門出の祝いは自ら
慰霊祭は厳かな祈りから始まり、本来はそこで王族も言葉を述べて祈りに交ざる。
そして地元民が踊り、歌い、偲ぶのだ。
多大なる被害を忘れないように、国を守った人々のために。
ところが、王族が遅れた。
これはこの土地を見下しているのでは? とやはり反発する声が上がった。
前々から今代の女王がカルミア公爵家に対し、あまりにも無礼であるという話はすでに隠せるものではなかったのだ。
そもそもが、次期公爵であったカルミア公の長男が人格者で民に好かれていたからこそ、彼の突然の病死はあまりにも不自然だとあちこちから出ていたのだ。
それでも父親であるカルミア公が黙したからこそ、領民もそれに従った。
だが女王が慰霊祭に来ても態度が悪かったり、慰霊祭の言葉を読み上げたらさっさと帰ってしまうなどのその姿に反感を募らせていたところに、この仕打ちである。
(火種はずっとあったのよね)
ニュクスは不思議でならない。
ここまで女王が反感を買っておきながら、何故あの父親は放置したのだろうか?
いくら愛する女王が望むことだからといって、反乱が起きては意味がない。
一度目から三度目、経験したあの反乱。
いつも処刑は女王からだった。
その首が落とされるその時には嘆き悲しんでいたではないか。
そんなに嘆くのであれば、そうならないように努めることこそが摂政の役目であったろうにと今のニュクスならば思える。
人々のニュクスに向けられる冷たい眼差しは、女王への不満そのものだ。
前世までの彼女であれば、それらの視線は恐ろしいものであったに違いない。
だが今は心地よかった。
何故ならば、ここにいる人々は女王へ不満を抱いている――つまり、ニュクスにとっては同志も同然なのだから!
(ああ、なんて素敵な光景なの)
自分の味方にならなくてもいい。
女王を嫌っていて欲しい。
ニュクスが望むのはそれだけだ。
それだけだからこそ、この視線は心地よかった。
「私の名前はニュクス・アキレギア・ロレアヌス。ロレアヌス王朝が末裔、時代を担う者。此度の慰霊祭において、先人に感謝の言葉を述べる栄誉を賜りました」
女王の娘とはあえて名乗らない。
それはわかりきったことだからだと大抵の者は思うだろうが、ニュクスにとっては違うのだ。
あの女王との母娘としての袂を分かつ、その意思の表れであった。
ロレアヌス王朝が末裔として、王家の人間であることは示してもあの女王の娘とは名乗らない――ちっぽけなことだが、ニュクスにとっては大事な、そう、とても大事なことだから。
この日、ニュクス・アキレギア・ロレアヌスが衆目の前で初めて演説を行った……そう歴史書には記されることとなる。
実際には四度目の人生を送る彼女からすれば、慣れたものであったのだけれども。
けれども、間違いなく新しい人生の門出であったことに、違いはないのである。




