表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛をこの手に、弔い花を捧げましょう~死に戻り王女の幸せな復讐劇~  作者: 玉響なつめ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/21

これが終わりの始まり

「陛下、かの慰霊祭は大事な行事だとあれほど……」


「だってアンネローゼが熱を出したのよ!?」


「……カルミア公、陛下は娘の病に取り乱してしまったようだ。お優しい方ゆえ……」


(私も娘なんですけど?)


 苦し紛れにそんなことを言うダンテは、ニュクスの傍に膝をついて支えるようにその小さな背に手を添える。

 その仕草だけならば優しい父親そのものだが、ニュクスの心は冷めていた。


 第二王女のアンネローゼの熱に寄り添う母親が優しいのであるならば、何故第一王女のニュクスを扇子で叩くのか。

 ダンテはその矛盾には気付いていないようだった。


 おかしな話だとニュクスは胸の内で呟いた。

 それは老公爵も同じだったらしい。


「そのようですな」


 鼻で笑うような言い方だった。

 それに気付いたダンテが、ハッとした様子でニュクスの顔を見る。


 真っ赤に腫れ、涙が零れている十才の子供。

 まだ幼いと言える少女を打ち据えたのは、他でもない今ダンテが『優しい』と評した女王であり、ニュクスの母親だ。


 ようやくその矛盾に気がついて、カルミア家との関係をより(・・)悪化させる行為、それを補う王女の行動を咎めた失態、しかもそれを老公爵御自らに見られるという大失態。


 女王が責務を放棄したから引き起こしたことだと王配は気付いたが、それでも当の本人が『第一王女のせい』と思っていることはその睨み付ける姿から容易に想像できてダンテもこれがよくない(・・・・)状況だと気付いたのだろう。


 そもそもがニュクスもこれは理解できていなかったことであるが、ダンテという男は政治的センスというものは持ち合わせていなかった。

 教科書通りの事柄は上手にこなせる男であり、王太后は癇癪持ちの娘には惚れて尽くしてくれる男であればまあよかろうと思っていた程度の実力しかない。


 その代わり老公爵やその他貴族たちとは決して仲違いしないよう振る舞うこと、間に立ち頭を下げる役割を厭わずやってくれるその性格を見込んでそれだけは強く言われていた男であった。


 彼は女王に一目惚れしてから努力を重ねた。

 王太后が見込んだとおり、己のちっぽけな矜持よりも女王に愛される夫であるためならばいくらでも周囲に頭を下げ、貴族と王族の緩衝材となるべくその役割を果たした。


 生まれた一人目の子ニュクスが王太后の面影を残すため、妻であるベアトリスが女王の仮面を被っても愛せないと打ち明けてくれた時にはその分、自分が娘を愛してやろうと思う程度には情のある男でもあった。


(どうすればいいんだ)


 しかしダンテは優柔不断な男でもあった。

 情も知能も人並み。

 家柄と努力する才だけで候補として名を連ねることが許され、頭を下げることを厭わないその性格で選ばれただけの凡庸な男であった。


「……お父様」


 腕の中から娘に呼ばれ、ハッとするダンテは緩慢な動作で娘を見た。

 頬を腫らし、涙に濡れた可愛い娘。


 だけれど何より愛した女が睨み据える状況。


 そして蔑ろにしてはならない大貴族の頂点とも言える老公爵の、蔑んだ眼差し。


「お父様、顔が痛いわ」


 顔色を失うダンテに、ニュクスは弱々しくそう言った。

 いい気味だと思っていたがこれ以上は良くないと考えたからだ。


 ニュクスの言葉にハッとしたダンテが慌てて近くの近衛兵を見る。


「医師を――」


「お父様……」


 ふっと倒れ込みそうな演技をすれば、ようやくダンテはニュクスを医務局に連れて行かねばと騒ぎ出す。


(まったく……せめて自分で気付いてくれたらまだ評価もできたのに)


 ニュクスの身を案じ、医師に診せるからと一旦この場を解散させる程度のことはできてくれと心の中でため息を漏らす。

 これ以上この場で騒いで恥を重ねてどうしろというのだ。


 妻と娘、双方の問題を切り離してどちらの名誉も守ろうと動いてくれるならば、父親に愛情も感じただろうし尊敬もできたかもしれない。

 

 そうしたら少しくらい手心を加えた可能性だって出たかもしれないのに。

 あくまで、かもしれない、だけれども。


(だってお父様も、結局私に責任を強いるものね?)


 倒れそうな姿も演技でしかないが、ダンテの騒ぎっぷりにニュクスの大根役者がバレることもないだろうと考えて、彼女はそっと老公爵に視線を向ける。


 老公爵は、彼女を見ていた。

 彼はこの王家の醜態を見て、何を思ったのだろうか?


(ご満足いただけまして? この愚かな喜劇を!)


 ニュクスはダンテの腕の中で、老公爵に微笑みかける。

 女王はいつの間にか、この場から姿を消していた。


 きっと私室に戻ってから大暴れするに違いない。

 使用人たちには申し訳ないが、女王の傍にいる者たちはこぞってニュクスを小馬鹿にしているのだから同情はしない。


(――さあ、これで女王の恨みも買えた(・・・)ことだし、老公爵も私のことを意識してくれたはずね。次は何をするべきかしら)


 終わりはまだまだ始まったばかりだとニュクスはそっと嗤ったのだった。

Q.ここから巻き返す恋愛があるんですか!?

A.あります。第二章でようやくヒーローが出てきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ