あっさりすぎて
茶会には、あまりにも拍子抜けするくらい参加できた。
女王やアンネローゼから嫌味を言われたりするかと思ったが、どうやら女王に対して派閥の婦女たちが『未熟な第一王女に女王陛下の手腕を見せる良い機会』『いかに女王陛下が優れた方かを教えるべき』などという形でおだてた結果のようだ。
あまりにも幼稚なやりようではあるが、それで喜んでくれて軋轢なく参加できたのであればそれはそれで良いことだ。
だが、ニュクスとしてはとても複雑である。
勿論、母親である女王に対して思うところがあるだけでなく、女王としてどうなのかとか、派閥の人たちにいいように扱われてるじゃないかとか。
あれだけこれまでの人生で『自分は派閥のトップでみんなに敬われている』と自慢していたのに、実際は上手に操縦されているだけではないか……そんな女王を慕い続けていた自分の愚かさが恥ずかしくて堪らない……とまあ、それはもう、色々と思うところだらけである。
そして席次は案の定、ニュクスは会場の端も端、一番端の末席であった。
しかし、これも想定内である。
これまでの人生経験で女王がどのような性格かは熟知している。
高潔な女王と信じていた時期もあったが、今現在の評価としては『子供っぽい大人』に尽きる。
そのため、今回の末席への手配も、単に『同じ皇族として席次を扱われない屈辱を味わえ』という単純明快な嫌がらせなのだ。
周囲がどう見るかを考えない、むしろ派閥の集まりだからこそこのくらい陰湿でわかりやすいことをしても誰も咎めないだろうと思っている――あまりにも幼稚だとニュクスは思うが、女王は至って真剣にそう考えているに違いない。
「ニ、ニュクス様、あの……き、今日はお天気もよろしくて、本当にようございました……」
王女が隣にいることでとてもやりにくいであろうに、声をかけてきてくれた令嬢がいてニュクスは少しだけ目を丸くする。だがすぐに微笑んだ。
これは好機でもあった。
「ええ、本当に。あなたは確か男爵家のご令嬢でしたね、ご領地は畜産が盛んだとか……そういえばこのテーブルのデザートチーズというのはあなたの領地の特産ではなかったかしら? 美味しいわよね、私はブルーベリーのものが好きだわ」
「ご、ご存じでいらしたんですか! わぁ、嬉しい……!!」
端っこに追いやられているのは基本的に派閥内でも下の方に見られがちな家の夫人や娘たちだ。
なるべく年齢が揃うようには気を使っているのか、ニュクスの周りにいるのも令嬢たちである。
しかしながら、爵位が低いからといって重要度が低いのかというのはまた別問題であると今のニュクスは知っている。
畜産を担ったり、他にも染料や薬剤の材料といったものを扱う領地などは何かと重要であると知っている。
勿論、爵位が上の人間たちにはそれ相応の責任と、それを担うだけの理由があってのことなので一概に爵位が間違いとは言わない。
しかしながら女王という至高の存在が愚かであるという実例がある以上、身分に中身が伴うとは限らないとニュクスは考えている。
だからこそ、ここで末端から掌握していくことが今のニュクスには大切なのだ。
上を押さえることが難しいならば、数で勝るしかない。
派閥内での力の関係というのは基本的に身分だ。それは否めない。
だがこと女性陣の場に限って言えば――数というのは、重要なのである。
いわゆる同調圧力……とまではいかないが、下位貴族の令嬢たちだけ集めてもさほど強くはないがその旗頭にニュクスがつくだけで盤面の動きが変わってくるのである。
社交界のやりくちの一つであるが、派閥を掌握するために夫人や令嬢を巻き込んでロレアヌスという派閥を呑み込むためには手段を選んでいられない。
(別に知識があるだけで、悪いことはしていないのだしね)
むしろ領民たちを助けようとしているのだから、過去の知識を使って行動することは悪いことではないのだ――そうニュクスはこっそり笑ってデザートチーズに舌鼓を打つ。
思いのほかあっさりとした口当たりでフルーティー。
けれど残念ながらアンネローゼや女王の口には合わないのか、彼女たちのテーブルでは全然減る様子は見られない。
何か楽しい会話をしているらしく声高に笑っているが、ニュクスはそれをどこか呆れた目で見ていた。
茶会の主催者が話題を一部の参加者にしか振らないのではどうしようもないだろうに。
アンネローゼはアンネローゼで目の前のケーキに夢中なのだから、いったい女王は娘のどこをもって派閥の女性陣を味方につけようとしているのだろうか、と内心首を傾げた。
(まあいいわ。私が動くのは騒ぎが起きてから。さあ、いつ起こるかしら?)
それまでは美味しいデザートを堪能することにしようと、令嬢たちと会話しながら他のデザートに手を伸ばしたのだった。




