ずる賢さも必要なので
「しかしね、相談があってね……」
「相談ですか?」
ニュクスは内心舌打ちをした。
仕事の手を抜けと言ったそばから仕事の相談をするとはどういう了見だ、と詰め寄りたくなるのを堪えておっとりと微笑んでみせる。
「私で王配殿下のお力になれることがありますでしょうか?」
「うん。いやこれはニュクスではないと……でも困っているんだよ」
「……まあ。では内容をお聞かせ願えますでしょうか」
なんと要領を得ないことかと若干せっつきたいのを我慢してそう問えば、ようやくダンテは口を開いた。
「お前が以前言っていた、プレティシャス王国の学芸院……あちらから人手を貸してもいいと連絡があったんだ」
「まあ、良かったではありませんか」
プレティシャス王国はメランジュ王国に比べてずっと歴史も長い。
それだけではなく今も停滞していない、学術国家でもある。
(だからこそアトリアニ王子がお見合いに参加したって聞いて驚いたわけだけど……)
それもご破算になった今、学者をこちらに派遣するに当たってかなりな無茶ぶりをされたのかもしれないな、とニュクスも身構える。
それは確かにダンテにとっても『困ったこと』に違いない。
しかしながらあちらの学者が来てくれるなら、作物の改良に大きな前進が見られるかもしれないではないか。
この国の知識を一段階引き上げることにだって繋がっていくかもしれない。
それを考えればこの難局、乗り越えるしかないではないか!
「……ということは学者を送るにあたっての話し合いが難航しているのですか?」
「いや、話し合いはまだ行われていない」
「……え? では何が問題なのです?」
問題を突きつけられる前が問題とはこれいかに。
ニュクスが小首を傾げると、ダンテは苦笑した。
「この件を主導しているのはアトリアニ王子でね。話し合いの場は国境付近、アンネローゼは決して近づけないことと言われたよ」
「ああ……余程、前回のことをお怒りですのね……」
徹底したアンネローゼ避けだと感心してしまった。
しかし、勿論それだけが問題ではないらしい。
「アンネローゼが恋慕う相手とはいえ、印象が悪すぎたからね。またそちらは折を見て……」
(いや止めてあげなよ、アトリアニ王子嫌がってるし……アンネローゼが礼儀作法を修める頃には婚約者もできているんじゃないかしら……?)
「それはまあおいおい考えるとして、問題は――あちらがその条件の話し合いに、ニュクスが参加することとしているんだ」
「……え?」
「だが、女王陛下は第一王女であるお前の働き過ぎを心配しているし……アンネローゼもお前の活躍で焦りからか落ち込んでいるのに、参加させるのもなあと思ってね。けれどあちらの国に申し込んでおいて『できません』とは言えないし……」
そういうところだよ! と言いそうになるのをグッと堪えてニュクスは微笑んだ。
女王が心配しているわけないし、アンネローゼが落ち込むことも焦ることもないのはわかっているというのになんという詭弁だとやはり笑ってしまいそうになるのを手のひらを強く握ることで堪えてみせた。
「――……ではこういたしましょう。王配殿下主導でこの話をお進めください。私は勉強のため同行するけれど別室に待機すると女王陛下に説明するのです」
「うん? だがそれではプレティシャス王国側に……」
「意見を求められれば別ですよね?」
要するに建前だ。
ダンテもそれを察して「なるほどね」とにこりと微笑んだ。
「ではそのようにしよう。勉強熱心な娘で鼻が高いよ!」
早速肩の荷が下りたと言わんばかりのダンテに、ニュクスは「ようございました」と言いながら冷たい目を向けるのであった。




