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仕事終わり

第2暗殺拠点に転移すると待機していた特殊部隊のメイド達の内の3人が駆け寄ってきた。


「クルト様任務お疲れ様でした。紅茶でもお持ちしましょうか……そちらの可愛らしいお嬢様はどうなされましたか」


俺にこう尋ねてきたのは、特殊部隊のメイド長のメイルだ。


「収容所の奥で実験体にされていた。一応治療魔法をかけたが、不手際があるやもしれん。専門医に見せておいてくれ。それが終わったら食事や服を用意してやれ。それと紅茶にはミルクとはちみつを頼む」


「畏まりました」


メイルが他のメイドに振り返り手を叩く。


パチン


「聞きましたね、今すぐ取り掛かりなさい。解散!」


迅速にメイド達が動く、彼女も屋敷の中へと連れて行かれた。これで問題ないだろう。

そして自室に戻り柔らかい椅子に深く腰を下ろし、紅茶を飲みながら優雅に読書をして当主やセバスの帰還を待っていると、20分程経った頃に扉をノックされる。


「どうした」


扉が開かれメイルが入室してきた。


「当主とセバス執事長がお戻りになりました、『書斎へ来るように』との言伝を預かりました」


「ご苦労だった」


椅子から腰を上げ書斎へと歩き扉を叩く。


コンコン


「失礼します」


入室の許可が降り中に入ると、椅子に当主が座っておりゼバスは当主の横に一歩下がって控えている。


「クルトよ、此度の働きは目を見張るものがあった。我らも見つけれなかった隠し部屋のルートを見つけ少女を救うとは、お前の歳で私にそれが出来たか……いや出来るわけがない。お前はもう立派な国に仕える国士だ。これからも表・裏ともに今後の活躍に期待する」


「お褒めに預かり光栄です、当主」


「今日は疲れただろう、ゆっくり休むといい」


「成長なされましたな、クルト様。今日はゆっくりお休み下さい」


2人の労いの言葉を受けて俺が退出する。そして屋敷へと飛べる転移魔法がある地下室に続く階段へ向かおうとした時、誰かが俺に近寄ってくる気配を感じる。


(あの子は……囚われていた少女か、随分と綺麗になったな。彼女達は可愛らしい人物を見るとつい本気でメイクをしたり服を用意するクセがある。彼女達の色眼鏡にあの少女はかなった訳だな)


つい先程とは別人と錯覚する程に綺麗で可愛らしくなった少女が、まるで小動物のように影に隠れてこちらを見つめている。

俺が彼女に歩み寄ると、驚いた顔をして壁の影から姿を見せる。


「……何で分かったんですか?」


「気配が丸わかりだ」


「あの距離から分かるなんて……」


「何かあったのか?」


「……少しお話がしたくて」


(なら気晴らしの散歩ついでに少し話そうか、聞きたいこともあるだろう)


「分かった、少し散歩をしよう。聞きたい事があれば聞くといい」


そして俺は階段を降り玄関を出て外に出る。寒さの中に温もりが混じった春の夜風を浴びながら庭を散策する。暫く無言の状態が続くが、5分ほどして彼女が口を開く。


「貴方様の事なんて呼べばいいかしら」


「そうかしこまる必要はない、俺が面倒だ。好きなように呼べばいい。敬語もいらん」


「名前は教えてくれないの?」


「影の一族が名前を教えてどうする」


「……そうよね」


少し彼女が落ち込んだ様子を見せてからまた顔を上げる。


「どうしてあそこが分かったの?厳重に隠されてたはずじゃない?」

 

(あんまり部外者に技術を話したくはない、それらしい理由をつけるか)


「壁に切れ込みがあったからな」


「そうなのね」


「何で助けてくれたの?」


「俺は国に仕える者だ、それに可愛らしい少女が目の前で悲鳴を上げてる状況で助けない奴は居ないだろう。そんな奴がいたらそいつは人ではない」


「! そっ、そう……」


俺は花壇に近づきじょうろを手に取り花に水をやる。


(トリカブトをこっそり育ててみたが、中々いい育ち具合だ。〈創光《リライト》〉で作った肥料が効いたのだろう)


「……ねえ、私が何であんな事になったのか知ってる?」


「それを聞いてどうする」


「何となく貴方なら知ってそうな気がしたの。それに気になるわ」


(自分の嫌な記憶をわざわざ掘り返すような事を聞くとは……心が強いな)


「話すと少し長いぞ」


「ええ、お願い」


俺は水やりを終えて立ち上がり、少し歩いて噴水の縁に座る。


「お前の身体に刻まれていた『聖滅の呪紋』は魔王が『破邪の四英雄』を呪ったから出来たもの、という王家の発表は知っているか」


「そうなの?私長い間外界に触れられなくて知らないわ」


「そうか、なら少し説明をしよう。彼等『破邪の四英雄』は個々が凄まじい力を持っており長年劣勢だった人類と魔族や魔物との戦局をひっくり返した。それして彼らはついに人類の悲願、魔王討伐を成し遂げた。だが奴は最後の置き土産に最悪の呪いを残した。彼らの遺伝子……血筋に強力な呪いを掛けたのだ」


「成る程ね、確かに一族を根絶やしに出来る合理的な作戦だわ」


「しかも奴は態と時間が経つ程強くなる呪いにした。そのおかげで当代達は天寿を全う出来たのだが、代を重ねて血が薄れ更に呪いが強固になった。そのため呪いを抑えきれなくなり子孫達は早くに衰弱する謎の病で床に伏していく。これを表の人間は『治せない奇病』と決めつけ忌み嫌い、これを知る一部の人間は君達の身体にある英雄の血筋と魔王の呪いを『最高の研究材料』として非道な人体実験を繰り返し巨万の富を築いている」


(表の人間が奇病と断じたのには魔王教団のプロパガンダやその時に起こった世紀の大飢饉も原因ではあるのだが……流石にそこまで知ってるのは変だ。言う必要はないだろう)


「そんな……」


彼女は奥歯をグッと噛み締める。


「だとしたら……許せない!」


彼女から辺りを凍らせる純白の大魔力が放出される。


(流石は『英雄』の子孫と言ったところか)


「これが最近王国によって公表された『聖滅の呪紋』の真実だ。とはいえ今までの差別意識を急激に無くすのは難しく王国でも差別はまだ残っている。それでも他国と比べるとマシだがな、他国ではいまだ秘密裏に人体実験などが行われている。だが朗報もある、王国に並ぶ『四大国』の一角『セイル法国』が王国の『聖滅の呪紋解放プロジェクト』に参加を申し出た。これにより治療法の研究が急激に進む、じきに見つかるやもしれん」


(因みに王家が動いたのは当主の調査によって明らかになった事実を知った国王が憂いて改善したからだ。当主、万歳だな)


「希望はあるのね……嬉しいわ。私と同じ経験を他の子にもさせたくない」


「法国は世界でも珍しい清廉潔白で心優しい民の集まりだ。この事実に居ても立っても居られなかったのだろう。教会のエリート神官や『聖女』も協力しているのだと」


「そうなのね……」


「そして呪紋が出るのは良くも悪くも才能の証でもある」


「どういうこと?」


「血が濃ければ濃いほど同等の量の呪いを受け継ぐからだ。お前の両親は健康だったろう」


「……あまり嬉しくないわね」


「説明は以上だ。どうだろう、お気に召してくれたか?」


(嘘を付く必要はないし王家の発表となると直ぐ調べが付くから嘘をついてもバレる。つまりこれは本当の事……)

 

「ありがとう、十分理解できたわ」


「そうか、ならよかった。頑張って生きろ、応援してるぞ」


(話も終わった、屋敷へ帰ろう)


そう考え歩き出そうとしたのだが、彼女に服の裾を引っ張られる。


「……私、貴方に付いていくわ」


「……何故だ」


「貴方には大恩がある、手駒でも何でも使ってくれてもいいわ」


(……俺にもメリットは有るな。家の諜報部隊を動かすには当主の許可が必要だが、自分専属の諜報部隊があればそんな事せずにすむ。なら育ててみるか)


俺は0.1秒で纏め結論を出す。


「悪くない提案だ、いいぞ」


「本当!ありがとう!」


「なら名前を名乗っておこう……そうだなライトでいい」


(まだ本名を名乗るわけにはいかないからな。〈創光〉から光(ライト)は少し単純すぎたか?まあいいだろう、難しくする必要もない)


「分かったわ、ライト」


「君のことは何て呼べばいい」


「私は……貴方に名前をつけて欲しい」


「いいのか?かなり大事だが」


「私を売った両親の名前など使いたくない」


「そうか……ならスノアでどうだ」


(夜月の光に反射するプラチナ色の髪は札幌で見た銀世界のようだ。そこから雪《スノウ》をもじった名前にしたのだが……気に入るだろうか)


「スノア、スノアね。うん、いい名前ね。ありがとう!」


彼女は咀嚼するように名前を呟き満面の笑みを見せる。


「気に入ってくれたようでなによりだ、これからよろしく」



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