皆まで言うな、わかってる
アンネローゼがどうなろうが構わないが、国外に嫁いで恥を晒すのも困る。
かといって国内貴族から軒並みお断りされている事実もよその国に気付かれているかと思うと恥ずかしい。
姉妹の情というよりは王家の人間として、もう少しばかり勉強でも作法でも、あるいは芸術でも武芸でもダンスでもいいから何か頭一つ抜きん出てもらいたいものだとニュクスはため息を漏らした。
自分と姉妹なのだから、凡庸であるとは思うがそういう意味で期待したくなるのは間違いだろうか? と溜め息が止まらない。
両親がアンネローゼを猫可愛がりするのは、アンネローゼが両親の『色』を色濃く受け継いでいるからに他ならない。
一歩離れることができたニュクスの目には、妹は確かに見た目はそれなりに可愛いが、それだけだ。
特別可愛いというわけでもなく、貴族令嬢たちの間にいたら埋もれる程度の『可愛さ』でしかない。
今は王妃の庇護の下、贅沢に着飾り磨かれているからこそ保たれている可愛らしさに過ぎないので嫁いだ途端にレベルが下がる……というか、本来のランクに収まることだろう。
そうなった時に『可愛さ』でごり押しして嫁いだ相手はどう思うか、となると少しばかり面白そうだと少しだけ考えてニュクスはすぐにその考えを振り払った。
これから女王になるにあたって、妹姫が教養不足で行き遅れなんてことになったら最終的に自分が面倒を見てやらないといけないことになるので、それは是が非でも避けたいところである。
ある意味で修道院に送る理由にもなるか……? と思いもしたが、それはそれで修道院の皆様にご迷惑というものだと反省した。
「ニュ、ニュクス様! 大変です!!」
「まあ、どうしたのマーサ」
普段穏やかなマーサの鬼気迫る様子に、ニュクスも思わず立ち上がる。
駆け寄ってきてひそりと囁かれた話に思わず、眉間に皺が寄る。
「……それは、本当なの?」
「はい。もう既に申し込みが済んでおり、あちらも乗り気だというお返事が今日届いたらしく……女王陛下は大変お喜びです」
「なんてこと……」
ニュクスは愕然としてカップに目を落とす。
まだ僅かに残っている茶を見つめ、思わず呟いていた。
「……大国の王子相手に、縁談の申し込みですって……? あの子にできるの? お見合いなんて……!」
「わかりません。ただ、メイドたちは今から大慌てでございます」
あれをしろこれをしろ、宝石商を呼べとすでに大騒ぎらしい。
それを聞いてニュクスは更に頭が痛くなってしまった。
だがもうすでにあちらが乗り気で、お見合いのためにこの国に来るというのであれば止めようもない。
もしかすれば、噂となっている第二王女の様子をその目で確認するためかもしれないが、それはそれで世界情勢においてこの国が侮られる理由になってしまいかねない。
(お見合いの場をかき混ぜたいわけではないけれど、同席できるか、あるいは偶然でもいいから補佐できるように立ち回らなければ……!)
まさかの想定外な方向で、やりたくもないアンネローゼの補佐をしなければならないなんて、とニュクスはギリギリと扇を握りしめるのであった。




