やいのやいのと喚くなら
そして見合い当日。
何故かニュクスも女王によってその場に参加していた。
「可愛い妹が幸せを掴む日なのだから、貴女も姉として祝福しなさいね?」
そう言われたが別にニュクスの中では『好きにしたらいいんじゃないのかな』くらいの感覚でしかない。
だが、ある意味でこの場に居合わせることができたのは彼女にとっても僥倖と言えた。
何せトラブルが起きても、人伝に聞くのではなく、この目で見て判断を下せるというのは大きい。
(ええ、でもまあ、それはそうとしてね?)
室内に置かれた花の数にニュクスはさっそく頭が痛くなっていた。
大量の薔薇、薔薇、薔薇……ピンク色のそれは朝摘みなのか大変美しくはあるが、ありすぎるとどうにも匂いがキツいと思わざるを得ない。
その上室内もアンネローゼの可愛らしさを前面に出したいのか、ピンクを基調とした愛らしいデザインのものばかり。
(目が……痛いわね?)
この応接間ってこんなだったかしら……とニュクスは目を細めた。
その様子を見て悔しがっているとでも思ったのか、アンネローゼがニコニコと笑いかけてきたではないか。
「お姉様、今日は存分に悔しがっていいのよお? でもお客様の前で泣かないでねえ、みっともないからあ」
「……お客様もこの薔薇の匂いにびっくりしちゃうんじゃないかしら」
「ええ? そうお? このいい香りがわかんないなんてお姉様かわいそ~!」
「薔薇そのものはいいけれど……」
ずっとそこにいて馬鹿になってるのかしら、とニュクスはそっと胸の内だけで呟いた。
悔しがるよりも前に酔いそうだが? と思わずこの部屋のメイドたちに目を向けるがサッと逸らされる。
おそらく進言はしたが、聞き入れてもらえなかったのだろう。
(……さっそく見合いで減点対象を作るとか、ある意味すごいわ……!)
後ほどお断りされるであろうことはわかっていたが、それでもここまで最初から悪手だともはやアンネローゼが見合い相手に嫌われようと振る舞っているようにしか思えないから不思議である。
しかしこれがアンネローゼの趣味なのか、女王の趣味なのか……と考えてニュクスは少しだけゾッとしてしまった。
愛されたいとは願っていたが、愛された結果がこの状況ならば自分は本当は幸運だったのではなかろうか?
それとも祖母である先代女王はこうなることを予見していたのか?
(いえ、おばあさまは慣例に従って長女を預かり育てただけだから……)
ニュクスとしては大変複雑であった。
とはいえ、時間は過ぎていくもので、来てほしくないと願っていたアンネローゼの見合い相手――プレティシャスの第二王子アトリアニが到着した、とメイドが伝えてきて、思わず体が僅かに揺れた。
それを見た女王とアンネローゼが勝ち誇った笑いを浮かべていたが、ニュクスは何があったらどう対応すべきなのか、それだけに今は集中したかった。
ただ、薔薇の花のむせかえるような香りが辛い。
「アトリアニ第二王子殿下、入室です」
メイドの声と共に、先んじて入ってきたプレティシャス王国の騎士が二名。
ドアが開いたお陰か、すぅっと澄んだ香りが室内に入ってきた。
ミントに似た香りがドアの方からしたことで、彼らが運んできた香りだ、とニュクスも察してゆっくりと視線をそちらに向ける。
屈強な騎士の間から、ゆったりとした足取りで入ってきた美少年。
きゃあ、と挨拶より先に嬉しそうな声を上げるアンネローゼに冷めた気分になりつつも、ニュクスもその美しさだけは認めざるを得ない。
(なるほどね、あれほどの美形ならこの二人が好きそうだわ……)
ただしそれが、猛毒の棘を持つ薔薇ならばこの国にとっては益にはならないけれど、と心の中でだけまた大きなため息を吐くのであった。




