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初任務

『天啓の儀』を受けて講義に魔力・魔法関連が追加され更に忙しくなったが、魔法も形になってきて更にクルトとしての実力も急激に成長した。流石成長期、成長力が違う。


キュ……


「中々の出来栄えになったな」


そして俺は今、自分で一部改造した鶯張り(うぐいすばり)の床を音を極力消して歩く訓練をしている。記憶にはあるがこの身体はそうではないからな、夜や手の空いた時間はこれをしている。反射的に動けるまで身体に叩き込む。

そうして部屋を改造して作った忍びトレーニングギミックでこの身体にも技術を染み込ませていると、部屋の扉をコンコンと叩かれる。


「どうした」


扉を開けると目の前にはメイドのスフレが立っていた。


「旦那様から『書斎に来るように』との言付けを預かっています」


(任務か、原作通りの日程だ)


「分かった、ご苦労だったな」


そして書斎に向かい入室する。


コンコン


「失礼します」


「入るといい」


すると椅子にお父様が座っており、横にはお父様直属の執事であるセバスが控えている。



(情報(ゲーム)のCGと同じだな)


「クルトよ、お前はこの日までサボらず日々鍛錬に精進し実力を大いに飛躍させた。ご先祖様もさぞ喜ばれているだろう」


「恐縮です」


そして父上が言葉を溜めて——告げた。


「——そこで本来ならば15歳からだが、初任務を与えようと思う。任務内容は魔王教団の所有している地下収容所、そこに囚われている人を救出する事だ」


「承知いたしました」


「1時間後に出る、準備をしておけ」


当主に茶封筒を渡された。地下収容所の間取りなどが入っているのだろう。


(初任務だからか、余裕持って渡されたな)


急な任務だと10分程の猶予しかない時もある。それに比べるとマシだな。


そして自室へと戻り準備を終えた。


(この世界での任務は初めてだ。幸先を良くするためにも、完璧に救出(クリア)しよう)


ーーー


一時間後、予定通り出発し、今は地下収容所のあるアジトが見える付近の山にいる。

当主、俺、セバス一人一人が双眼鏡を覗き込み、アジトを観察している。

そして一通りの偵察を終え、双眼鏡を下ろし当主との最後の簡潔な打ち合わせに入る。


「我らが正面から入る、お前は裏口から入って救出しろ。裏口には三人見張りがいるが、問題ないだろう?」


「勿論です、当主。当主もセバスもお気をつけて」


「ああ、お前も気をつけろ」


「クルト様もお気をつけて」


2人が木から飛び降り、闇に溶ける。それを見届けた後俺は山を駆け抜け裏口に回る。


(ふむ、このへんでいいだろう)


俺は自作の魔導具『ぐるぐるくん』を木の裏に設置し、ワイヤーを持ったまま木の上に音を立てずに飛び乗る。顔に仮面を付け魔力を消し、音を殺して、気配を断ち、生きるのに最小限の心臓の鼓動と呼吸に抑え待つこと1分。


(さて、もうそろそろ来るかな)


その時俺の腰元の小型魔導具が振動する。


(来た……)


俺は音を立てずに木から飛び降り、そのままの勢いで護衛たちに突っ込む。


「コエッ!!」


一人目の喉をナイフて貫く。


「ぐきゅぅぅ……」


2人目の首にワイヤーを掛け腰元のスイッチを押すと、ジジジ……という駆動音が微かに鳴る。『ぐるぐるくん』によりワイヤーが巻き取られ奴が宙吊りになる。頚椎骨折と窒息死。


「何も……カハッ」


喋る前に脳天に投げナイフを投げ込み刺殺。そして俺の足元には3人の死体が転がった。


(さて、中に入ろう)


護衛から鍵を奪い取り魔導カメラの死角や気配を断ちながら中へと侵入を果たす。


(中々慌ただしいな、恐らくは当主とセバスが暴れているのだろう)


『非常にやりやすい、感謝せねば』、そう考えながら地下へと下っていき、遂に収容所にたどり着いた


(これは酷いな)


着いた瞬間鼻腔を突く強烈な腐敗臭と刺激臭がし、檻の中には痩せこけた人々が苦しそうに唸っている。


「もう大丈夫だ、辛かったな」


最初は『信じられない……』や『幻覚か?』といった顔をしていたが、俺が人々を解放して行くのを見て信じてくれた。皆口々に感謝の言葉と涙を流していた。そして全員を解放して一箇所に集め転移石を使用し全員を暗殺拠点用の屋敷、今回は第2エリアにある屋敷に送り届けた。俺達は闇から王国を支える影の一族、正体を知られるわけにはいかないからな。後は待機している特殊部隊が世話をしてくれるだろう。


「もう居ないか」


俺が収容所を歩き回り最終チェックをしていくと、俺の五感が違和感を捉える。


(ここだけ空気の流れがおかしい、この壁……擬態か)


収容所の黒い壁を押すと奥に開き、中には廊下が続いていた。


(ふむ、報告書にも原作にも無かったはずだが……いや、原作のギミックにあったな。本編に関わらないから忘れていた)


そして廊下を歩いていくと苦悶の声を張り上げる俺と同年代くらいの少女が、ボロい手術台のような物に横たわっていた。よく見ると四肢を拘束されている。


(見るに違法人体実験と言ったところか)


彼女に近づくほど悲痛な声が耳を貫く。


「あ゙ぁ゙ぁ゙ッ!!」


大声を張り上げていた彼女が俺の接近に気づいたらしい。こちらを見て、喉から血を流しながら苦し紛れに言葉を紡ぐ。


「お……おね…がい、こ……ろ……して」


(ふむ、かなり追い詰められているな) 


彼女の腕には注射痕が幾つもあり皮膚が緑色に変色している。恐らくは鎮痛剤や魔力吸収剤、血を抜き取られすぎたからであろう。


(ならここらで治癒魔法を試してみるとしよう)


この世界の治癒魔法は魔法と言うより技術で、地球《元の世界》で言う手術に近い。これを発動するには人体への深い理解と高度な魔法技能が必要だ。ただ俺は魔法と勉学の英才教育も受け、更にはお母様が一度治癒魔法を使っているのを見た。それがあればこの天才的なスペックを誇るクルトに、俺の才能が合わされば最早出来ないほうが可笑しいだろう。


(確かお母様はこうしていたな)


まず俺の魔力を彼女に同調させ身体の細胞一つ一つに染み込ませていく。これで身体中の病原菌の発見や殺菌を出来る。


(ふむ、見たところ打撲や骨折挙句には内臓への損傷もある。このままだと時期に死ぬか)


そして同調させた魔力を今度は細胞や組織へと作り変え、そして魔法糸で縫合していく。損傷した内臓や細胞は魔力により強化して自然治癒力を活性化させて治していく。


(成る程コツが掴めてきた)


徐々に俺は速度を上げ「再生」、「治癒」、「縫合」それらを同時に進行していく。彼女の荒い呼吸が規則的な呼吸へと変わり肌や顔色に血色が戻っていく。それから僅か5分後には完全復活を遂げた。

口をパクパクして茫然としている彼女を横目に、俺は彼女の右肩に見つけた『聖滅の呪紋』へと思考を深めていた。


(彼女は英雄の末裔だったか。身体が丈夫、それに加え強い固有魔法を持っている事が確定している。それに加え社会的地位も低く、差別の対象だから『聖滅の呪紋』持ちはよく実験体にされる。魔王教団は固有魔法を奪い取る実験をしていて原作にもそのような記述があった……だが『聖滅の呪紋』はついでに無効化しておいた、これで苦痛に悩まさず、自由な人生を過ごせるだろう)


「嘘……私の体が動く……しかも痛くない」


すると横で呆然としていた彼女が我に返ったのか、動く手足を見てからこうポツリと呟く。


「色々聞きたい事があるけど……まずは、ありがとう」


彼女が満面の笑みで微笑む。血色が悪く分かりにくかったが、かなりの美少女だ。将来は男泣かせになるだろう。


(転移石はまだ一個ある、俺と彼女を転送させれるな。なら当主とセバスに連絡をして撤退するか)


小型魔導具を取り出しボタンを押す、これで連絡が行っただろう。


「別に気にすることはない、それよりも安全な場所に送ろう」


一瞬疑念の視線を向けてくるが、俺の態度などを見て信用してくれたのだろうベッドから降りて歩み寄ろうとしてくる。

とはいえ流石に回復したてでは足元がおぼつかず倒れかけた、だが俺が華奢な彼女を胸で抱きとめる。


「あっ……」


彼女の美しい顔が急接近する。何やら顔が赤いが……病み上がりだからだろうか?問題無いだろうが、念の為迅速に戻るか。証拠の回収や隠滅は特殊部隊に任せるとしよう。

そして地面に転移石を叩きつけ辺りに眩い光が溢れ、それが消えた頃には俺達はもうそこには居なかった。


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