憑依
「僕が管理する世界は君の世界ではゲームとして存在してね、このゲームを元にこの世界は生まれた。……問題はこのゲームには悪役貴族がいてね、そいつに君の世界の者が転生したんだ」
神が先程との雰囲気と一転して真剣なトーンで語り始める。
「しかもその者はこのゲームの廃プレイヤーで、あらゆる死亡フラグを熟知している。更にそいつは『原作知識』を用いて粒粒辛苦を重ねて鍛えている。その悪役貴族のスペックは余りに高い。そのため死亡フラグを全て踏み倒し、勇者すら余裕で乗り越える化け物になるだろう。そうなるとゲームとこの世界の均衡が取れずこの世界が滅ぶ、だから君にシナリオに出来る限り沿って彼を殺してほしい」
「…理解した、だが俺も元の生活がある」
「それについては心配いらないこっちの世界の70年は向こうの世界で7秒だ。依頼達成後はこの世界で好きにすればいい。もし帰りたければ世界に記憶は取るけど、ちゃんと帰すよ。どうだろうか」
「俺にデメリットは特に無さそうだな…」
(俺もこういうのには憧れがある、それにやり甲斐もありそうだ。俺の任務も誇りもあるしやり甲斐もあるがせっかく鍛えた技術も3分の1しか使わず任務を達成してしまう、だから燃える任務をしたいとは思っていた)
「最後に1つ、失敗して死んだらどうなる」
「魂がこの世界での記憶を失って君の世界に戻るから死にはしないよ、死ぬ程痛いとは思うけど」
「…この依頼受けさせてもらおう」
「おお、そうか契約成立だね受けてくれて嬉しいよ。ただ1つだけ言っておきたい事がある」
彼の顔が大真面目なものに変わり自然と俺も気が引き締まる。
(何だそんなヤバいことなのか?)
「『死ぬ程痛いよ』って言ったんだから『そりゃあ死んでるからな』ってツッコンでくれよ」
コケッといきそうになるところを騎馬選手を凌ぐ体幹で踏み止まる。
「……俺の緊張を返せ」
「もうちょいテンション高く『何やねんそれ!』って言ってくれよ〜。じゃあ今から転送するよ、ゲームのストーリーは送っておくから」
(神様にもお笑いの概念はあるのか)
そして俺は渦に巻き込まれたような感覚を覚え意識が薄れていく。
(裏社会で累計444人暗殺したが、次の依頼がまさか無双転生者の暗殺とはな)
ーーー
そして目が覚め手を握り開くを2、3回繰り返し、あたりを見渡すと天蓋付きのベッドや学習机と本棚、クローゼットに鷹の止まり木などの家具があり部屋の隅には扉がある。一見普通だが俺はそれに違和感を覚えた。
(あの扉の辺りから火薬の匂いがする)
俺は扉に近づき服のポケットにあった鍵を使って開ける、中は作業台の上に車や電車の模型がある。だがオイルの匂いに紛れ火薬や草の匂いが漂ってきて俺は理解した。
(やはり俺が憑依した者は殺し屋だ、とすると何があるのか)
そしてその部屋にあった資料を探していると突然頭に鈍い痛みが走る。
「ぐっ」
しばらくして痛みが引くと頭に音声が流れる。
(ハロハロ〜少し痛かったかな?今の痛みは僕が送った君が憑依した者の情報とゲームストーリーだから目を通しておいてくれ,それじゃあまた)
音声が終了し俺は記憶を呼び起こしてみると憑依した者の情報が浮かび上がってきた。
(名はクルト・ロテリー・ダクラス12歳、四公爵の1つでラピス王国の暗部を代々請け負ってきた名家らしい。クルトはかなりの才能があるらしく歴代最強になるとまで言われていて力に溺れていたが、俺の標的であるグラト・ロウ・ブラッテリーに先月の武闘会でボコボコ+罵詈雑言をうけ引きこもってしまったらしい。ただ1ヶ月後に父親に諭されてそこから持ち前の才能を発揮し歴代最強になる…固有魔法は創世級創光で、使える属性魔法は全てらしい)
「そういえば今何月だ」
そして時計を見てみると聖暦997年5月3日と書いてある
「ん?確か武闘会は4月3日…」
すると自室の方の扉が叩かれる。
「クルト様旦那様がお呼びでごさいます」
執事の声が聞こえ急いで扉の前に立つ。
(引きこもりだからな、少し演技)
「行かない」
「どうしても伝えておきたい事がある、との事です」
「……分かった、行こう」
そして扉を開けて執事についていく。
すれ違う使用人が驚いていた。
(まさか一ヶ月部屋から出てなかったのか)
歩きながら屋敷の構造を覚えていく。
(こいつの父さんか…どんな人だろうか)




