否定をすればするほど
「……ニュクス姫は、本当にいい王族ですね」
「まあ、シグムンド。シグムンドにそう言ってもらえるなら嬉しいわ。……だけど、決して私は〝いい王族〟なんかじゃないと思うわ」
「そうなのですか?」
「褒めてくれるのは嬉しいけれど、これが本来の王族としての役割なの。お祖母様がそう仰っていたから間違いないわ」
「そうなのですね」
小首を傾げるシグムンドの眼差しは真っ直ぐだ。
その素直さに、ニュクスは感謝する。
ちなみに祖母が言っていた云々は嘘っぱちである。
なんせニュクスが五才の頃に亡くなった先代女王は最後の頃寝たきりで、それまでどんな会話をしていたかさえあやふやである。
ここに老公爵でもいたならば嘘を疑われる可能性があったが、馬車の中ということもあって今ニュクスの前にいるのはシグムンドだけだ。
(ごめんなさいね、シグムンド。貴方の妻は、少しばかり嘘つきなの)
真っ直ぐに尊敬の目を向けてくれるシグムンドには申し訳なくなるばかりだ。
それでもこうしてその目を向けてくれることが、ニュクスは嬉しくてたまらない。
前までの人生ではこうして視線を合わせることもなく、それでも傍にいた彼は何を考えていたのだろうかとふと気になったが今更だとニュクスは少しだけそれを寂しく思う。
(あの頃、ほんの僅かでも私に周りを見ることができていたら……何か変わっていたのかしら)
家族に愛されたくて。
ただ、愛されたくて。
盲目的になっていたことは、今となっては恥ずべきことだ。
そんな過去を経ている状態で『いい王族』と言われてもニュクスには素直にそれを『ありがとう』と受け入れることなどできないのである。
とはいえやはり、そんなことを誰にも告げることはできないので結果として周囲が認めてくれたことを素直に受け入れるしかないのだ。
(複雑だわ……反乱の時期までのことしか知らないから、もしも女王になるならばそれまできちんと学ぶことと有能な人材で脇を固めなければ結局危ない人生になる気しかしない)
ニュクスは己が平凡な女だと自覚している。
過去三度、妹のためにと学んだことなどは無駄ではないと思うし実際現在役立ってはいるものの、あくまでそれは人生三回分のズルでしかない。
(というか、そう考えると私は人の三倍、いいえ四倍は頑張らないと天才たちには及ばないということよね。努力はしてもいいけれど、それじゃあ時間が足りなすぎるわ!)
決して目の前のシグムンドや、薬を今回も開発するに違いないアルベール・ライルリヒのような天才たちには遠く及ばないことを知っている。
人生四回分でようやく並べるというのであれば、今後は厳しいことが目に見えているではないか。
(……なら、信頼を得て優秀な人材を集める方が現実的よね……)
せいぜいが、愚かな選択をしないで済むよう最低限の知識と、それを使う頭があれば良いのだろう。
どうせ否定をすればするほど、人は自分の見たいようにしか見ないのだ。
下手にここで否定して回ったところで、彼らには『謙虚な王女』という新しい幻が見えてくるだけである。
いずれの時か、思ったよりも普通だな……? と彼らが気付く頃にその幻というか、理想の王女像が積み上がってしまうことの方がニュクスにとっては恐ろしい。
「……もっと勉強しなくちゃね。一緒に学んでくださる? シグムンド」
「はい。矮小なる身ではありますが、ニュクス姫のために」
「ありがとう、シグムンド。……本当に、ありがとう」
傍に誰かいてくれる。
それが温かいことだと、ニュクスは改めて思った。




