うざったいほど愛くるしい
ニュクスにとってこの茶会についての記憶は、ただ単に『女王の手落ちで騒ぎがあって、喧嘩が発展した結果、領民に迷惑がかかった』というものである。
これまで三度の人生経験で、彼女が女王の茶会に呼ばれたことはない。
そのためその後の騒動も、そして後始末を押しつけられて奔走したダンテの話も、ニュクスは人伝に聞いただけである。
その際も『第一王女殿下は何もご存じなく、安泰ですね』なんて嫌味を言われたことをニュクスは忘れていない。
言われてもいないのにこっちからああだこうだと口を出す方が失礼だろうがと言い返してやりたかったのは二度目の人生だっただろうか、それとも三度目だったか。
いずれにせよ、こういう状況だったのだなあ、と呆れた気持ちを抱くばかりだ。
大の大人が揃ったところで、一番上の女王に対して強く出られる人はいないのだ。
王族に連なる公爵という立場にいる家が、今のロレアヌス派閥にいないせいで余計にそのようになっているのだろう。
だが臣下は唯々諾々として命令に従うだけではいけないはずだ。
女王が正しくないことをしていればそれを質す役割を担うのもまた、貴族としての本分であるはずだ。
(……困ったものね)
これが王朝の末期なのか、とニュクスも肌で感じる。
本当にここから立て直せるのだろうか?
カルミア公爵家にお願いして、やはり王朝そのものを交代させるべきではないのか?
そのような思いがニュクスの中を駆け巡る。
(……今はその結論に思いを馳せている場合じゃないわ)
夫人たちの争いを止めたことで、後はアレルギーのある食品を食べたという件についてだ。
それも喧嘩した人たちのどちらかだったと思うが、情報の曖昧さが今になって悔やまれる。
しかし騒ぎとなったアリスレッド夫人とブルーメール夫人は、ニュクスが調べた中でアレルギーを持っていなかった。
幾人か、ナッツアレルギーだという令嬢の名前があったのでそれらを記憶していたニュクスは視線を令嬢たちのテーブルに向けた。
そして今まさにアンネローゼが令嬢たちに問題となる〝ナッツクッキー〟を勧めているではないか。
(あの子、どれだけ食べる気なの?)
前回の人生でもそんなに食べていただろうか? 食べていたかもしれない。
まったくもって記憶のあやふやさなのか、あるいは今学ぶべきことが多すぎて不必要な情報として抜け落ちて行っているのかはニュクスにも定かではないがアンネローゼに勧められて困っている少女こそがきっと被害者なのだろうと足を向ける。
「も、申し訳ございませんアンネローゼ殿下、わ、わたくし、ナッツアレルギーで……」
「ええー? かわいそー。食べられないなら来なければいいのに!」
「なっ……」
「アンネローゼ、そんなことを言うものではないわ。陛下のお茶会は名誉なことだもの。みんな参加したいに決まっているでしょう?」
「あらお姉様」
「アレルギーは好き嫌いとは違うのだから無理に渡してはだめよ」
「……またお小言ぉ?」
「あら、またというほど貴女に何か言った覚えはなくてよ?」
あえて小首を傾げてそう言えば、アンネローゼはむぅっと頬を膨らませる。
確かに可愛いと言えば可愛いだろうか、と思いつつもニュクスは更に続けた。
「何か私が貴女にお説教のようなことをしたかしら?」
「とぼけないでよ、ちょっと古くさい花瓶を落とそうとしたらあたしの手をはたいたじゃない!!」
ああ、なんて愚かな妹なのだろう。
確かにこれは愚かで可愛い、そうニュクスは心の内で嗤う。
周囲はサッと顔色をなくして、女王に視線を向ける。
誰もが知っている、あの勅令の事件を彷彿とさせ――噂にはなっていたものの、それが事実だと第二王女自らが認めたこの状況に女王が顔を真っ赤にして怒り始めたものだから。
ニュクスは思ったとおりになって大満足だ。
アンネローゼが墓穴を掘って、そこに女王が転がり込む――その状況が完成したのだから。




