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愛をこの手に、弔い花を捧げましょう~死に戻り王女の幸せな復讐劇~  作者: 玉響なつめ
第二章

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18/30

誓いの向く先

 ベアトリスはニュクスの結婚が〝祝福されたもの〟であることが腹立たしかった。

 腹を痛めて産んだ我が子ではあるが、あまりにも自分の母に似たその姿が嫌いだった。

 何より自分で育てたとは言えない環境が、より我が子と思わせなかったのだ。


 ベアトリスは母である先代女王が嫌いだった。

 王配を若くして亡くし、一人で采配を揮うことはそれは大変であったことはわかる。


(でもあの人は冷たかった)


 そしてベアトリスにとって、ニュクスはその母に生き写しのような存在だった。


 王家のために生まれ、王家のために生きた女王。

 賢君と呼ばれた母親。

 貴族たちからは常に女王を見習え、高見を目指せと叱咤された記憶しかない。

 そして女王は、母親としての情を欠片も与えてくれなかった――民にだけ優しかった!


 そんな母親に産まれてすぐ取り上げられた、自分に似ていない娘をどうして愛せよう。

 自分と夫によく似た、アンネローゼを愛して何が悪い。


(……とでも思っているから、今頃荒れているでしょうねえ)


 自分の宮に戻ってお茶を飲みながらそんなことを考えるニュクスは、王妃付きのメイドたちに同情する。

 おそらくアンネローゼも退屈だった上に自分の我が儘を聞いてもらえずむくれていることだろうから、そちらの対応もあるだろう。


 ニュクスが女王のその考えを知ったのは、尽くしに尽くした二度目の人生だ。

 だからこそ三度目は血を分けた妹とならば信頼関係を築けると信じ、そこから家族関係を……と願ったのだけれどもそれも徒労に終わった。


(結局、血の絆よりも、共にいてくれる人たちとの絆の方が私には相性が良かったということなんでしょうね)


「ニュクス様、カルミア公爵様と、英雄様がお越しです」


「すぐにお通しして」


「承知いたしました」


 ニュクスはすぐにでもシグムンドとの時間を持ちたかったが、あの式典のあと後見人となるカルミア公とシグムンド、そしてそれまでシグムンドを雇って(・・・)いた辺境伯家の間で話し合いがあるからと先に宮に戻っていたのだ。


 退屈だったからこそ、余計なことに思考を巡らせていたのだけれども。


「まあまあシグムンド様、公爵、よく来てくださいました!」


 笑顔で出迎えたニュクスに、老公爵はいつも通りの仏頂面で、そして夫となった(・・・・・)シグムンドは困惑した様子で挨拶をした。


「この宮は変わらず静謐な場ですな、次に来る際はなんぞ飾り物でもお持ちしましょうか? 王女殿下」

(※相変わらずぼろくて碌なものがないが大丈夫か)


「まあ、カルミア公にご迷惑をかけたとあっては女王陛下からお叱りを受けてしまいますわ。それに、趣があってよろしいでしょう?」

(※女王が知ったら壊しに来るから結構です。それに、意外と気に入っているの)


 ふふふと宮廷の言い回しで返せば、カルミア公はあごひげを軽く撫でる。

 そして改めて丁寧な礼をとった老公爵は、膝をついたままニュクスに告げる。


「シグムンド殿は我が館にて、これより基礎教育と宮廷剣術を学ぶこととなりましょう。入宮の許可は王配殿下よりいただいておりますが、当面の間は我が家の人間が同行することとなりましょう」


「そう……迷惑をかけますが、お願いしますね」


 ニュクスはカルミア公爵家のその対応に心から感謝した。


 以前までの人生は、シグムンドは学ぶことも碌にできないままこの宮に連れて来られ、そして独学で振る舞いを身につけたのだ。

 そのため、言い回しや言葉遣いといった教養が追いつかず、沈黙も多く静かに立っていることが多かったのである。


(今にして思えば、本当に悪いことをしたわ……)


 今生ではニュクスの振る舞いから味方となってくれた老公爵がいてくれるからこそ、シグムンドは後ろ盾を得ることができた。

 おそらく、カルミア公爵家がついたことにより他の貴族たちもシグムンドに対して好意的になってくれることだろう。


(前の人生までは、きっと貴族たちからも嫌がらせを受けていたわよね……)


 ニュクス自身が第一王女でありながら女王に嫌われていたのだから、貴族たちが味方になるはずもなかったのだ。

 ましてや、彼女自身が女王に立ち向かったわけでも、才気煥発というわけでもなかったのだから当然だとニュクス自身も思う。


(だからこそ、今度こそ間違えないわ)


 女王が認めた夫婦とはいえ、まだ子供同士。

 この縁を覆すには、女王といえども簡単ではない。


 建前上は婚約者、実質王女であるニュクスの夫君として人々はシグムンドを敬う側になるわけだが、当人はとても困っている様子であった。


「さあ、お入りになってシグムンド様。うちの侍女がとても美味しいお茶菓子を用意してくれたのです。勿論、カルミア公も是非」


 ニュクスとしては、何が何でも尽くしたい。

 だが彼女には今、それを叶えるだけの人脈も、財力も持ち合わせていないのだ。


 だからこそカルミア公爵家がシグムンドの味方であるように、それを後押しするだけである。


(……カルミア公爵家ならば、もし反乱を起こすにしても……王家と縁づいたからといってシグムンドを切り捨てることはないはずよ)


 勿論、反乱が起きないことが一番良いことであるが、ニュクスにとって反乱が起きる心当たりしかないこの状況で楽観視はできない。


(大丈夫よシグムンド……あなたの未来は、必ず私が守ってみせるからね……!)

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