ただ、それだけ
不満そうなアンネローゼと、ぱちりと視線がかち合った。
ここで挑発するのは容易いが、これ以上女王から嫌がらせを加えられては動きづらくなってしまうことを考えてニュクスはにこりと微笑んだ。
「アンネローゼもまた、第二王女として人々が厭う色持ちを平等に扱ってくれる姿が見えて私も嬉しく思います。女王陛下もそのようにお考えですよね? 王配殿下」
要するに先程までの発言には問題があるが、少なくとも第二王女は色持ちに偏見の考えがないことは事実だとニュクスはそう高らかに宣言した。
正確には、不勉強が祟ってシグムンドの色が各地方の貴族たちにとってどのような意味があるのか知らず、ただただ珍しいから『特別な自分』にちょうどいい装飾品の感覚で欲しがっていることは明白だが。
それでも言い方を変えればそうなるのだから、ダンテも大慌てでそれに乗っかった。
「さよう! さすが第一王女、よくわかっている。諸侯もこれからのメランジュ王国の繁栄を願い、この婚姻を祝してくれたことに感謝しよう。そしてこの未来を迎える英断を下した女王陛下を称えよ!」
(いえ、それは言い過ぎじゃないかしらね?)
隠しきれない愚かさが露呈して、なんとか丸く収めようと……それでもかなり無理がある状況であるにも拘わらず女王を称えろとは……。
拍手をしながら貴族たちのしらけた様子に気付いていないのだろうか? とニュクスが心配になるほどであった。
もしそうであれば愚かどころでは済まないのかもしれない。
それに気付かないまま四度目の人生を迎えている自分も相当愚かなのかもしれないが、気付けたのだからやれることはあるはずだ、そうニュクスはそっと胸の内で決意を新たにする。
「――今日という良き日に、お慶び申し上げる」
ダンテの口上に、カルミア老公爵がすっと前に出た。
そしてニュクスとシグムンドに視線を向け、辺境伯に視線を向け、ダンテに戻す。
「辺境伯家は国境の要、ゆえに長く離れられぬ身。よって、女王陛下にお許しいただけるのであれば我がカルミア公爵家がニュクス王女殿下の夫となったシグムンド殿の後見となりたく思うが、いかがか」
「なんですって――」
「それは重畳! こちらから頼まねばならぬところ、よく申し出てくださった!」
今度ばかりは女王の反論をダンテは許さなかった。
普段ならばまあまあまあと適度に流したことだろうが、今回だけはそれをしてはならないと思っているのだろう。
ニュクスに言わせればその『今回だけは』と思っている事柄が他にもたくさんあるのに、流してきた責任だとしか言いようがないのだが。
「……良き王配となれるよう、カルミア公爵家が責任を持ってシグムンド殿に相応しい教育を施そう。王女殿下も、よろしいですかな」
「ええ、由緒正しきカルミア公爵家が夫の支えとなってくださるなら、それに越したことはございません。けれど、これから夫婦として共に長い年月を過ごすのですもの。王都のカルミア公爵邸で彼が過ごすにしても、毎日時間をいただくことはできるのかしら」
「……勿論でございますとも。当然ながらシグムンド殿の送迎をさせていただきますし、王女殿下には是非当家に遊びに来ていただいても構いません」
「ありがとう、カルミア公。是非伺うわ!」
にこりと微笑んだニュクスに、多くの貴族が注目していた。
これまで女王の顔色を窺うばかりであった少女が、今はとても楽しそうに大貴族と話している。
その光景に満足そうな顔をしているのは、ダンテだけだ。
ある意味で、壊滅的に空気が読めない男であった。




