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愛をこの手に、弔い花を捧げましょう~死に戻り王女の幸せな復讐劇~  作者: 玉響なつめ
第一章

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愚か愚かと嗤うには

 ふっと老公爵が先に視線を逸らした。


「まずは慰霊祭へのご参加に、感謝を」


「こちらこそ、受け入れてくださって嬉しいわ」


 通されたのは応接室ではなく、老公爵の執務室のようだった。

 広く、多くの書類や帳簿の並び立てられた部屋は薄暗い。


「……陛下が不参加の報せを受け、当家三男を向かわせた段階で儀式の順番をずらし王家の方のご挨拶を最後に回しました。特別な祭礼などございませんが、お言葉を賜りたく」


「わかりました」


「王女殿下はカルミア公爵家の話をご存じですかな」


「成り立ちですか? それとも、勲功? あるいは――王家との確執についてかしら」


 あどけない笑みでさらりと言ってのけたニュクスに、給仕に訪れた執事が思わずカップを置く手をびくつかせカシャンと音が鳴る。


「も、申し訳ございません!」


「あら大丈夫よ。火傷はしなかったかしら?」


「は、はい……」


「それで、カルミア公。どの意味合いだったのかしら」


「……全てご存じのようで」


「ええ、まあ」


 カルミア公と現女王の確執――それをニュクスが知ったのは、恥ずかしながら二番目の人生の折だ。


(一番目の折は何も、本当に何も知ろうとしなかったものね。愚かな私)


 カルミア公が先代の王配との誼で先代女王をよく支えた――それ自体は有名な話だ。

 だがそれを理由に今代の女王はカルミア公を嫌う。


 女王となる日、初めての勅令を出すことが慣例だった。

 それを女王が悪用したのである。


 それは本当に偶然の出来事。

 階段から落ちかけたメイドがいた。そのメイドを助けるため、王城を訪れていたカルミア公の長男――次期公爵が助けた。

 その際に名のある花瓶が割れてしまったが、メイドも次期公爵も無事であった。


 これだけならなんてことない話だ。


 ところがそれを耳にした女王は、なんともおかしな(・・・・)勅令を出したのである。


【王城内に飾られた、王家所有の秘蔵の花瓶を壊した物を処刑対象とする】


 女王はメイドを厳しく責め立て、自分を助けた際に次期公爵(・・・・)が花瓶にぶつかって落としたから割れたのだと証言させた。

 あまりにも愚かな話である。


 だがメイドは自分自身の命だけでなく、家族の命まで脅かされたのだ。


 女王とて、これを本気で言っていたわけではない。

 特に出したい勅命があったわけでもなかった女王は、ただ嫌がらせがしたかっただけだ。

 カルミア公に『どうか息子を殺さないで欲しい』と懇願させたかっただけなのだ。


 何が彼女をそこまで悪意に駆り立てたのか、ニュクスは知らない。

 ただただその真意を知って愚かだと軽蔑するだけだ。


(……結果として、次期公爵は亡くなった)


 カルミア公が異議を唱えようとしたし、目論見通り頭も下げようとした。

 息子の命が花瓶によって奪われるなどあまりにもな話だったから当然だ。


 だが、初めての勅令。

 つまり女王の世代交代したばかりという事実。


 これは国を揺るがす事件へと発展したのだ。

 女王のほんの(・・・)悪戯心が国最大の貴族令息を罰するものとし、頭を下げさせようとするなど反感を買ってしまうことは目に見えていた。

 カルミア公が頭を下げれば貴族たちの反感は強まり、反乱が起きるかもしれない。

 女王が頭を下げれば、王家の求心力は下がる一方で今後の政治に影響が出るかもしれない。


 それらを危惧した次期公爵が、自刃した。

 問題の人物が病死したことにより、この件はなかったことにする――そうして、国を荒らさないために犠牲になってくれたのだ。


「……嘆かわしいことだわ」


 心から、ニュクスはそう思う。

 優しい人だったのだろう、言葉を交わしてみたかった。


 国を思いやれる人だったのだし、優秀な人物であったとも聞く。


「国を波立たせないために、尽くしてくださったご令息についても許されるならば……墓前にアキレギアの花を供えさせていただきたいわ。母のこともあるけれど、私個人の気持ちとして」


 女王が発表する初の勅令は、その代の統治中継続される。

 この慣例は今の王朝よりも前の王朝から続く伝統で、王権が弱かった時代から王家こそが頂点であると示すためのものとされている。


 それが悪用されているのだから、やはり統治者が愚か者では意味がないと笑うしかない。

 本来の意味であれば、新しい統治者がその治世を強めるために発表するものだというのに。


「殿下は知っていても知らぬふりをなさるのかと思っておりましたがな」


「……母の愛を求めたこともございます。ですが、私はこの国の王女ですもの」


 カルミア公の嫌味な言葉に、ニュクスは微笑んだ。


 当然のことだ、と彼女は思う。

 これまで沈黙を貫き、母親の後ろをついて歩く雛鳥のような子供だった。


 愚かだ、と何度目かわからない過去の自分への罵倒を胸に、ニュクスはできる限り美しく笑ってみせた。


「王族に、国を思いやる者が一人くらいはいてもよろしいでしょう?」


 それは痛烈な皮肉だとカルミア公が初めてこの日、笑った。

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