冷遇された王女が一番悟っている
「……まあ王配殿下のことはいいわ。貴族たちはどう見ているのかしら?」
「今回の件を受けて、いっそうニュクス殿下に王太女となっていただきたいという意見が増えております。陛下も無視できないほどに」
「なお一層嫌われそうねえ」
今のニュクスからすれば、女王にこれ以上嫌われたところで毛ほども痒くないのだが。
それでもシグムンドとエリオットからしてみれば、話はまた別である。
実の母親に嫌われているという理不尽なこの状況に晒される少女の物憂げな表情は、母への思慕を諦めた哀しみにしか見えない。
過去三度の人生であれば、確かにそうであったのであながち間違いでもないのがなんとも皮肉な話であり、笑い話であった。
「嫌われると言えば、陛下も周囲の反応にお気づきのようで、今更焦ってアンネローゼ様の評判を上げるために女王主催の茶会を開くようです」
「……!」
思ったよりもずっと早い、だがきっと例の事件が起きた茶会に違いあるまい、とニュクスは思った。
これまでの人生経験により、物事は基本的に同じようなことが起きる。
疫病や天候といった自然災害はほぼ同じ時期に、そして茶会や嫌がらせのような個人の行動によって変動が置きやすいものはずれたりなくなったりするものなのだ。
今回もそうなのだろう。
ニュクスがあれこれと動き回っているお陰で貴族たちの評判が上がった分、女王がいくら可愛がろうがアンネローゼの評判が上がらない。
手っ取り早いのが夫人たちを集めてのお茶会なのだから、当然の流れとも言えた。
(それよりはアンネローゼの教育を進めた方が評判も上がると思うけれどね)
見合いを断られて奮起した姫、という方がずっと好感を持たれやすいだろうに。
それが本当に努力しているか否かは別として。
そんなことを思ったが、おそらくそれを茶会の場で嘯くに違いない。
アンネローゼは努力している、だからみんなも応援してあげるべきだ……というようなことを言って『可哀想な第二王女』を印象づけるつもりなのだろう。
ただそれはあくまであのアンネローゼが大人しく嘆き悲しむふりを続けられるか、女王が席次などの失敗を犯して茶会そのものが恙なく終わるかなどの問題を内包しているのだけれども。
そう考えれば、教育をしっかり施して名のあるサロンなどでその成果を見せて悲しそうな表情の一つも見せた方がずっと建設的だとニュクスは思う。
おそらくできないとは思うが、アンネローゼはまだ八才なのだ。
(私には強制できなかったけどもしかしたらちゃんとした導き手さえいれば……まあ、少なくともあの両親でないことは確かね)
多分、おそらく、きっと。
それは国内の主立った貴族ならば、そう思っているだろうなとニュクスはそっと笑った。
(まあまずは女王のお茶会ね。アンネローゼに手伝わせた、と大々的に喧伝するかしら? だとしたら私に面倒ごとを押しつけてくるつもりかしら……)
ニュクスに任せて手柄を横取りするか、女王が手配して失敗だけをニュクスに押しつけるか。
それによって対応は変わってくるが、どちらでも構わなかった。
そこで起きる問題の方がニュクスにとっては重要なのだから。




