流浪の民の寄せ集め
結論から言えば、アトリアニとアンネローゼの見合いそのものがなかったこととなった。
それはそうだ、プレティシャス王国としてはわざわざ玉座に就くかもわからない第二王女の婿として優秀な王子を出す必要性は感じられない。
何せメランジュ王国の女王は可愛い娘を国外に嫁がせるつもりはないと明言しているのである。
どうしてそこに旨みを見出せようか。
元々母国で居場所のない流浪の民が価値のない土地に集まり、知恵を寄せ集めて作り上げた国なのだ。
周辺諸国が争い合う中で、さほど価値がないからこそ後回しにされる国……それがメランジュ王国なのだから。
「ニュクス殿下が心配しておられたように、やはり殿下の婚約について……しかも女王の名においての婚姻が確約のものでありながらその件に触れずに見合い相手の名も書かずに求婚状を送ってきたことでプレティシャス王家から苦情が届いています」
「はあ……各国も我が国の情報を自ら得ようとしていない辺り、この国がどれだけ軽んじられているかよくわかるわよね……」
数日後、エリオットからもたらされた報告にニュクスは閉口せざるを得ない。
乾いた笑いを誤魔化すように扇で口元を覆うニュクスを、シグムンドが気遣わしげに見る。
「王配殿下は?」
「はい。実はプレティシャス王国からは非礼を詫びるのであればニュクス殿下の婚約者をアトリアニ殿下と挿げ替えるか、もしくはニュクス殿下がプレティシャス王国に輿入れすることを望まれました」
「……まあ、そんなことが?」
「ええ。その件に関しては女王陛下も王配殿下もまずいと思われたのでしょう、頑として受け入れませんでしたが」
怪訝そうなニュクスに苦笑しながらエリオットは言葉を続ける。
ニュクスの隣では、少しだけ不機嫌そうにシグムンドが視線を逸らした。
「何せ女王陛下は第二王女を女王にしても、実務や面倒ごとはニュクス殿下に押しつけるおつもりですので。公言なさっておいででしたので、間違いないかと」
「あら、まあ……」
ニュクスは二の句が継げなかった。
とんでもないことを公言していると女王は理解しているのだろうか?
後継について言葉にするのはまだわかるが、公務を行わせたこともない第二王女を女王に据えて実務は他の者に任せるというのはとんでもなく危険極まりない行為と思われる。
たとえ血を分けた姉妹だとしても――いいや、むしろ血を分けた姉妹だからこそ、国内が割れることしか見えないはずだ。
そして王配であるダンテも女王の言いなりというか、女王の機嫌取りをしたいが実務のできない次女に玉座は重すぎると理解している。
いずれにしても彼らの考えは、ニュクスの犠牲なくしては成り立たない。
だからこそ、外に嫁がせるわけにはいかない、という最悪な考えである。
「……なんてはた迷惑な」
「まあ、ニュクス殿下からしたらそうなるでしょうね……」
これにはエリオットも同意せざるを得ない。
アンネローゼがどう成長するかはわからないが、まだ十才のニュクスにあれもこれも押しつけるつもりな女王とその王配には誰もが呆れるばかりだ。
とはいえダンテの方は王配としての立ち回りの中で、さすがにそれを明言すると自分の立場も危ういと気付いているのかニュクスを庇うような発言をしているらしい。
可愛い我が子を国外に嫁がせるなんて、などという言い方をして失言だと気づき、また慌てていると聞いてニュクスは再度乾いた笑いを浮かべた。
国外に嫁がせるのが可哀想、ではこれまでの王族は? となるではないか。
また王族が嫁げない代わりに高位貴族の中から代わりに嫁いでいった令嬢たちの立場も軽んじる発言ではないか、と。
一応今は気付いて『ニュクス殿下はまだ十才ですから……』という言い方になったようだが、本当に周囲とこれまで上手くやれていたことは不思議でならないとニュクスは大きなため息を吐くのだった。




