第70話 行き方
「これはまた……、慰霊碑とか……、石碑みたいですね……。えーと『扉を開いてマイクを取り出し歌を歌え』ですか……?」
「マイク……?」
ナイジェル様がわたしと似たような感想を抱いている。だってねえ、台石を二つ重ねた上に細長い石乗っていて、全体的に縦に長く背が高い石なんだもの……。
高さも一般的なお墓の石と同じくらいだし。あー、お墓じゃなさそうだから、記念碑とか言ったほうが良いのかな?
と、それはともかく。
その記念碑的な石の下には確かに扉があった。
開けてみる。
……なんて言うのか、コードがついているマイクの形をした石があったわ……。
「何これ?」
「形はカラオケでよくあるマイクのようですね……」
「マイクに家電のコードみたいなのがついていますけど」
「石に繋がっているところを見ると、盗難防止でしょうかねえ」
「あー……なるほど?」
で?
これをどうしろと?
「歌を歌え……。何の歌を?」
船着き場にいる人たちが「歌をなあ、歌っても、別に何にも反応しねーんだよ」って、教えてくれたけど……。
歌……、歌……って、あれ?
「もしかして、東の聖楽……?」
「トリクシー、何かご存じですか?」
ずっと前に。ラフェドが我が家にあるパイプオルガンを弾いて。
で、興が乗って、
さあ、行くぞっ! ジャパニーズポップスメドレー!
……って感じに、テキトウに日本の流行歌を繋げて歌ったのよね。
そうしたら、ウチのお抱えの楽団員が「東の聖楽と似ている」って言っていた……。
聖楽イコール日本の流行歌?
だとしたら、どの歌? 何千曲、いや、何万曲もあるでしょ?
「えーと、とりあえず、こっちの世界には東の聖楽っていうのがあるらしいんです」
「ほう」
「それ、日本の流行歌に似ているみたいです」
「流行歌?」
「ジャパニーズポップ。アニソンとかもアリかな……」
「では、試しにちょっと歌ってみましょうか」
ナイジェル様がマイクを手に「あーあーあー」とか言ってから、日本人なら誰でも知っているようなというか、流行時にはコンビニとかで何十回も繰り返して流れてるような歌を歌いだした。
そうしたら。
ふっと、ナイジェル様の姿が……消えた。
「え、え、ええええええ⁉」
わたしもエリンも護衛や侍女も。船着き場にいた人たちも、茫然。
いや、いくら魔法のある世界でも、テレポーテーションなんてできないわよ⁉
わたしがしらないだけで、あるの?
でも、わたしのお兄様とか、魔法的には最高峰のはずの、魔法省のに勤めていた魔法使いさんたちが、ラインシュ国にはたくさんいるのよ? テレポーテーションとか空間移動とか、そんな魔法が使えるんなら、とっくに披露しているでしょう⁉
護衛たちが慌てて、石碑の周りを見て回っているけど。
いくら見てもナイジェル様は居ない。
ただ、ナイジェル様が手にしていたはずのマイクが、床に落ちているだけ。
わたしはふらふらと石碑に近づいて、マイクを手にして……。
「トリクシーお嬢様! 危険です!」
エリンの制止も聞かず、日本の流行歌を歌いだす……。




