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愛をこの手に、弔い花を捧げましょう~死に戻り王女の幸せな復讐劇~  作者: 玉響なつめ
第二章

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せっかくだもの

 アンネローゼは立ち上がり、女王の裾を掴んでシグムンドを指さした。

 普通の子供でもあり得ない無作法だが、何より貴族たちを唖然とさせたのがそれが女王の溺愛する第二王女という立場にある少女なのだ。


 確かにまだ齢一桁ではあるが、分別を持ち始めてもおかしくない年齢だ。

 王族としてはもっと早くから教育を受けているのだし、第二王女のアンネローゼの年頃には第一王女のニュクスはもっと落ち着いていた。


 確かに華やかさには欠けていたかもしれないが、それでも王女として堂々たる受け答えができる程度にはニュクスが存在を示していたのだ。


(……そこだけはお祖母様に感謝ね)


 同じ教師に習ったはずだが、アンネローゼはすぐに飽きて辞めさせてしまったのだ。

 それ以降、教師はおらず復習の日々であったが――幸いにも今のニュクスは人生三回分の経験が助けてくれる。


 だが、それを差し引いたとしてもアンネローゼの振る舞いはあまりにも愚かで、そしてみっともなかった。


(……あの子、あんなに馬鹿だったかしら?)


 母親のせいであまり接点がない姉妹ではあるが、ニュクスの記憶にあるアンネローゼはもう少しだけ賢く立ち回っていたように思う。

 勿論、賢くと言ってもずる賢い(・・・・)方で、だったけれども。


 アンネローゼを持ち上げるようにして、あるいは両親や傍付きに甘えるようにして、自分に都合が良くなるよう立ち回ることはできていたはずだ。

 それでも自分の欲望に忠実すぎて、最終的には民の血税を宝飾品に注ぎ込み人々の不満を買う一因となったのだけれども。


(ああ、それも私のせいにしようとしたんだったわね)


 次期女王となりたがった第一王女が浪費したのだ、しかし姉は寂しい人なので悪い人ではないのだ……とギラギラと宝飾品を身につけて反乱軍に訴えたのには、あの人生の時ですら笑ってしまったけれど。


(そうね、それを考えたらやっぱり馬鹿だわ)


 ニュクスはそう結論づけて父親に視線を向ける。

 王配としてこの場をどう治めるべきなのか、女王はなんと言うのか。

 シグムンドと辺境伯をこの場から退出させたとしても、アンネローゼの振る舞いはすでにこの場にいる諸侯たちが見聞きしたのだ。


 誤魔化せないこの状況で、女王が第二王女をどう宥めるのか――好奇の眼差しが集まっていることに果たして彼女たちは気付いているのだろうかとニュクスは静かに視線を向けた。


「ア、アンネローゼ落ち着きなさい! これは大事な話なのよ……?」


「ええー!? なんで!? 出来損ない(・・・・・)のお姉様が先に結婚だなんてずるいわ!!」


「ず、ずるくなんてないわ。アンネローゼにはもっといい人をお母様が見つけてあげますから。ね? いい子に座ってちょうだい」


「いーやーよー!」


 ダンダンとその場で足を踏みならすアンネローゼの姿に、流石のニュクスも唖然とした。

 まだこれが三つ四つの幼児ならばともかく、アンネローゼはこの国の王女で、すでに子どもたちの社交場に顔を出せる年齢なのだ。

 あまりにもその振る舞いは我が儘で、幼すぎた。


「あの珍しい色がいいんじゃない! 他の人が持っていないものなら、わたしこそが持っていなくちゃ! この国の全てがわたしのためにあるってお母様言っていたじゃないの!」


(なんて傲慢なの……)


 ニュクスは目を瞬かせる。

 いくらなんでも、言っていいことと悪いことの分別がつかないどころの騒ぎではない。

 その言いようから察するに、女王の普段の言動だって垣間見えてニュクスは自分が思っていた以上にこの王家の、家族の愚かさを知った。


 それはきっと、諸侯もそうだったのだろう。

 愚かは愚かでも、ここまでだとは誰が思っただろうか?


(そりゃあ反乱も起きるわよ……)


 呆気にとられるニュクスや諸侯をよそに、ベアトリスは我が儘を言うアンネローゼを宥めるために大きな声を上げた。


「いい加減になさい! あんな奴隷上がりのみっともない兵士なんてニュクスを与えるくらいでちょうどいいの。貴女はこの国で最も尊い王女なのだから、もっと他にいい人が――」


「陛下!!」


 とんでもない発言にダンテが慌てて王配として口を挟んだ。

 褒美を与える場で、その人物を侮辱するなどさすがに女王がしていい話ではなかった。


 勿論、人間としてもよろしくないことはこの場にいる諸侯たちの眼差しからも伺える。


 ダンテの怒声に我に返ったのか、ベアトリスも周囲の視線に気付いてさっと顔を青ざめた。

 アンネローゼを庇うように抱き寄せる姿は、さすがの母親だとニュクスは心の中で嘲笑して立ち上がる。


 そして壇上を降り、今もまだ無表情に膝をついたままのシグムンドの前に立った。


「若き英雄、私の夫となった貴方の名前を、貴方の口から教えてくださる?」


「……シグムンド、と、申します」


「そう、シグムンド。先程女王陛下が宣誓なさったので、書類はともかく私と貴方は夫婦になったの。よろしくね」


「……はい、王女殿下」


「ニュクスと名を呼んでくださる? 旦那様」


 せっかく妹が暴れ、女王が醜態を晒してくれたこの舞台をニュクスは無駄にする気はなかった。

 そしてようやく再会できた最愛の人を愛でる機会を逃すはずもなかったのである。

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