残念無念、またいつか
(……マーサを通じて、いいえ、カルミア公にお願いして押さえておいてもらえば安全ね。戻ってきてからシグムンドに教育をお願いして……)
新兵で心配だから少し教えてほしいと言えば、優しいシグムンドのことだ。
きっと二つ返事で了承してくれるに違いない。
「今日の散歩はなかなか珍しいものを見たわ。シグムンドも、ああやって訓練していたの?」
「うん。懐かしい。……今は、公爵邸の裏手でちゃんとした剣を振ってる」
「まあ、やはり練度で訓練内容が違うのねえ」
「騎士たちも、自分たちの鎧を着て動けるよう練習するようになるよ。あのくらいの新人たちは、まず体力作りから」
「そうなの……」
誰もが地道な訓練を始め、そしてものにしていくのだろうと思うとニュクスも改めて考えさせられる。
過去の自分は、何を学んでいたのだろうか。
人生を三度も失敗してようやく学べたのだとしたら、どれほど自分は学ばないと足りないのだろうかとニュクスは内心慄く。
(やはり私が王位に就いた後には他の家に玉座を譲って隠居するのが無難ね。今世のシグムンドも王配に興味がないと言っていたから、ついてきてくれそうだし……)
別に華やかな社交界に未練はないし、シグムンドと二人、そしていつか子を成せるのであれば子どもたちも含めて穏やかに生きて行ければそれで十分だ。
勿論、そこに至るまでは相当な苦労をしなければたどり着けないであろうことはニュクスも理解している。
「……シグムンド、まだまだ色々迷惑をかけるかもしれない。だけど絶対にあなたを幸せにしてみせますね!」
「じゅうぶん幸せだ。ニュクス姫はいつだっておれのことを見てくれるから」
「もっともっとです!」
「うん。ニュクス姫が一緒なら幸せだから、姫が頑張ってる横にいさせてもらえるなら幸せだよ」
(うーん、シグムンドの幸せの基準が低すぎるわ……!)
こちらも今後の課題だな、とニュクスは幸せなため息を吐く。
これまでの人生で一度でもこんな充実した悩みを持ったことがあっただろうか?
ぎゅっと互いに手を繋いで歩きながら、時折顔を見合わせては笑い合う――なんとも微笑ましい光景に、周囲もほっこりとした気持ちだ。
一部の人間を除けば、であるが。
「お姉様! 遊んでばかりいてずるいわ!!」
「まあアンネローゼ」
お前が言うのか。
咄嗟に喉元まで出てきた言葉を呑み込んだニュクスは自分で自分を褒めたい気持ちだ。
「……ニュクス姫はすでに本日の政務は終えておられます、第二王女殿下」
「な、なによ」
「ニュクス姫が遊んでばかりだ、と仰ったものですから」
「う、うるさいなあ! ことばの、ええっと……ええっと……そうよ、あやとりでしょ!」
「それを言うなら『言葉の綾』よ、アンネローゼ」
「うるさいうるさぁい!!」
相変わらずずるいずるいと責め立て、自分の失態は大騒ぎして誤魔化すところは変わらない。
やはりこの妹は変わろうとしないのだ、とニュクスはすでに見切りをつけている。
「今度お父様と公務に出るんでしょう! ずるいわ!!」
「あらそう? お仕事だけれど、一緒に行く?」
「え? いいの?」
「そうよ。学校を作る話だって聞いているわ。あなたも気になるなら――」
「なあんだ、つまんないの。アンネローゼ行かなぁい」
目的を聞いた途端にあっさりと踵を返し去って行くアンネローゼの背を見送って、ニュクスはため息を吐いた。
「……公務を面白いかどうかだけで選べないのだけれどねえ」
その内容を面白いと思うかどうかは、また個人差であることもわかっているが。
それでもアンネローゼにとっての『面白い』とはいったいなんだろうか、と思わず呟けば――シグムンドも一緒に考えて、ぽん、と手を打った。
「お菓子を食べるとか、ドレスを着るとかじゃないか?」
「それって公務かしら?」




