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追放聖女の気ままな旅 〜遺物技師と動く家で世界を巡る〜  作者: ポムの狼


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第4話 動く家

「こっちだ。ついて来てくれ」


 男の後をついて行くと森を出て、街道へと出た。

 そこには、これまた見たこともないものが停まっていた。


「な、な、な……なんですか? これは?」


 そこにあったのは黒くて太く大きな車輪が四つついた、へんてこな小屋だった。御者台のようなものもあり、構造自体は馬車に近いが車輪の上に乗っている物が決定的に違う。


 車輪の上に乗った小屋のようなものは、二階建てのドールハウスのような形をしていたのだ。


 白い壁に黒い木の柱や窓枠。

 オリーブグリーンの瓦屋根。

 屋根の半分はガラス張りになっていて、随分と凝った造りだ。

 大きさは車輪の部分を除くと私の背丈と同じくらい。神殿にあった物置小屋と同じくらいの大きさだ。


「入ってみろ」


「え、ここにですか?」


 御者台があったのとは、反対側にある木製の入口。小さな真鍮のドアノブをひねって扉を開け、男は屈みながら中へ入っていった。

 二階建ての形をしているが、仮に中も外見と同じように二段に分かれていたら、男はずっと屈みながら過ごさなければいけないだろう。


 心臓がどくどくと脈打つ。得体が知れない恐怖と入ってみたいという好奇心が私の中でせめぎ合っていた。


(これはきっと創世の女神の思し召しよ! 入るしか選択肢はない!)


 私は意を決して、自分もドアから中に入った。


 中に入ってみて、驚いた。

 中は、ちゃんとした大きさの家だったからだ。


 入ってすぐにダークブラウンの板張りのリビング。奥にはキッチンと石造りの暖炉まである。振り返ってみると、入るときは私の胸の高さ位しかなかった入口が私の背丈より大きな入口に変わっていた。


「あなたは、魔法使いか何かですか?」


 私の言葉に男は首を傾げた。


「いや、俺はただの遺物技師だ」


 遺物技師なんてお仕事聞いたこともない。私にはそれでは説明不足なのだが、男はそのことについて詳しく説明する気もないらしい。


「二階に客間が一つ空いている。案内しよう」


 男の説明は簡単だった。階段を上がってすぐのドアを開けた部屋が私の部屋。その隣がバスルームだという。私はその両方に感激した。


 私に貸してくれるという客間は、小さな寝台とクローゼットと机があるだけの簡素な部屋だった。しかし共同部屋でしか寝起きをしたことのない私には、自分専用の部屋があるだけで心が躍った。神殿時代は、勝手に双子聖女が私のベッドに潜り込んで寝ることもあったから、よく体が痛くなった。


 そして、隣のバスルームというものを見て私は言葉を失った。


「これは、なんですか!?」


 場所だけ教えていなくなろうとした男が私の言葉に戻ってきてくれた。私はタイル張りの壁についている物を指さした。

 そこには金色のラッパのようなものが壁から生えていて、無数の細かい穴があいている。


 男は私の様子に首を傾げた。


「何って、見たら分かるだろ。シャワーだ。すまないが、湯船はまだない……もしかして、この国にはシャワーはないのか?」


 そんなことは知らない。少なくとも神殿にはなかった。

 私がこくこくと頷くと、男は中に入って使い方を教えてくれた。壁についている金のレバーというものを下に下げると温かいお湯が出てくるらしい。信じられなかった。


 私が目を輝かせながら説明を聞いていると男はまたふっと笑った。悪い人ではないのかもしれない。


「そんなに気になるなら、使ってみろ。もう遅いから、仕事は明日からでいい」


 男はそれだけ言うとさっさと出て行ってしまった。


(使っていいというのだから、使わせていただきます!)


 私は、バスルームの鍵を閉めて、一気に服を脱いだ。三日分の汗が沁みこんでいるので、裸になるだけで爽快感がある。バスルームの隅にリュックサックと一緒に服を畳んで置く。


 私はガラスの扉を押してシャワーがついている部屋に入った。男に言われた通りにレバーを下げると頭上から温かいお湯が細かい雨のように落ちてきて、私は小さな悲鳴をあげた。だが、すぐにシャワーの心地よさに召天しそうになる。


(あぁ……これは、背徳的だ)


 でも、これは一度知ってしまったら離れがたいものがある。

 私はシャワーに打たれながら両手を組み、創世の女神に謝った。


「ビビ。お客様、お召し物をお洗濯します」


「はい……お願いします……って、なに!?」


 慌てて振り返るとスイカぐらいの大きさの白い岩がふわふわと宙を浮いていた。私がさっき神聖力を込めた魔導コアと同じ水色の丸い目と小さな腕が生えている。そいつは、私のさっきまで着ていた服をその小さな腕で抱えていた。


「ビビ。お洗濯いたします。完了時間は一時間です」


 宙に浮かぶそれは、私の言葉を無視するように、バスルームの端にあった銀色の大きな箱に私が着ていた衣類をぽいっと放り込んだ。


「な、なにをしてるの!?」


 私の言葉もむなしく、銀の箱の扉が閉まり、ぐわんぐわんと音を立て始めた。


「ビビ。お洗濯です」


 こんな怪しい妖精が住みついているだなんて説明は受けてないぞ。


「……本で読んだことがあるわ。あなた、さては家事妖精ね」


「ブブ。お洗濯です」


 私はこの時点で、妖精にまともな返事を期待するのをあきらめた。


 その後私は、シャワーと置いてあった石鹸で全身を洗い、ガラスの部屋を出た。

 出るとすぐに妖精が今まで触ったこともないようなふわふわなタオルを持ってきてくれて、それで体を拭いた。

 リュックの中から寝間着を出して着替えたが、ぐわんぐわんと回る銀の箱が気になって、結局洗濯が終わる一時間後までバスルームに膝を抱えて居座ってしまった。


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