昨日の敵は今日も敵
「王女殿下のお力添え合ってのこと。感謝いたします」
「いえいえ、元はと言えば……ふふ」
女王のせい、とは何度も言葉にするわけにはいかない。
とはいえ誰しもわかっていることではあるのだが。
「もしよろしければカルミア公、私を王城まで送ってくださらない?」
「わしがですかな」
「ええ。きっと面白いものをお目にかけることができると思うの」
ニュクスの後ろではマーサが心配そうな顔をしているが、ニュクスは知らんぷりだ。
マーサには申し訳ないと思うが、こればかりはもうどうしようもない。
今の王家はだめなのだ。
女系統治は別にどうでもいいが、今代の女王が王太女の頃からやらかしたあれこれが多すぎるというのに、それを諫める役割を担っていた王太后が早世してしまったのだ。
そして、本来であれば同じように諫め、止め、諭す役割を担うべき王配が女王のすることなすこと喜んで叶えるのだから目も当てられない。
王家は求心力を失い、貴族たちは力をつける。
そうして逆転してしまった結果が反乱だ。
(なのにあの人たちはまるでそれを理解していない)
愚かなことだとニュクスは嗤う。
女王の望みは己によく似た第二王女、アンネローゼ・ネモフィラを王太女とすること。
あくまで第二から下の王の子はスペアでしかないと決められているにも拘わらず、ほぼ内定となっているニュクスを引きずりおろしたくて仕方がない。
(それより先にやるべきことがいくらでもあるでしょうにね)
別に第一子が必ず王位を継ぐ必要はないのだ。
次期国王が暗愚であった時には、当然ながらすり替えも必要である。
ただそのスペアが暗愚ではどうにもならない。
ニュクスにとって妹のアンネローゼ・ネモフィラは、母親以上に愚かな存在であった。
少なくとも三回目の人生ではあれほど妹に尽くし諭しても意味がなかったのだから、今世でも期待はできないしするつもりもない。
蝶よ花よと育てた両親の罪があの愚かな妹を育てたと思えば哀れではあるが、矯正が効かないのはきっと本人の素養なのだろうとニュクスはすでに諦めていた。
そんな少女の笑顔に何を感じ取ったのか、老公爵は顎をさすると近くにいた執事に目配せをした。
言葉もないのに視線と手振りだけで何もかもを察する執事の姿には、マーサも舌を巻くばかりである。思わず、尊敬の眼差しを向けるくらいには。
「ありがとうございます、きっとご満足いただけますわ」
「……いったい、どのような〝面白いこと〟が起こるのか楽しみにさせていただこう」
「ええ、ええ。きっとご満足いただけるわ」
ふふふと笑う姿はあどけないというのに、老公爵はぞくりとしたものを覚える。
目の前にいるニュクスという王女はその年齢に似合わない洗練された作法を持ち、時に冷たい笑みを浮かべるのだ。
先代女王の教育の賜かとも思ったが、先代が身罷ったのはまだニュクスが五才の頃だ。
(この王女はいったいなんなのだ?)
馬車の中でマーサと他愛ない言葉を交わすニュクスは、老公爵の視線にあどけない笑顔を向けてくる。
それがまたあまりにもちぐはぐで、酸いも甘いもかみ分けたはずの老公爵を混乱させるのである。
とはいえ、それをあえて口にすることもなく馬車はあっという間に王城へと着いた。
距離があるとはいえ大貴族には魔法移動が許されているお陰なのだが――使えばそれは王城に知らされる仕組みでもある。
それゆえに到着したニュクスを出迎えたのは、武器を構えた近衛兵たちと、そして怒りに顔を歪ませた女王の姿であった。
「ニュクス……愚かな娘! 勝手にどこに行っていたの!!」




