当然結果は出していく
その日から、毎日のようにカルミア公爵家の馬車に乗りシグムンドは王女の宮を訪れた。
教師はあくまでシグムンドのお目付も兼ねているという建前だ。
最下層の兵士にすぎなかった少年が王女の婚約者となったのだ、無作法など許されない……その建前は多くの人々が納得するものであった。
また、王女の宮で教育が施されているようだ、という話題に対しても『シグムンド殿の成果を王女殿下にお目にかけている』というカルミア公爵家の言葉により、誰も疑うことはない。
一度、女王が『王女の宮にカルミア公爵家だけが頻繁に出入りするのはよろしくないのでは?』と言ってきたようだが、それに関しては老公爵がダンテに確認する、と答えて終わったようだ。
何せダンテが『願ってもない』と多くの貴族の前で言っている手前、今更女王が何を言おうがシグムンドの後ろ盾はカルミア公爵家である以上、ニュクスとの接点は消えない。
(……今頃、女王はイライラしているのかしら。私に教育が施される間も、アンネローゼは遊び呆けてと聞く)
ちなみにその情報をくれたのは、マーサを通じて知った女王側のメイドである。
日に日に癇癪の酷くなる女王と我が儘放題な妹姫に鞭打たれ苦しんでいたところを、その窮状を知ったマーサを通じてニュクスが薬を手配したのである。
他の女王側のメイドたちにも使っていいから、この出所がニュクスと知れないようにだけ気をつけなさい、と厳命してある。
あくまでそれはメイドたちがより叱責を受けないためで、自分が嫌われているせいで表立って救えずに申し訳ない……と伝言を伝えれば不思議なことにメイドたちの忠誠は今やニュクスのものである。
(あれほど女王の顔色を窺って私のことを蔑ろにしていたというのに、本当にみんな権力には弱いのだから不思議だわ……)
その権力でさえも、あっという間に民心が離れればひっくり返されるものであると知るニュクスにはこの状況でさえ、ただの喜劇にしか見えない。
それでも彼女らが隠れて味方してくれるお陰で目に見えてニュクスの生活環境が改善されたのだから、それは喜ぶべきことだろう。
また、シグムンドの後見として立ったカルミア公爵家も度々彼女に贈り物をしてくれるようになり、今や彼女が暮らす宮は見違えるようであった。
「それもこれもシグムンドのお陰ね。フフ」
「……おれの?」
「ええ、あなたのお陰よ。あなたが私の夫になってくれてから、何もかもが上手く行っているもの」
教育を施されたことで、教師からニュクスは『とても優秀』という評価をもらっている。
あくまで四回目の人生であるということを踏まえれば、ニュクスとしても少しばかりズルをした気持ちにはなるのだが……それ以上に今回の人生では目標があるので、なりふり構っていられない。
今世では学べることを学んで、打倒王家を目指すのだ。
その果てにニュクスが女王となれなかったとしても悔いはない。
(あの人たちをそのまま玉座に置いておく方が世の中のためにならないもの!)
幸いにも愚かすぎる家族たちはその愚かさゆえに、ニュクスが普通の振る舞いをするだけで勝手に周囲が良く思ってくれるのだからありがたいことである。
そのためには慢心せずに、結果を出していくことも必要だろう。
良き王女。良き王族。
かつてはそれを『家族のために』望んだが、今となってみては愚かな話だった。
いいや、原動力としては間違いではなかったのだろうと彼女も思う。
ただ、それを向けるに値しなかっただけの人々に期待しすぎた己が悪いのだ。
「シグムンド、庭を歩きたいわ。エスコート、この間習ったでしょう? 練習を兼ねて庭を一周しましょう」
「……承知しました、ニュクス姫」
カルミア公爵家が庇護する、女王が嫌がらせのためだけに選んだ第一王女の〝夫〟――それすらも武器にして、最高の教育と最高の生活をシグムンドに捧げるのだ。
そして王族として大成すれば、自身を信じて共にいてくれるマーサや老執事たちにも報いる機会はたんとあるに違いない。
ニュクスはきちんと結果を残すだけ。
それが最大の復讐になるのだと美しく咲く花をシグムンドと愛でながら彼女は笑うのであった。




