能動的な王女様
働く人間の一覧――それは別に調べようと思えば、ツテがあればいくらでも調べられる話だ。
その一人一人の個人情報を横流ししたならば問題だし、勤務表を持ち出したなら流石に王女と言えども咎められるであろうがニュクスが見せたのは本当にただの『一覧』であった。
それこそ、貴族の子弟であれば、あるいは王城の医師を目指す人間ならば誰だってこのリストを目にすることが可能なのである。
縁故を頼ることもあるし、高名な人物を頼って弟子入りしたいと望む者も後を断たないので王城に勤務していることを示すためにも、また権威の一つとしてもこのリストそのものは公開されている。
「……これが、何か?」
「お気づきになりませんか」
「……?」
アルバーノ・ライルリヒはニュクスの言葉に一覧へと再び目を落とす。
けれど別におかしなところは一つもない。
せいぜい、そう、せいぜいあえてあげるとするならば、女王の一門……つまりニュクスにとっても同門である、中央貴族たちの名前が多いことだろうか。
「……中央貴族が多い、としか」
「正解ですわ。ライルリヒ殿。そう、中央の医師たちであることが、問題なのです」
「……?」
「もう噂はご存じでしょう? 私が疎まれている王女であること。同門の貴族たちは女王のやりように異を唱えることは難しく、私が彼らを頼っても応えるどころか女王に逐一報告がいき、咎められ、一層動けなくなることでしょう」
「それは……」
「東の国から始まった病について、私から王配殿下にお伝えいただくようお願いすることも考えました。けれど私が発端であっては、女王陛下は受け入れてくださらないかもしれない」
「……」
そんな馬鹿な、と言う者は誰もいなかった。
その証拠が、彼女の隣にいるシグムンドなのだから。
平民の、色持ち。
嫌われる象徴であり、なんの後ろ盾にもならない少年をあてがった女王の行動は誰の目にも異質でしかなかった。
一部、平民の間では平民にもそのような縁を持ってくれたのだ……と好意的に言う層もあったようだが、それについてはニュクスとしてはきっとダンテが仕組んだか何かだろうと思っている。
でなければそんな話題がほんの少し浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返しているのもおかしな話なのだから。
(無駄な火消しなんかするくらいなら、その分政務に力を入れてもらいたいもんだわ)
我が父ながら情けない、と少しだけ思うこともあるが、だからといって他人任せにもしていられない。
「幸いにもカルミア公爵家の方々は、かつての災害を乗り切った方たちなので私の考えに賛同してくださいました。貴族たちとの間を取り持ってくれ、医療に関することも調べてくれたのです。そうして、薬草を集めることができました」
その一部があの布袋である。
あくまで善意であり、そして王族を介さないものであり、病の恐ろしさを知るカルミア公爵家が協力であると強く伝える。
ニュクスには、王族としての誇りよりも王族としてあってはならない家族の方が許せないのだから。
「東の国の病については、今も調べてもらっているところですが……どうか、それをお伝えする代わりに治療薬を作り出し、そして国中に流通させてもらいたいのです……!」
貴族を優先する女王も、妹も。
そしてそんな二人を擁護する王配も頼りになんてならない。
それならばいっそカルミア公爵家主導と言ってもいいのだが、最悪の結末を迎えた場合には責任を取らせるわけにはいかないのだ。
だってカルミア公爵家には、シグムンドがいるのだ。
シグムンドに泥を被せないためには、自分が動くしかないのだとニュクスは思う。
(泥ならいくらでもかぶれるわ。シグムンドを守るためならば)
そして薬が流通すれば、この病で倒れるマーサの母……ニュクスの乳母も救えるのだ。
ニュクスに動かない理由が一つもない。
そんな彼女の真っ直ぐな目に、アルベール・ライルリヒは思わず膝をついていた。
「……仰せのままに、我が主君」
ふと気付けばアルベール・ライルリヒだけではない。
背後に控えていたはずのカルミア公爵家の騎士たちまでもが膝をつき、隣にいるシグムンドが尊敬の眼差しを向けていた。
(ん? あれ? コレは予想外だわ……!?)




