面と向かって言ってやりたい
プレティシャスの第二王子、アトリアニ。
ニュクスは、彼の名前と影の宰相であったことだけしか知らない。
かつての人生ではアンネローゼが彼の見目を褒めていたので、おそらくは美形なのだろう。
ニュクスは過去の人生で、常に裏方であった。
国際会議のような場には女王かアンネローゼが行くものであり、その準備をするだけ。
各国の要人の顔などは知らずとも国内の雑務をこなせるだろう、と言われて女王たちがすべき政務を行っていたが、それに納得していたあの時間を悔しく思う。
(まあ見合いでもなんでも好きにしてくれたら良いのよ、ええ、国に不利益を持ち込まなければ)
アンネローゼのことを気にしなくていいのであれば、それはそれで助かるのだ。
ある程度やり返したい気持ちなどもあるので碌な見合いじゃないと良いな、なんて思ってしまう面もあるけれども今はそれどころではないのである。
(たしか、三年後の秋だったわよね)
過去の人生で、必ず起きた災害による問題に今は取り組みたい。
嵐によって国内の作物が軒並み駄目になってしまい、飢饉が起きるのである。
(その対策に乗り出したところだっていうのに!)
そんな時期に、他国関連の問題は頭が痛いとしか言いようがなかった。
備蓄を貯めることは一朝一夕でどうにかなるものではないし、大貴族だけが貯め込んでも足りはしないからこそ早くに取りかからねばならないのだ。
各領地で出来る作物量だってバラバラなのだから、当然備蓄できる数も異なって当然だ。
三年という猶予があると言えば聞こえはいいが、逆を言えば三年しかないのである。
カルミア公爵家との縁が出来たことで各地の貴族たちと知り合えて前回の流行病を乗り越え、その縁を辿って今回の対策に乗り出したところである。
以前の人生であればできなかったことだが、今回はそれが出来る――とはいえ、少しの時間だって惜しいと思うのは、未来を知るニュクスであればこそであった。
(それに、ええと……女王のお茶会で大きなトラブルがあったのよね)
今年の冬に起こる出来事であっただろうかとニュクスは記憶を辿る。
そちらもなんとかしなければ。
ロレアヌス派閥なのに女王が仲の悪い家を隣席にさせた挙げ句、アレルギーのクッキーを近くに置いたものだから知らずに食べて騒ぎが大きくなったのよ……)
しかし女王はそれを取りなすことも詫び代わりの何かをするでもなく放置し、ダンテに丸投げしたのだ。
ダンテは喧嘩はよくないという適当な対処をしたため表向き気持ちは収まっても、不満は大きく膨らみ――領地同士で小さな争いが起きて、そこから小さな病気も流行り出す。
その病気そのものは大きく広がらなかったが、そこそこの被害を出し風土病として扱われたが、実際には毒であったことが判明した。
その頃には土地が痩せて……国力の衰退要因の一つであったように今なら思える。
(やることが多過ぎなのよ!)
まるで見合いが必ず成功して、ニュクスを追い落とせるのだ……と言わんばかりにはしゃいで回るアンネローゼの声が煩わしい。
こちらは忙しく仕事をしているのだし、その見合いに関連して王配が大慌てして走り回っているのだから女王も少しは考えろと声を大にして言いたいところだがニュクスは沈黙を守り続けなければならない。
けれど、面と向かって言ってやりたい。
面倒ごとを増やすんじゃない、と――。




