第53話 婚約者(仮)
ゆっくりと愛を育みましょう……ということで、改めて交流なんですが。
ええとー。日本でだったら恋人同士として向き合うって感じですね。
でも、こっちの世界だと。
……家同士の繋がりとなり、婚約には親の承諾が必要です。わたし、これでも一応は侯爵令嬢だし。
身分的にはナイジェル様は平民だけど。まあ、それは問題にはならないかなー。いや、どうかなー?
……こういう時にはお兄様に相談です。
「ギュンターお兄様! 相談です!」
「んー? どうしたトリクシー? トリクシーもナイジェルもキーシメン貰うー?」
カイエン男爵家の食堂で、きしめんを食していたギュンターお兄様に突撃しました! 周囲に漂うほのかな出汁の香り。日本人の食欲を刺激します……。
「あ、はい。きしめんは食べたいですけど。そうではなく!」
「んー?」
フォークで掬っていた麺を、お兄様はつるつるとお食べになります。ああ、美味しそう……。お腹が鳴りそう……って、そうではなく。
「あのですね。わたしとナイジェル様が結婚したいって言ったら、お兄様どうします? お父様とお母様はどう思われるでしょうか?」
つるつると食べていた麺を、ごっくんと飲み込んでから。
「あー、いいんじゃない? 父上も母上も反対なんてしないよー」
へらりとお笑いになる。
「いいんですか? ホントに?」
「えーと、ナイジェルが平民ってこと気にしてる?」
「はあ、まあ。わたしは身分は気にしませんが、お父様とお母様は……」
「どうせ侯爵位なんて返上……ってか、国王になるでしょー」
「……とすると、わたし、王女になっちゃうんですけど」
平民と王女。ますます婚姻なんて難しいよ、この世界では。
「べっつにー? ナイジェルとか魔法使いの功績で、身分作っちゃえばいいだろー?」
思考回路がわたしと似ているかも……。まあ、兄妹だしねえ。
「魔法伯……、ええと、魔法使い全員一律魔法伯っていうのは駄目か……。 上級とか中級とかランク分けして、ナイジェルは上級魔法使いでどうかなー?」
「どうと言われましても……」
「えーとねー。たとえば上級魔法使いは侯爵相当、中級魔法使いは伯爵相当、下級魔法使いは子爵相当にして、土地の所有はないけど、身分は保証とかにしてさー。上級は侯爵相当だからトリクシーとの縁談は大丈夫ー」
わー……。国を興すんだから、身分なんて好きにできるって感じですねえ……。
「地位の設定が面倒なら、ウチが独立するときに、ナイジェルに適当に功績立ててもらえばいいよー。そんで、褒賞的にトリクシーを娶るとかでもいいんじゃないのかなー?」
ナイジェル様は「なるほど……」と呟いて。そして。
「そうですね。サクッと功績を立てて、改めて求婚いたしましょう」
か、簡単に言うけど……。大丈夫なの?
じーっとナイジェル様を見れば。
ナイジェル様は不敵に笑う。
「平民が貴族になるには戦争で功績を立てるのが一番の近道なんですが」
な、ナイジェル様! 戦争って……。待て待て待て待て、平和主義の日本人の思考はどこに行きました⁉
「そーだねー。戦争までは行かなくても、ウチが独立するときサクッと内乱モドキを起こしてー」
「私がペガサス軍団でも作って、複数いるペガサスたちに王都に先行してもらい……」
「そーだねー。ペガサスに国王陛下やあの阿呆王子たちを踏みつけておいてもらえればー、無駄な血を流さずにー、さっさと独立できそうだねー」
ぶ、武力で独立を認めさせると。
独立を認めてくれないと、むっきむきのペガサスで踏み殺しちゃうよ☆って脅すんですね……。魔法使い、怖い……。
ふっふっふ……とお笑いになるナイジェル様とギュンターお兄様。
……仲良しだなあ。
えーと。一応、フォルカーお兄様たちにもお父様やお母様にもお手紙を書いて。二つ返事で了承いただいて……。
わたしはナイジェル様と婚約を結ぶことになりました。でもまだ正式なものではなく(仮)ですけどね! 我が家の独立後、正式に婚約よ!




