奇跡のような人
あれから一年が経過した。
各地で、備蓄に対して結果は少しずつ伸びてきていた。
品種改良に関しては今ひとつ効果は見られていないが、こちらは年単位どころか十年、二十年をかけたことだとすぐに結果は期待していない。
むしろやる気を出した学者がいてくれたことに感謝すべきだとニュクスが呟いたことで、より人々のやる気が出たがそれについてはあずかり知らない話である。
幸いにも諸侯がニュクスの計画に賛同してくれて、力をつけてきた貴族相手に疲れたダンテが実権を少しずつニュクスに譲ってくれたことが大きかった。
女王の妨害を受けることなく、ニュクスが公務として担える部分が大半を占めたからだ。
かといって女王がそれでニュクスを認めたのかと言えば、そうでもない。
相変わらず賢しらな子供だと、見ていて腹が立つと公言しているらしい。
ニュクスはそれを残念な気持ちで聞くだけである。
いろいろと手を尽くして王家のことについて調べてみてわかったのは、ベアトリスはとても幼稚だということだけである。
そしてダンテはその幼稚な女王の失策を頭を下げて回る役割であり、支えるのは臣下という作りでその次代、つまりニュクスの代でなんとか立て直す計画を先代の女王、つまりニュクスの祖母が考えていたことを突き止めた。
自身が早世するとは考えていなかった先代女王の失策だな……そうニュクスは呟きそうになってほっぺたの内側を噛んで堪えた。
そもそも先代の王配が早世したことで、再婚を拒否した祖母は女王として一人忙しく政務を抱え込み娘のベアトリスのケアを一切できず乳母任せにした結果、反抗期の状態のまま成長させてしまったようなものだ。
そのせいでおかしな勅令を出すわ、先代女王の信頼した家臣たちを冷遇するわ、国家が揺らいでいるのだから本当に困ったものである。
先代の王配が早世したのだから――といってもあれは災害による事故であったが――自身も何かあるかもしれないと思うくらいあってもよかったのでは? とニュクスは今更ながら天にいるであろう祖母に文句を言いたい気分である。
(ロレアヌスの一族は揃いも揃ってポンコツ揃いなのかしら。やっぱり次の王朝を立てた方が良いのではない?)
そう思うが、ではどこの派閥が次の王朝に相応しいのか? と問われるとニュクスには応えられなかった。
ロレアヌスの一族よりはマシなのだろうが、それでも突出して国を守れそうな人物がいるのかと問われるとそれはまた別という話なのだ。
「……仕方ないわね、そればかりはこれから何年もかけて見極めるしかないわ」
「ニュクス姫? 何か言ったか?」
「いいえ。なんでもないわ、シグムンド。……そうだわ、ねえ、シグムンド」
「なんですか?」
「あなた、王配になりたい? あ、結婚がどうとかではなくて……もしかしたら、妹が玉座に就くかもしれないでしょう? 絶対にあなたを王配にしてあげる、なんて約束はできないけれど……あなたの意向を聞いておきたくて」
「王配……」
シグムンドはニュクスの問いに対し、真剣に考え込む。
王配、王を支える者。配偶者。
「……おれは、ニュクス姫のそばにいられたら、それでいい。夫にはしてくれるんだろう? なら、それで十分だ」
「まあ」
真っ直ぐな言葉に、ニュクスが目を瞬かせて頬を赤らめた。
だが、悪い気はしない――それどころか、だいぶ嬉しい。
「そうね、私もシグムンドがそばにいてくれたら、それでいいわ」
「うん。王配でなくてもいい。……ニュクス姫が、女王にならなくたっていいんだ」
その言葉に、ニュクスは不覚にも泣きそうになった。
どこかでこの重荷を投げ出してしまいたい――そう願っていることを、シグムンドは察していたのかもしれない。
今までの人生でも。




