理解はできるが、わかりあえない
「しかし問題はプレティシャスの第二王子がアンネローゼ殿下では満足できないかもしれない、ということですね……」
「まあ、そうでしょうね」
この国の慣例で大抵、第一王女が即位する。
そのため他国や国内の有力な子息を王配と据える……というのは王族であればよく知られている話である。
よその国とてそうやって政略による婚儀で同盟や交易のために行ってきたのだ。
そして第一王女でなければならないわけでもない以上、第二王女との婚姻もそれなりに有益であると言えるがアトリアニは間違いなく「ニュクスとの見合いだと思った」と未来の王配という立場を期待した言葉を発したのだ。
女王自らが認めた婚約者のことを周辺諸国に報せていないことであちらとしては『期待して見合いに臨んだのにどういうことだ!』と思われてもおかしくはないのだ。
ましてや、アトリアニはニュクスのことを『聡明な姫』と言っていたのだから、そういう話が外に聞こえているのだろう。
(といっても私は何か特別なことをしたわけじゃないのだけれど……)
今回はこれまでと違いきちんと勉強をして、過去の人生で繰り返した分の知識を上手い具合に張り付けて、不具合を減らしただけだ。
それにしたって基本的には手柄は別の人間であるし、その人々が人脈に繋いでくれて感謝してくれるだけであって基本ニュクスの功績ではないのである。
しかしながらニュクスがそう考えたところで〝彼らが感謝する〟こと自体が功績だと普通は考えるのだ。
残念ながら彼女の中では『人生四回目』だから出来て当然、すごい彼らが報われて良かった……くらいの気持ちなのである。
ここでズレが生じているのだが、誰もがそれを知る由もない。
「おねえさま!!」
「わっ」
ようやく落ち着いた『お茶会』を楽しむニュクスの前に、アンネローゼが現れる。
どうやら入り口のメイドたちを振り切ってきたのか、可愛く着飾っていたドレスも乱れているしゼエハアと荒い息を吐いている様子にニュクスも目をぱちくりとさせた。
「……アンネローゼ。どうしたの?」
「お姉様、何をしたのよ!」
「何をって、何かしら……」
「アトリアニ様のことよ! なんでお姉様が選ばれてるのよ!」
「それは女王陛下に確認して? アンネローゼとのお見合いだって書いていたのだと私も思っていたのよ?」
ニュクスは心のそこからそう思って言葉にする。
するとやはり思うところはあったのだろう、アンネローゼもグッと言葉に詰まった。
「それにアトリアニ殿下は私が婚約していることもご存じなかったようだし……その点についても王配殿下に確認をするつもり。両陛下が私の婚約を国外にも報せていなかったのなら、そのせいでアトリアニ殿下も知らなかったのだし、アンネローゼは何も悪くないわ」
優しくそう言えば、アンネローゼが涙を浮かべる。
実際、この妹は何も悪くはないのだ。愚かなだけで。
(……この子は本当に単純でいいわ)
お前は悪くない、その一言だけであっという間に怒りを静めてくれたのだから安いものである。
ただ見合いの申し込みに関してアンネローゼに責任がないだけで、その後の挨拶ができなかったり薔薇の匂いでむせかえるような部屋を用意したり、姉姫を貶めて自分を上げようとする姿を真っ向から見せてアトリアニの機嫌を損ねたことに関してはアンネローゼ自身のせいだとニュクスは思っている。
そこに関しても親の教育が……と言えなくもないが、本人がおかしいとどこかで気付きつつ直していないのだから、やはりニュクスからすれば自己責任でしかない。
(まあ私だって人生を三回失敗してようやく悟ったのだからまだ一度目のアンネローゼには難しいわよね。……私たちってつくづく愚かな一族なんだわ!)
同情はする。
だが、それだけだ。
愚かならば愚か者なりに、この愚かな喜劇の幕引きを担うのも役目というものだろう。
(……でも、巻き添えはやっぱりいやよね)
折角大切に思う人たちが幸せになっている世界なのだから。
ニュクスは異なってきた人生に思いを馳せつつ妹を宥め、マーサに彼女の宮へと送り届けるよう言うのであった。




