華やかに、しとやかに。
ニュクスにとっては予想外であったとしても、それはある意味で必然であったのだ。
何故ならば、王家があまりにも腐りすぎていたから。
その汚泥でまともなことをする花があったなら、それを人は格別に美しいものと思ってしまうのだ。
特に、カルミア公爵領の人間……騎士ともなれば、女王の横暴なる振る舞いでカルミア公爵家の若君の命が失われ、そして毎年の慰霊祭での退屈そうな顔にどれほど苦々しい思いでいたことか!
そしてアルベール・ライルリヒも貴族たちが上手に立ち回る中でここでは最新の設備も学説も上がってきたとして、人のために役立つ場ではないと見切りをつけたからこそここにいる。
たとえニュクスにとってはこれが王権に対して民衆の不満を向けつつも国を疲弊させないためであっても、それこそが王侯貴族の正しいあり方だと思っている人々からすればニュクスは十分に聡明な王女に見えるのだ。
勿論、それは四度目だからという理由でもあったし、ニュクス自身が民衆に不幸になってもらいたいわけではないという、いたって普通の考えを持つ人間だからこそなのだけれども。
もしこれが三度と繰り返された流行病と違ったとしても、碌に動けなかった王家の中で彼女が動いたという実績と評価は貴族たちの間で残ることだろう。
それと反比例して、女王の評判が下がればいいというだけの話。
そしてカルミア公爵家に任せきらないのは失敗しても王家の失態にしたいという点と、万が一にもその責任をなすりつけられた結果シグムンドに累が及ぶことを避けたかったからに過ぎない。
とはいえ――そんなニュクスの気持ちを誰が知り得るだろうか?
人生四度目の王女様、だなんて誰も知らないのだから無理な話である。
それゆえに彼らには汚泥の中に現れた美しい、王族たる王女の存在――ニュクス・アキレギア・ロレアヌスをそう思ったからこそ膝をついたのだ。
(予想外すぎるわ、みんなどんな誤解をしているのかしら)
正直ニュクスとしては困惑せざるを得ない。
しかしながら、これは嬉しい誤算であった。
嫌われるよりは好かれる方がずっといい。
特に、味方になってくれる人間が有能であればあるほど。
「……我が主君、など呼ばずにどうかニュクスと呼んでください、アルベール・ライルリヒ。国の中央で医学を考えるよりも、民に寄り添ってくれるあなたの方が何もできない私よりもずっと立派なのですから」
「ニュクス殿下……!」
「さあ、立って。協力してくださるということでしょう? ……こうして、こっそりと薬の材料を届けるしかできないけれど、民のためにどうかお願いね。今はあなたたちが、あなたたちだけが頼りなのです」
「はい……はい! しかと承りました。必ず東国からの流行病、それに効く薬を作りだし、人々の元へ安価に届けることを目指します」
「ありがとう。できる限りの援助はしたいし、するつもりだけれど……私が動き回って王配殿下や女王陛下に知られれば、むしろ邪魔になってしまうかもしれない。今後はカルミア公爵家の騎士たちがあなたを訪れることになると思うの」
申し訳なさそうにまだ十才の王女がそう言えば、なんと健気なのかとアルベール・ライルリヒは思わずにいられない。
実際のところ内心で家族に対して多少毒づいていようが、ニュクスが行っていること自体は間違いではないのだけれども。
「もし薬が完成しても、この薬のことは、あなたが見つけ、あなたが広めた。そのようにするようカルミア公爵にも相談済みです。アルベール・ライルリヒ、そのつもりでいてね」
「殿下、しかしながらそれは……!」
「葬送花の王女に救われることをよしとしない人も多いでしょう。ただでさえ、今の王家は嫌われているから」
「そのようなことは……」
「いいえ、私も知っていることだから大丈夫。カルミア公爵家が主導でも良いのだけれど、過去の辛い気持ちを思い出す人もいるでしょう? それに最大の貴族家が主導となれば、王家と争う気配が出る……そうなれば」
内乱の気配を示唆すれば、ライルリヒは黙るしかない。
一介の、民間の医師が見つけた薬が広まっただけ……そしてそれをカルミア公爵かあるいはその関係の貴族がたまたま見出しただけ。
そのようにすれば、貴族たちも納得するし王家だって口は出せない。
今の王家にはそれほどに力がないのだ。
「……そろそろ私は宮に戻らないといけません。今日はお時間をありがとう」




