そこに原石が転がっているのなら
(……確か、前々回の人生でシグムンドが育てた兵士がいたのよね……)
残念ながら腕は良かったが、王家に愛想を尽かして反乱軍に寝返ってしまったのだけれども。
あの時は悔しさやら何やらあったが、今となってみれば『それも当然』と思えるのだから人生やり直してみるものである。
とはいえ、やり直せる人間などそうそういてたまるかという話になるし、何故やり直しができているのかはニュクスにもわかっていないことだ。
(……それよりも兵士よね)
今のうちに目星だけでも見つけておかないと、戻ってきてから探すのではあまりにも時間の無駄だとニュクスはそっと考える。
今ならばダンテも彼女がある程度のわがままを言っても快く受け入れてくれるに違いない。
何せ、ニュクスはダンテの心の負担と家族を思いやって素直にあれこれと従う良い娘なのだから!
「ねえシグムンド。散歩をしない?」
「散歩ですか? ええ、いいですよ」
「ごめんなさいね皆さん。引き継ぎをそのまま作っていてくださる? 私が外に出ていた方がおそらく周囲は干渉してこないだろうからお任せして悪いけれど」
「承知いたしました」
念には念を入れて、引き継ぎの関係もニュクスの関与はできるだけ減らす。
後でぐちぐち言われるよりはずっとマシだろうと考えたからだが、それは皆も概ね同じ考えのようであった。
だから堂々とシグムンドと出歩ける。
このささやかな時間も、練兵場に赴いてシグムンドの意見を聞くことに費やせば一石二鳥と考えたのである。
いいや、男との逢い引きで怠慢な王女と女王に思わせることができることまで考えれば一石三鳥でなんと美味しいことか!
(まあ流石に全部をそのまま受け止めることはないでしょうけど)
ありそうではあるが、楽観視するべきではないだろうと彼女は考えつつ練兵場までシグムンドを伴った。
そして彼らの訓練をシグムンドに説明してもらうついでに「あそこにいるのは新兵かしら?」と視線を向けた。
ニュクスが視線を向けた先には、たどたどしい動きで武器を構える若者たちがいる。
年齢はまちまちで、シグムンドと同じ位からもう少し上といったところだろうか。
体格はそれこそ違うが、鍛えられた騎士たちに比べればまだまだ幼さが目立つ。
「そうですね、まだ入ったばかりなのだと思います。ここは王城内でも兵士の訓練場の用ですから」
「そう……シグムンドの目には、彼らは強くなると思う?」
「……そう、ですね」
じっと見るシグムンドの目は剣を振るにもたどたどしい少年たちに向けられている。
騎士たちとは違い、綺麗な鎧もなく隅っこに追いやられて指導を受けているような彼らだが、その兵士たちこそが根幹であることをニュクスはいやというほど知っている。
兵士がいて、それを指揮する騎士がいる。
そして騎士たちの上に成り立つのが貴族であり王族だ。
(兵士たちが武器を捨てれば、それだけでこの城は守りを失う)
彼らが忠義を誓いたくなるよう、きちんとした待遇が必要なのだ。
それを怠り続けたから背を向けられた。
ニュクスにとってそれは歴史ではなく、実体験である。
「……あの赤毛と、のっぽの二人はものになるんじゃないかなと思います」
ぽつり、とシグムンドが言った。
赤毛で小柄な利発そうな少年と、のっぽと言われた背の高い気弱そうな顔立ちの少年。
ニュクスは「そう」と簡潔に答えつつしっかりと彼らの顔を記憶するのであった。




