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追放聖女の気ままな旅 〜遺物技師と動く家で世界を巡る〜  作者: ポムの狼


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10/12

第10話 初めてのお仕事探し

 次の日。先生はなぜだか急に張り切り出した。

 朝からリビングの壁にカレンダーなんか貼ったりして、そこに勝手に私の自立計画を書き出し始めたのだ。当の本人の私以上にやる気に満ち溢れている。


「いいか、ヨシュカ。こういうのは、計画性が大事なんだ」


「はい……」


「今月末までに、まず仕事を決めよう。新居も昨日不動産屋で内見したところから選ぶんだぞ。あと家具も新しく入れないと生活できない」


「はい……」


 私は力なく返事をしながら先生の話を聞いていた。まだ二週間ほどしか先生と過ごしていないが、先生はこういうふうに「一度やる」と決めたら、変にやる気を出してしまうところがある。おそらく、私が何を言っても無駄なのであろう。


 私は先生の話に力ない相槌を返していると、とあることに気がついてしまった。来月の中頃、カレンダーの八月十七日に丸がしてあって、「出国」と書かれていたのだ。


「先生、その出国というのはなんですか?」


「あぁ、これか。俺は旅行者としてこの国に入国しているから、出国するまでの期限があるんだ。どんなに遅くても八月十七日には、この国を立たないといけない」


「え」


 それは完全に寝耳に水だった。

 金づちで頭を叩かれたようなショックが私を襲った。


「じゃあ……八月十七日には、先生とお別れしないといけないってことですか……?」


 先生は私から目を逸らし、頭を掻きながら、「まぁ、そういうことになるな」と呟いた。


「だから君は、この日までに準備しないといけないんだ。分かったら、少しはしっかりしろ」


 いつもは、こんなことを言わない先生が今日はやけに厳しかった。



 昨日は部屋探しについて来てくれた先生が、「仕事探しにまで世話役がついて行ったら、見つかるものも見つからない」と、職業紹介所の場所が書かれたメモを私に持たせるとさっさと私に出かけるように急かした。


「でも、先生」


「大丈夫。君は真面目だから、どこへ行っても上手くいく。必要なのは勇気だけだ」


 先生は困ったように笑って、そう言った。

 そんなふうに言われたら、もう行くしかなかった。私だって先生を困らせるのは本意ではないんだから。


 行ってきますと小さな声でこぼして、私は動く家を一人で出た。

 家を出た私は、下ろしていた髪を髪紐で一つ結びにした。

 髪をまとめると神殿で仕事をしていた時の腹に沈むような気持ちが否応なしに沸き上がってきた。すっと背筋が伸びて、背中に無理やり物差しでも刺されたような気分だ。



 メモを頼りに町の職業紹介所までは、なんとかたどり着くことができた。ガラス窓がはめ込まれた扉には、金の文字で『職業案内所』と書かれていたので、すぐに分かった。


 ひぃひぃふぅと呼吸を整えて、両手を組んで創世の女神に祈ってから、意を決して中に入った。


「いらっしゃいませ」


 出てきたのは、私とさほど歳の変わらなそうなメガネの女の子だった。


「あの……お仕事を探しているんです」


「あ! 移住希望の方ですね! 昨日不動産屋に来たっていう」


 田舎とは怖い。あっという間に噂が広まるんだな。

 メガネの女の子は、私を椅子に座らせて温かいお茶まで出してくれた。私がびくびくと震えていたから、気をつかってくれたのかもしれない。女の子も木の板の上に紙を置いて、私と向かい合うようにして座った。


「私、ここでお仕事をご紹介しているダリナです。じゃあお茶を飲みながらでいいので、私の質問に答えてくださいね。お名前と生年月日を教えてください」


「名前はヨシュカです……姓はありません。生年月日も……孤児なので分かりません。たぶん二十歳は過ぎてます」


 神殿では皆誕生日が分からない子が多いから誕生祝いなどもしない。自分の歳を数えたりもしないから、皆自分の歳がよく分からないのだ。

 ダリナは申し訳なさそうに肩をすくめた。


「失礼いたしました。ご苦労をされたんですね。では、以前ご経験されたお仕事や特技はありますか?」


 神殿の話はすべきだろうか……ここは嘘は言わない方がいいような気がした。


「聖都の神殿で一応聖女をしていました……」


 ダリナは、持っていた木の板を落とした。


「え? 聖女様?」


「あ、聖女と言っても大したことはできません。本当に、期待しないでください」


 ダリナは、落とした板を拾い上げ、ずり下がってしまったメガネをくいっと上げた。


「え、でも神聖術って言うんでしたっけ? 奇跡は使えるのですよね? どんなことができるんですか?」


「えっと、火をつけたり、水を出したり、怪我を治したりとか……あと、なにができたっけかな」


 私は指折り数えながら、自分のできることを上げていく。


「結界を張ったり、女神様の加護を授けたり……」


「まだあるんですか!?」


 ダリナは、目を丸くして言った。

 他にもまだできることがあるが言わなかった。だって、本当に大したことじゃないから。


「あ、でも効果はうんと小さいんです。器用貧乏って言うんですかね。一通りなんでもできるんですけど、他の聖女たちと比べると……」


 私はそこで言葉を濁した。

 なんでもできるから、仕事を代わってあげることができた。だから皆私に仕事を代わってくれと頼んできたのだ。でもどれも効果はいまいちで、あくまでも代替である。本物になることはできないのだ。


 部屋の中を気不味い空気が流れた。やっぱり、役立たずの私に次の仕事なんかないのかもしれない。


「……ヨシュカさん、行きますよ」


 ダリナは、沈んでいた私の手を取って立ち上がった。


「え、行くってどこへ?」


「お仕事体験ですよ、ヨシュカさん。やってみればわかります」


 ダリナは戸惑う私を無視して手を引っ張り、職業案内所を飛び出した。

 すぐに一番近くにあった大きな食堂へと飛び込んだ。


「おじちゃん、今日一日手伝わせて!」


 ダリナの声にカウンター席の奥の厨房から、コック帽にエプロンの屈強なおじさんが出てきた。


「どうしたダリナ……あ、その子、もしかして移住希望の」


 田舎、こわい……


「こちらのヨシュカさん、一日体験でお仕事したいの。今、職探し中で」


「おお! そりゃあ大歓迎だ。じゃあ、さっそく入って手伝ってもらおうか」


 どうしよう……私がおどおどしているうちに、勝手に話が決まっていくぞ……


 私とダリナが厨房に入ると、屈強なおじさんが私とダリナの分のエプロンを出してきて、私たちに渡した。


「さあ、ヨシュカさん。お仕事体験スタートです」


 にっこりと微笑むダリナに、私は「……はい」としか返せなかった。


いつも応援いただき、ありがとうございます!

実は、このお話、カクヨムにて【MFブックス】イケオジ小説コンテスト【中編】に挑戦中のお話でございます。


「書籍化してほしいなぁ」とか「漫画で読んでみたいな」とか思った方がいらっしゃいましたら、ぜひカクヨムにて、ブックマークやお星さまをつけて、応援いただければ幸いでございます。


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また、読みに来てくださいませ(/・ω・)/

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