真実はそこにある
「あら、まあ!」
ニュクスはダンテに呼び出され、大げさに驚いた――ふりをしていた。
既に想定済みであったからだ。
ダンテという男は悪い人間ではない、それがニュクスの判断であった。
彼女にとって『ダンテ』という人物は生物学上の父親であるが、彼にとって大事になのは自分たち娘よりも妻であるベアトリスなのだ。
どれほどアンネローゼが自分は父にも可愛がられていると言ったところで、それは『妻が可愛がっているから』可愛いのだ。
つまり、ベアトリスの血を引く娘だから二人とも可愛い。
そして二人の娘の優劣を分けたのはベアトリスの愛情がどちらに偏っているか、である。
更に悪い点として、ベアトリスの血を引いているからこそ――彼はニュクスも〝大事な娘〟だと本気で思っていることが問題なのである。
(本当にこれで私を大事にしているつもりなんだもの、笑っちゃうわ)
人間というものは、笑えないものを前にして突き抜けると笑うしかなくなる。
まさにニュクスは今その心境だった。
だがそれは――彼女にとって都合のいい状況を作り上げるのに適してもいたのである。
「ですが、王配殿下はお忙しくて手が回らないから、私にお任せくださったのでしょ?」
「それは……うん、そうだね」
「女王陛下もお忙しい」
「うん……」
「アンネローゼはまだまだ公務には早いですもの。女王陛下のお傍で学ぶべきでしょう?」
「うん、うん、その通り……」
「でも私が頑張ると、もしかしてアンネローゼが落ち込んでしまうんですか?」
比べられるのは辛いですものね! と気遣わしげにニュクスが言えば、ダンテは「そのとおりなんだよ、さすが優しいお姉さんだね」とあっという間に食いついた。
自分の父親だと思うと情けないが、この時ばかりは大変扱いやすくて助かる……が、やはりとても情けなくて今度は涙が出そうなニュクスである。
だがそれはそれ、これはこれ。
切り替えの早さも人間大事なのだ、そのことを彼女は三度の人生で経験している。
「ではこういたしましょう、王配殿下の負担を増やすのはやはり私としても心苦しいですし……他の貴族たちに仕事を回してしまいましょう。権限を委ねるとすればよろしいのですわ」
「え?」
「勿論、最終的な裁可は王族のものとして、王配殿下のところに届くようにいたしますが……私の所で請け負っていた内容は各地の貴族たちに委ねることが可能です。秘書官や補佐官殿でも対応はできましょうから、お許しいただけるのであればそのように采配いたしますがいかがでしょう」
全権を委ねてしまえれば楽である。
あちらとしても王家の顔色を窺いながらあれやこれやとするよりも、自分の領地で行うあれこれを王家の許可の元でやれればその方が早いことが多いのだ。
勿論、王家の旗印を利用して勝手をされては困るが――それはそれでニュクスとしては構わない。
大成功を収めてもらって現王家を打倒してもらってもニュクスからして見れば美味しいし、そうならなくても仕事が減るなら万々歳だ。
今の段階で彼女はすでに手が一杯。
減らせる理由――しかもそれが王配殿下の指示ならば、女王とて文句も言えない最高の状況。
(利用しない手はないわよね!)
ダンテが悩みながらも『そうだね、ニュクスがそう言ってくれるならそれに甘えよう』と言ってくれたことにより、ようやく彼女は愛しのシグムンドと過ごす時間を確保できそうなのであった。




