第72話 広がる
「ということで! 話は色々あるけれど。ようやくここにたどり着いたお二人さんに、まず、アレを見せましょう!」
アレって何……って、思いながらも、連れて行かれたのは……。
広がる水田。
山あいの棚田。
どこまでも青く高い秋の空。
黄金色に輝く稲穂の美しくも懐かしい光景。
そこに雀が飛んできて……。
日本の、都会はともかく、田舎に行けば見られる当たり前の水田の風景。
だけど、この異世界で、実り、頭を垂れる稲を見られるとは……言葉が出ない。
ラインシュ王国を出発して、ファルギエール王国、マラブル国、プールナール国、ラバス国、ルニエ国、アンクタン国……。そして、到達した極東国。
遂に……、遂に……出会った……。
「田んぼが……、広がっている……」
「すごい……」
わたしとナイジェル様は茫然と見ていた。
秋の、収穫間近であろう、太陽の光に照らされて、金色に輝く美しい田んぼを……。
わたしたちを田んぼに案内してくれた極東国の人たちが自慢げに笑った。
「すげえだろ?」
「はい……」
頷く以外、できることはなくて。
「まあなー、ここまで来るのには先人の苦労があったっつーか」
「そうそう。異世界転生なんてさせられて。それはいいんだけど、流行りだし」
「でもなあ、最初は物珍しくても、やっぱ、日本人は蛇口捻れば出てくる綺麗な水と米なしでは生きていかれないのだ!」
まったくもって完全同意だけど。
「で、米を食わせろって、さあ。極東国を作ったんだよ、むかーしの日本人転生者が」
え、ええええ⁉
日本人転生者が、極東国を作った⁉
そんなにたくさんいたの? 日本人転生者が……。
あー、でも。わたしにナイジェル様。出会えはしないかったけど、カイエン男爵のおじい様とか……。
探せば、この世界にまだまだに日本転生者、いそうよね……。
「あ、あの……、極東国の皆さんも、全員元日本人なんですか?」
「うんにゃー。日本人転生者もいれば、その転生者の子孫もいるわ」
あー……、つまり、子孫ができるくらい、前から何人もの日本人転生者がいた。
それで、そのうちの全員ではないけれど、米食いたいという情熱で、この極東国を作った……って、認識で、いいのかな?
「俺たちの先輩たちは米を求めて苦労した。運よく米の……えーと、弥生時代とかそのあたりな感じの米の原種があってだな」
「それを育てて、品種改良を繰り返し」
「今! ここまで! コメを作った!」
す、すごいわ!
先人たちに敬服してしまう!
「転生チートもいいよ? 美容液だのマヨネーズだの作って儲けるのもだいご味だけどさあ」
「それな! 異世界転生の女神とかがいるかどうかは分かんないけど。日本人を異世界に転生させるなら米も用意しておけってーの!」
分かる。分かってしまう。
そう、異世界に行くなら米は必須! どんなご都合主義でもいいから米食わせろおおおおおおぉって気分になるのよ!
極東国の人たちの言葉に、わたしもナイジェル様も頷きっぱなしよ!
「さあ! というわけで! 案内と説明をしている間に米が炊けた!」
な、なんですと⁉
今、米が炊けたと言いましたか極東国の人⁉
「新たに極東国に到着した元日本人にはまず米をふるまえ! それが極東国の掟だ!」
ふおおおおおおおお!




