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転生悪役令嬢はお茶漬けが食べたい【長編版】  作者: 藍銅 紅@『お姉様はずるい』コミカライズ連載中


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第63話 黄金色のお出汁は……

ホカホカ炊き立ての麦飯。野菜のかきあげっぽい天ぷら。梅干しならぬアンズー干し。

そして……。


「こ、これは……、この黄金色のスープは……、カイエン男爵領のお出汁⁉」


まさか、ナイジェル様、天ぷら茶漬けを用意してくださった⁉


「麦飯に出汁をかける前に、こちらのスプーンでどうぞ味見を」


味見ということは、きしめんのだし汁とは違うのかな……?


「ありがとうございます。いただきます」


そっとひとさじ、言われたとおりに味見をする。


「ん? んんんんんんん?」


香りは、カイエン男爵家の削り節のお出汁のそんなに大きくは変わらない。

お吸い物のような綺麗に澄んだお椀の汁的な感じの……。


でも、これは違う。

舌に感じるのはまず深み。

カイエン男爵家のお出汁に、何か……、もっと、こう……優しく広がるまろやかな旨味だけではなく、深みが加わっている……。

なんだろう?

濃厚でコクのある旨味……。


そう、カイエン男爵家の削り節は、おいしいんだけど、たとえて言うのなら「薄い鰹節味」なのよね。製法なのか、魚の種類がカツオでないからか、日本のカツオ節と比較すると七割くらいの味の薄さ。そこに香味野菜やらなんやらを加えてお出汁を作っているからこそ、おいしいんだけど……。


今、ナイジェル様がわたしに出してくれた、このお出汁は……。


わたしが不思議そうな顔をしていたからか、ナイジェル様は自慢げにニッとお笑いになった。


「カイエン男爵家の出汁に、魚醤を数滴、加えてみました」

「え⁉ ナマズ魚醤⁉」


もう完成した……はずはない。

魚醤って、完成に半年から二年はかかるはずでしょう⁉

仕込んだのは、あの卒業パーティの一か月後あたりだった。で、今は梅を収穫して梅干しを作って……。ええと、もうすぐ半年近くにはなるけど……。

こっちの世界……というか、ナマズ魚醤は半年もかからず完成するの⁉


「サンプル的に、小鍋に半分ほど、ナマズ魚醤の未完成品を取り出しまして……」

「未完成品……」

「ええ。醗酵途中のものすごい香りがしましたが……」


それ、香りじゃなくて、臭い匂いでは……。


「その醗酵途中の液体を鍋でそのまま煮詰め……」

「待って下さい、ナイジェル様。腐り途中の半醗酵物を煮るなんて……」

「安心してください。エリンさんにご助力いただきまして、鑑定済みです」


あ、ならば、腐っているのではなくて、醗酵しているだけで、食すことができるというお墨付き。

やはり、エリンは手放せない……! お給料、上げようかしら?


だけど、調理場に、腐った臭いが充満したのでは……。


「恐ろしい匂いになることは予想されていたので、野外で焚火を起こして煮詰めました」


あ、そ、そうなのね?


野外ならセーフ?

人がいなければセーフ?


でも、煮詰めている最中は近寄りたくない気がする……。


「煮詰めて、冷やした後、布で濾して、不純物は……土に埋めました」


埋めるほどに……腐った臭いだったのかしら……? ぶるぶる震えそうよ……。ナイジェル様が遠い目になっているし……。よ、よほどの臭気が……。おおう!


「しかし、煮詰めて冷やした後のナマズ魚醤は……」

「ナ、ナマズ魚醤は……?」


何故だか心臓がドキドキバクバクするわ……。


「やはり、ナンプラーにも似た……、たとえるのなら、中年男性が丸一日履いた後の靴下のような香りがしたのですが……」


ナイジェル様、それ、悪臭! まさに腐った魚の醗酵臭! 


ナマズ魚醤、失敗か⁉

い、いやいやいやいや、まだ発酵期間が短かっただけよ! あと半年、いや、一年! ふたを開けずに熟成させてみれば何とか……。何とか……なるかしら?


しかし、ナイジェル様は拳を握って語り続けています。


「しかし、まだ試合終了ではない! とですね、カイエン男爵家の出汁に、このナマズ魚醤を煮詰めたモノを数滴……」

「数滴って……、投下しちゃったんですか⁉」


思わず聞けば、不敵な笑顔になったナイジェル様が、握った拳を天井に向けて、掲げるように突き出しました!


「ええ。結果、私は戦いに勝利いたしました……!」


な、何と⁉

それでできたのが、今、わたしが味見をした、このコクのあるお出汁……!


カイエン領に居た際に食した、あのコノシロに似た魚の天茶漬け。あそこに醤油が欲しかった……。


醤油を加えるのではなく、天茶漬けのお出汁を、この、今、わたしの目の前にある、ナイジェル様が臭気と戦って勝利したこのスープをかければ……。


「ということで、魚醤は無理やり煮詰めたもので、純正な完成品ではないのですが」

「いえいえいえいえ! 醗酵臭と戦って勝利した、素晴らしき一品ですよ!」

「そう言っていただけると嬉しいですが……。ですが、この出汁だけでは完成ではありません」


んんんん? 未完成?


「魚の天ぷらが用意できず、野菜のかきあげになりましたが! 天ぷら茶漬けです! どうぞ、出汁があたたかいうちにご賞味ください!」


で、では……、いただきまーっす!

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