに答えるミルさん。


「一番後ろに三人いるだろ。その左右の二人だ!」


「そうか!分かった!」


それだけ言って、ハランさんは口を閉じる。


手にした石を強く握りしめている。


ハランさんの握力で、今にも石が砕けそうに見える。


敵の一列目の二十人がゆっくりと丘を登って来る。


こちらの先頭の五人が腰から長い紐の様な物を取り出した。


紐の真ん中には楕円の皮の様な物が付けられている。


そこに石を乗せて、紐の両端を片手で掴み頭上で回し始める。


紐を使った投石機だ。


矢より射程が長く、強力な攻撃が出来、投げる石も入手しやすい事から、投石機は古代から集団戦闘の兵器として多用されてきた歴史がある。


イタリアルネッサン期の芸術家ミケランジェロ作のダビデ像も、この投石機を肩から下げているそうだ。


高所から投げ下ろされる投石器の攻撃は歩兵にとって大きな脅威となる。


(だが……)


先頭の五人の森人が敵に向けて同時に投石機の石を放つ。


放された紐の先端が音速を越えて、『パン!』と高い炸裂音が鳴る。


拳大の石が真っすぐ敵に飛んで行く。


敵の軽装歩兵の一列目二十人が円盾を前に構え、その場で片膝を着いて低く構える。


彼等は飛んでくる石をよく見て、器用に盾で受け流す。


そして、すかさず立ち上がり小走りに前に進む。


次の列の五人の森人達が投石し、またその次の列が投石する。


こちらはそれを繰り返し、三十人の森人が一巡する。


敵の軽装歩兵は、飛んでくる石を盾で防ぎながら、少しずつ傾斜を登って来る。


こちらの攻撃でまだ一人の敵も倒せていない。


(だよな。投石機の攻撃は集団戦の基礎だ。当然対応してくるよな。この後、どうするのか……)


横のミルさんの顔を伺うと、落ち着いている。


まだ何か策がるのだろうか。


敵の一列目がこちらの攻撃を防いだ後で、敵の二列目と三列目も盾を構えて進軍し始めた。


そして四列目五列目も前に進む。


その四列目と五列目の軽装歩兵は円盾を背中側に担いで、手に長弓を構えている。


前三列の盾隊でこちらの攻撃を防いで、弓の射程に入ったら、後ろに列の兵が矢を射るつもりなのだ。


「次!ネンダン行くよ!」


と短くミルさんが言う。


すると森人の一人が後方の地面の土を払い始めた。


その薄く払われた土の下に木の板が見えた。


森人が木の板をどかすと、その下は収納空間になっていて、中に陶器の丸い壺の様な物がたくさん入っている。


一つ一つの黒い壺はさっき投石した石より一回り大きい。


森人達はそれを手に取って、先ほどと同じように、投石器で回し始めた。


それを、敵の前列に向けて放つ。


敵の軽装歩兵は先ほどと同じように片膝を着いてそれを盾で防ごうとする。


その盾に当たって陶器の壺が砕ける。


砕けた壺の中から何か液体が飛び散った。


飛び散った液体が、敵の体のあちこちにかかる。


前列の敵兵が、あわてて立ち上がろうとするが、上手く立ち上がれない。体を揺すって身悶えしている。


「あれは?」


とミルさんに訊く。


「あの壺の中身は、魔獣ネリネルの粘り袋が入ってるんだ。ネリネルは短い足が沢山あるでっかい芋虫みたいな魔獣で、敵に粘る液をかけて動けないようにしてから、食べるんだよ。あれは空気に触れたとたんに固まって、周りにある全ての物を強力にくつけるんだ。一度くっついたら柔らかくねばついて何をやっても取れない。剣でもなかなか切れない厄介なしろもんだよ」


(ネンダン……。ああ、粘弾か)


二列目、三列目と、森人達が立て続けに粘弾を飛ばす。


敵の二列目三列目のいる辺りにも粘弾が着弾して、何人かの敵兵が行動不能になっている。


こちらの二巡目が全て粘弾を放ち終える。


「よし!仕留めろ!」


森人達は再度、石を手に投石機を回し始める。


そして今度は、石を放つ前にその場でくるりと体を横に一回転させ、投石器にさらに強い回転をつけてから、石を投じる。


先ほどより威力のある早い軌道で石が飛ぶ。


身動きが取れなくなっている敵兵の頭部目掛けて、正確に石が着弾する。


鈍い破裂音がして、半兜が宙を舞う。


何人かの敵の頭部が砕けて、赤い血しぶきが飛散する。


ハランさんも石を投じる。


他の森人よりも強力な石弾がうなりを上げて飛んで行く。


その石弾はぐんぐん飛距離を伸ばして、敵の最後方に居るネルガル達三人の方にまっすぐ進んで行った。


左端の男の腹目掛けて石弾が飛び、男がその場で跳び上がって避ける。


両足を広げて跳び上がった男の股間の下を石弾が通り過ぎてゆく。


「わっ!」


と驚いたように左端の男が声を上げている。


それを見て右端の男がゲラゲラ笑っていた。


「ハラン!今は敵を減らすのが先だよ!」


とミルさんが注意する。


「分かってる!ちょっと挨拶をしただけだ」


と獰猛な獣のような笑顔でそれに答えるハランさん。


本当に彼は人が変わってしまったみたいだ。


あの穏やかで優しかったハランさんの面影は、今の彼のどこにも残っていない。


俺は、その変わり果てた彼の様子に一抹の虚しさを感じていた。


「よし!また粘弾!交互に行くよ!」


ミルさんの指示で、森人の隊列が一列ごとに、粘弾と石弾を交互に放つ。


敵が混乱して隊列が乱れている。


後方の二列の隊が、一度後ろに下がって待機する。


前列の三列も粘弾で拘束されていない者は慌てて後方に下がる。


動けない仲間を助けて一緒に下がろうとしていた兵が、頭に石弾をくらって崩れ落ちる。


「動けない者を助けようとするな!自分だけで下がれ!」


と指示を出すネルガル。


「ふん、分かってるね」


と不敵に笑うミルさん。


「あの、粘弾は捕まった仲間を助けようとした人間を倒すための物だよ。粘弾でくっついて動けない奴はいつでも殺せるから後回しにしてもいいんだ」


ミルさんの言葉と同時に、ネルガルとその隣の二人が丘の傾斜を疾走して登って来る。


「親玉が出てきた!打て!」


それに反応して興奮気味に叫ぶミルさん。


「うお!」


ハランさんが渾身の一撃を飛ばす。


ネルガル達三人は粘弾で動けない仲間の前に立ち塞がり、円盾で石弾を受け流す。


そして、動けない仲間に肩を貸して立たせながら、ゆっくりと後方に下がる。


何発もの石弾がその三人に降り注ぐが、そのことごとくが防がれる。


「駄目か!くそっ、まだ残っている動けない奴らを先に仕留めるんだ!」


ネルガル達三人への攻撃を諦めて、粘弾で拘束された敵兵に石弾が飛ぶ。


そのどれもが正確に敵兵の頭を粉砕していた。


ここまでの攻防で敵兵が十人近く減らせていた。


生きていても怪我で動けない敵も含めてそのくらいの数だ。


「散れ!」


ネルガルの指示で、今まで隊列を組んでいた敵兵がバラバラに左右に距離を取り、丘の裾野一面に広がって立つ。


「何をする気だい?」


と首をかしげるミルさん。


敵が散開したのを見て、背筋が寒くなった。


「まずい!ミルさん!撤退だ!」


「どういう事だい?」


「日露戦争の二百三高地だ!敵は広がって一気に突撃する気だ。こっちは数が少ない。あの数でバラバラに突っ込まれたら、石弾の弾幕では防げない。引き時だ。殿は俺達に任せてほしい。森人を先に移動させてくれ」


俺の言葉でミルさんの顔に緊張が走る。


「にちろ……?ああ、分かった!撤退!」


ミルさんの言葉で森人達はすぐに撤退を始めてくれた。


駆け足で丘の反対側を下って行く。


その時に、地下の収納に残った粘弾を各自で持てるだけ持って、持ちきれない残りは全て破壊していた。


「突撃!」


ネルガルの声で敵兵が一気に丘を駆け上ってくる。


「ちっ!判断が早いな!英子!頼む!牽制してくれ!」


「行くわよ!」


英子が前に出て、広範囲に雷撃を飛ばす。一部はネルガルと二人の強者が剣で受けるが、横に広がった弱い雷撃が、傾斜を登って来る敵兵の半数くらいの体に着弾していた。


雷撃をくらった敵は、一時その場でうずくまるが、すぐに立ち上がって歩みを止めずに登って来る。


「広げるとやっぱり効かないわね」


悔しそうに言う英子。


「でも、あれで敵の進軍速度が遅くなった。足止めとしては上出来だ。俺達も下がるぞ!」


「待って、もう一激!」


英子の二激目がさらに敵を痺れさせる。


「アスル!英子を頼む!」


「任せろ!」


アスルが英子をお姫様抱っこで抱えて、丘の反対側を駆け下りて、疾走してゆく。


「ひっ!落ちる!怖い!」


「エイコさん!喋ると舌を噛むぞ!」


「あんまり揺らさないでよね!でも急いでね!」


「注文が多いな、了解だ!」


「妖怪⁉誰が妖怪よ、失礼ね!」


「ん⁉何を言ってるんだ⁉」


アスルと英子が色々と言い合いながら森の中に消えてゆく。


「走るぞセシル!俺達が殿だ!気を付けるのはネルガル達強者三人だ!」


うおーん!


脚を黒衣の老人と同化させて走り出す。


「はい!」


セシルも全身をジンで輝かせて飛ぶ様に疾走する。


振り返った丘の上にネルガル達三人の人影が立っているのが見えた。


その三人は自分達だけ先行して追って来る気は無いようだ。


後に続く仲間が上がって来るのを待っている。


一人でマードの町に来て危うく死にかけたことで、単独行動への警戒心が強くなっているようだ。


「追って来ないな!いいぞ!俺達も森人隊に合流するぞ!どっちだ⁉」


「このまま、真っすぐ行ってから斜め左に折れて行きます!」


「分かった!セシルの魔力探知はいつも凄いな!」


「えへへー。そうですか?もっと褒めて下さい!」


とにやけるセシル。


「セシルさん凄いぞ!」


と走りながら頭を撫でてやる。


「えへへー、嬉しいー」


こんな時にいちゃいちゃしていていいのだろうかと、少し後ろ暗い気持ちになる。


(ま、いっかぁー……。婚約者だしな……)


取りあえず今はあまり深く考えない事にしておいた。

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