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愛をこの手に、弔い花を捧げましょう~死に戻り王女の幸せな復讐劇~  作者: 玉響なつめ
第二章

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16/27

その愛は決して綺麗な形をしていないけれど

 過去の人生で、ニュクスはシグムンドに大切にされたと記憶している。


 決して愛されたとは思わない。

 この婚姻関係は決して愛情から始まったものではないから、それも仕方がないと彼女だって割り切っている。


 最初の人生の時は、怒りと絶望だった。

 何故このような仕打ちを女王はするのか、それほどまでに自分が憎いのかと最終的にはニュクスは自身を責めるようになった。

 そして夫となったシグムンドには指一本触れることも、名前を呼ぶことすら許さなかった。


 けれど、反乱軍が押し寄せてきた時シグムンドは逃げ惑う人々の中、碌な武具を持たされないままただ一人ニュクスを守り討ち死にした。


 二度目の人生の時は、やはり絶望があった。

 それでも先の人生で彼が自分を守ってくれたことは覚えていたので、同じように触れることは許さなかったが名前を呼ぶことを許し、そして英雄に相応しい武具・防具を与えた。

 関係としては夫婦というよりは主従であったが、それでもマシだった。


 けれど、反乱は抑えられず王家の罪科をその身に受けたニュクスの傍らで、シグムンドも共に膝をついた。

 焦ることも、巻き添えとなった怒りをぶつけることもなく、ニュクスを見て「おそばにおります」とだけ言ってくれた。


 三度目の人生は、もう絶望しなかった。

 どんな時でも傍らにいてくれたシグムンドを信頼していたし、今生でも裏切られることはないだろうと思えたからこそ夫として今度こそ迎え入れようと思った。

 ところが、適齢期になって初夜の日。

 ニュクスが拒んだわけではないのに彼は来なかった。

 それがダンテの采配によるものだと知ったのは、反乱軍が押し寄せる少し前に妹に暴露された時だった。


 出自も確かではない奴隷の血を王家に混じらせるわけにはいかないから。

 たとえ玉座はアンネローゼのものだとしても、その火種を残すわけにはいかないから。

 ニュクスは可哀想な(・・・・)子だけれど、こうすることが最善だときっと理解してくれるから……。


 最期の日に、ニュクスはシグムンドと口付けを交わした。

 首だけとなった彼との口付けは、血の味しかしなかった。


 シグムンドは、いつだってニュクスの傍にいた。

 交わした言葉に数はあまりにも少ないし、男女の関係なんてしたこともない。

 エスコートの場で手を重ねたことくらいしかないのだから、笑ってしまうとニュクスは思う。


(でも、それが義務だとしても)


 シグムンドは、いつだってニュクスの傍にいた。

 そして、いつだって彼女の味方でいてくれた。

 彼だけがニュクスの家族だったのだ。


 血の繋がりはないけれど。

 国家が認めた、彼女の唯一の夫。


 それだけは、ニュクスにとって確固たる事実であったのだ。


「シグムンド。私の旦那様。……このニュクスはここにおられる全ての人々、そして女王陛下と王配殿下を前に誓わせていただきます」


 過去の三度の愚かな人生。

 それに寄り添ってくれたシグムンドを前に、ニュクスは高らかに宣言した。


「メランジュ王国が第一王女、ニュクス・アキレギア・ロレアヌスはここに夫となったシグムンドを常に敬い、愛し、支え、良き妻として尽くすことをここに宣言いたしますわ!」


 それは婚姻の口上としてはあまりにも拙いが、飾り立てたどんな美辞麗句よりも真っ直ぐで揺らぎのない言葉であった。

 そしてその宣言を、膝をついたまま聞いたシグムンドが驚きの表情で聞いていた。


 周りの好奇の目など、もうどうでもよいと言わんばかりにニュクスがぱっとシグムンドを見て微笑む。


「さあ、お立ちになって。一緒に、皆様にご挨拶いたしましょう。よろしいかしら辺境伯」


「え!? え、ええ。勿論ですとも王女殿下」


「ありがとう。シグムンド、私の手をとって」


「……は、はい」


「何も言わなくていいわ。私と一緒にただ前を見て」

 

 見下ろす女王の冷たい眼差しに、これまでのニュクスならば怯んでいたことだろう。

 だが今の彼女はそれが楽しくすらあった。


「女王陛下の民への思い、しかと受け取りまして夫婦として共に歩みますこと、どうぞ見守ってくださいませ」


「……ええ。皆も聞いたわね、第一王女ニュクス・アキレギア・ロレアヌスはここに夫を迎えました。若き二人に拍手を!」


 誰もが戸惑いを隠せなかった。

 愚かな女王の突拍子もない発言の末に露呈した、第二王女の教育不足。

 それらを一切合切呑み込んで、笑顔で身分の低い夫を受け入れた第一王女。


 拍手しろと言われてもそれでいいのかという空気が漂う中、拍手をする人物がいた。


 カルミア家の老公爵その人であった。

 仏頂面のまま、拍手をするその人物の姿にまるで導かれるように、人々が拍手し始める。


 最終的には割れんばかりの拍手となったそのことに、女王が忌々しげなことがまた面白くてニュクスは大変満足そうに笑ったのだった。

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